↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/27

10 .困難は分割せよ

 勝利条件を確認しよう。

 綾野にとっては、三流家を滅ぼすこと。

 俺たち、三流にとっては、トナミマチを守りきること。唯一の拠点であるトナミマチの失陥イコール滅亡だからだ。

 ここはゲームの世界じゃない。

 俺には妙なステータスが見えるが、それ以外はすべて前世と同じだ。

 ゲームで選択できるキャラクターにとらわれ、参加プレイヤーは、俺と綾野の2人である。そう考えていたからダメだったのだ。

 アソノ国覇権争いのプレイヤーはもう1人いた。1人という言い方は、ふさわしくないけど。集合体とでも、表現するのがよい。

 三人目のプレイヤーは、国人領主。

 彼らの勝利条件は、一つ。自らの利益を戦争を通じて増やすこと。

 今は、綾野に従っているが、それは彼らは、綾野につけば利益を得られると考えているからだ。

 

 俺が勝つには、国人領主と綾野の結びつきを破壊してしまえばいい。

 国人領主の欲望は?

 まず相手が何を大切にしているのかの分析を始めよう。


「ずばり、それは自分の命でしょう」


 タマ子は答えた。


「そりゃそうだけど、そんな身も蓋もないことじゃなくて、領地やお金みたいな部分を俺は言いたかったんだけど……」


 タマ子は笑う。


「ふふ、ご主人様ともあろうお方が。長期的に利益を得られることがわかっていても、勝利が確約されていても、その場に生きて存在しなければなりませんもの。死人に、領地や金銭は必要ないのでは?」


 タマ子は、片頬をわずかに吊り上げる。


「人も家畜と同じです。家畜を躾けるには、恐怖を擦りこめば良い」

「どうやってだ?俺たちより大軍、主人より屈強な家畜にどうやって恐怖を刷り込むんだよ。躾ける前に命がなくなる」

「あら、そのために、あの去勢をしていない狂犬を飼い始めたのではなくて?」

 


 タマ子がさわさわと俺の背中をさすり、ふっと耳に息を吹きかける。ゾクッとする。


「わたくしは、南の砦の守備に回ります。ご主人様は、狂犬と一緒にお散歩に出かけてください」

「守兵はどれだけ連れて行くんだ」

「わたくし1人で十分です。トナミマチの兵力は全てご主人様が使ってください」

「死ぬなよ。それに、防衛は大丈夫か?」

「ふふふ、砦の防衛より、わたくしの心配が先で嬉しいですわ。それにね、ご主人様……」


 タマ子が、ズイっと近づいて、正面から俺の瞳を見据える。


「わたくしは、傾国の妖狐ですよ。任せてください」





 太田介貞(おおた すけさだ)は、綾野家の重臣だ。

 彼は、東方侵攻軍2,000を率いて、汚名返上に燃え上がっていた。

 介貞は、綾野家に仕えていることを誇りに思っている。

 綾野常識は、この乱世に生まれた英雄だ。アノソ国を外敵から幾度も防衛し、乱れた世を正そうとしている。守護という責任ある立場にありながら、酒浸りでろくに公務を務めない三流安具とは正反対だ。

 そんな素晴らしい主君に、牙を向ける者がいた。それも我が一族からだ。

 分家の太田サノが、東方侵攻軍の大将であり、常識様の息子である常二様を殺害し、逃亡した。

 常識様は、私を代わりの大将に任命し、汚名返上の機会を与えてくれた。慈悲深く、思慮深い判断だ。

 

