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流し雛(びな)は月の下で  作者: 転生新語


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プロローグ

 縁日(えんにち)と祭(まつ)りの違(ちが)いについては、よく知(し)らないけど。今夜(こんや)の私が二人組(ふたりぐみ)で参加(さんか)しているのは、縁日(えんにち)というものに該当(がいとう)するようだった。どちらも屋台(やたい)の出店(でみせ)があって、ぶらぶらと歩(ある)き回(まわ)れるイベントだ。特(とく)に東京(とうきょう)は、そんなイベントが多(おお)いのである。


 日本人(にほんじん)はお祭(まつ)り好(ず)きと言(い)われるけれど、確(たし)かに私も彼女(かのじょ)も、こういった催(もよお)し物(もの)には心(こころ)が惹(ひ)かれるのだ。遺伝子(いでんし)レベルで、お祭(まつ)り好(ず)きの国民性(こくみんせい)が受(う)け継(つ)がれているとかいうけど、あれは本当(ほんとう)かもしれない。心(こころ)の奥底(おくそこ)に刻(きざ)まれた行動(こうどう)原理(げんり)とは、抗(あらが)いがたいものなのだろう。


「秋(あき)になって、夜(よる)は涼(すず)しくなってきましたねー。縁日(えんにち)びよりです」


 前(まえ)を歩(ある)く彼女(かのじょ)が嬉(うれ)しそうに、そう言(い)う。私も彼女(かのじょ)も浴衣(ゆかた)姿(すがた)で、桐(きり)下駄(げた)で歩(ある)いていた。


「十代(じゅうだい)の頃(ころ)は、こんなものを履(は)いて歩(ある)くなんて、考(かんが)えもしなかったな。そう思(おも)わない?」


 彼女(かのじょ)の背中(せなか)に、私は話(はな)しかける。昔(むかし)から知(し)っているけど、今(いま)は更(さら)に美(うつく)しくなった。夜(よる)の月(つき)は彼女(かのじょ)を照(て)らすのに最適(さいてき)の明(あ)かりだ。昼(ひる)には絶対(ぜったい)に現(あらわ)れない、独特(どくとく)の美(び)が彼女(かのじょ)にはあった。


「もう。まだ私は、大学(だいがく)一年生(いちねんせい)ですよ。ぎりぎり十代(じゅうだい)ですから」


「そうか。言(い)われれば、そうだったね。私より五才(ごさい)、下(した)なんだっけ」


 私と彼女(かのじょ)は、別(べつ)に恋人(こいびと)同士(どうし)ではない。だから互(たが)いの誕生(たんじょう)日(び)も覚(おぼ)えていないし、祝(いわ)い合(あ)ったこともなかった。だけど一生(いっしょう)、私たちは互(たが)いに執着(しゅうちゃく)しあうのだろう。そんな予感(よかん)があった。


「屋台(やたい)でなにか買(か)いましょう。りんご飴(あめ)が食べたいです、私」


 年下(としした)の彼女(かのじょ)が、すたすたと一人(ひとり)で歩(ある)いていく。無防備(むぼうび)な背中(せなか)を私は見(み)つめていた。

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