 サノは、自分のことをサノ姫と名乗り、普段から女装して乗馬している奇人である。

 成長するにつれ、まともになるだろうと思っていた自分が愚かであった。


 ダッダッッダ……

 地面が擦れる音だ。

 見れば、見慣れたピンク髪、ドレス風のフリルの形をした防具の付いている鎧を着たサノが、林から飛び出してきた。

 道端の草むらに姿を隠していたのだ。

 2,000人の軍勢のど真ん中だぞ、ここは。そんな軍勢の真ん中で、こいつは数名で奇襲をかけようというのか。

 救いようのない狂人だ。


「やっほー、スケサダ大伯父さん。元気?」

「ええぃ、者ども、取り囲め!敵は数人、恐れるなっ!」


 介貞の指示に従い、供回り衆が、さっと槍衾を作る。槍衾から外れたものは、その後ろから弓を構えた。槍と弓で二重の防御網、奇襲を完全に封じた。


「射かけろぉぉっ!!!」


 矢がサノに向け飛ぶが、サノがその長剣を一振りすると、全て払い落とされる。


「ここは、私にお任せを」


 1人の壮年の男が出てきた。鉄砲という、最近普及し始めた武器の名人で、護衛に雇い入れていた1人だ。

 彼は、長い筒を構えると、サノに向けて撃つ。

 ドゴンオオン

 と馬が驚いてしまうほどの音が鳴り、煙が上がる。

 サノに、鉛玉が命中したようで、上半身が、馬の後方へ仰け反って倒れている。

 死んだか?


「……ドレスの鎧に穴が空いちゃったよお。せっかく、安具様が、ボクに作ってくれたのにぃぃぃぃぃっっ!!!!!!」


 あの細身の体に、どれだけ屈強な腹筋が埋まっているのだろう。

 サノは、ばね仕掛けの人形のように、すぐさま体を起こす。

 馬上でできる芸当ではない。馬に振り落とされないよう、ホールドしていた下半身の筋力も尋常ではない。

 サノは、振りかぶると、えいっと可愛らしい声を出して、長剣をサイドスローで投げる。

 クルクルと回転しながら、槍衾をなぎ倒し、供回りの兵隊を真っ二つにする。勢いはまだ衰えず、そのままっ鉄砲名人へ、飛ぶ。


「ひっ、来るなっ」


 鉄砲名人は、銃を盾にしようとするが、頼みの銃は回転をしている長剣に、弾きと飛ばされ、あえなく槍兵と同じように、二つの肉塊に変わった。

 そのまま回転する長剣は、半円を描き、ブーメランと同じ軌道で、持ち主の元へ戻った。


「はうっ、少しはすっきりしたぁ。あとで安具様に修理を頼もっと」


 お気に入りであろう鎧の傷を気にしているサノの馬下では、血まみれの惨状が広がっているが、それを気にする様子はない。


「この狂人め……我が一族の恥さらしがっ。そんなに人を殺して楽しいかっ!」


 介貞の問いに、数瞬間、ぽかんとしていたサノだが、満面の無邪気な笑みで答えた。


「うんっ、楽しいよ!屈強な人がねっ、かよわいボクの足元に転がっているのをみると、なんだかおまたがムズムズするんだ」


 股間部分の鎧のカップだけが、妙に盛り上がっている。


「きっ、貴様っ、同族の太田一族に仕える忠義者を殺して興奮だと?恥ずかしくないのか?」

「同族?忠義?ボク、難しいこと分からないから。ごめんね、大伯父」


 貞介は、太田本家に伝わる名刀を抜いた。


「この刀は、初代様より伝わる名刀っ、綾野家に逆らう不届きものを誅してきた刀だ。サノ、貴様もサビの1人に加えてやる」

「ボク、迷信とか信じないタイプだよ。ただの古臭い刀じゃん」


 貞介は、初代様からの姿を脳裏に思い浮かべ、祈る。目の前の、邪悪な存在を、自分に斬らせてくれと。

 サノもこちらに馬を走らせて向かってきた。

 今は、細かい技量なんて関係ない。強い正義の思いが、貞介に立ち向かう力をくれる。


「うおおおおおおっ、破邪あああああああ」


 気づくと貞介の目の前には、サノの顔があった。

 やった勝ったのだ。正義は勝つのだ。

 ふははは、謀反者サノは、私が誅したのだ。


「さあ、みんな。逃げるよ」


 不思議だ、討ち取ったサノが喋っている。


「うわっ、汚い首だなあ。安具様は、戦果報告だけで良いらしいから。やっぱり、捨てとこ。ぽいっと」


 私の体が宙を舞う。そして、泥の中にぼたりと落ちた。

 ああ、眠たいな。勝って、私は安心したのかな。

 いかんいかん、まだ正義の戦いは道半ばというのに。まあ、少しくらい一息ついてもいいか。

 貞介はまぶたを閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。