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8話 トラブルさん、再び

 3日目の旅も程々に道をそれてモンスターと戦って行ったが、怪我1つなく順調なものだった。予定では明日には町に到着するのだが、最後の野宿場でトラブルが発生した。


 ガラの悪そうな男達が絡んで来たのだ。



「なあ、姉ちゃん。そんな腰巾着の小僧なんかとは別れて俺達の仲間になれよ」


「何言ってるの? わたしはシン君の仲間なんだから嫌よ」


「その小僧に何の魅力があるって言うんだよ。昼間、姉ちゃんの戦ってる様子を見せてもらったが、こいつは武器すら抜いていなかったじゃないか。そんな奴に姉ちゃんはもったいねえよ」



 見た目は美人。戦っている様子を見たのならその実力も折紙つき。誰もが認める優良物件だろう。そして僕は見てるだけのヒモ男……分かっていたけど、周りからはそう見えるよね。


 ハー、ため息が出ちゃったよ。



「おい小僧! お前は俺達に喧嘩を売っているのか!」


「お前みたいな雑魚がEランクの冒険者である俺達に向かって、ため息を吐くなんて生意気だ!」


「え!? ち、ちが━━」


「シン君!? やっぱりわたし達を仲間と認めてくれてたんだね!」



 あれ? 僕は自分の姿を客観的に見てため息を吐いたんだけど……何でこの人達に敵意を向けられ、ミーシャさんが喜んでいる状態になるんだ?


 絡んで来た男達はレベル10。ミーシャさんよりレベルは低いが僕とはケタが違う。Eランクがどれ程の強さなのかは知らないが、なんとか誤解を解かないと死んじゃうかもしれないな……



「僕はあなた達と争うつ━━」

「あんた達なんかわたし達に掛かればボコボコになっちゃうんだから、謝るなら今の内だよ」



 おぅ……僕が誤解を解こうとしているのに、ミーシャさんが啖呵を切っちゃったよ。これってもう弁解のチャンスはないよね……

 落ち込んでる僕に対して、ミーシャさん……やっぱりトラブルさんで合ってるな。トラブルさんはやる気満々になっている。


 完全に僕だけが戦意0だよ。



「いいだろう。俺達の実力を味合わせて、その姉ちゃんを好きにさせてもらう」


「ガキの方は生きて帰れると思うなよ!」


「それはわたし達に勝ってから言ってよね。わたし達の旅は始まったばっかりなんだから、あんた達なんかに邪魔される訳にはいかないもん!」



 あー、全員剣を抜いちゃったよ。周りは……誰も止めようとしてくれない、か。

 


「覚悟しろ!」



 完全にやる気になってる男達。戦いが終わった後にトラブルさんと楽しむ事を想像しているのだろう。二人して少しニヤケた顔で僕の方に向かって来た。


 まあそうだよね。僕さえいなくなればトラブルさんの仲間はいなくなると思っているんだから……手加減の必要がない者を倒し、2対1でトラブルさんをいたぶって心を折ろうとしてるんだろうな。

 


「シン君はレベル1なんだから、わたしの方に掛かって来なさいよ!」


「おい聞いたかよ。この小僧は本当に雑魚のようだぞ」


「まだレベル1の奴が旅をしているとは思わなかったな」



 トラブルさん……わざわざ僕の情報を相手に漏らさないでくださいよ。ほら、周りの人も苦笑いをし出したよ……


 レベル1の相手は雑魚。この森にいるモンスターよりも弱いのだから、それこそ一撃で終わると思ったのだろう。男達は二手に分かれて僕達と1対1で戦うスタンスに変えた。



「シン君! すぐに助けに行くから、それまで逃げ続けて!」


「まあ、僕の方はなんとか逃げ続けますから、慎重に戦ってください」


「雑魚が逃げ続けれると思うなよ!」



 僕の言葉は男には馬鹿にしているように聞こえたのだろう。怒りの表情で剣を振り下ろして来た。トラブルさんとレベルは近いが、この男のステータスはパワー寄りのようで動きはそこまで速くない。


 とりあえず木刀を抜くが、そのままでは真剣を受け止めれるはずはないし、そもそもその必要もないね。

 だいたい男との力の差から考えて受け止めれるはずがないので避ける事に専念する。


 大振りの一撃だった事もあり初撃は簡単にかわせたが、思い通りにいかなかった事で男はますます頭に血が昇り、乱暴に剣を振り回して来た。その動きに型はなく、力任せの攻撃なので予測がしにくい。


 だが、僕はその攻撃をかわし続ける。まるで最初からどんな攻撃が来るかが分かっているようにかわし続け、一撃も受ける事はなかった。



「なんなんだよこいつは! 逃げ続けるのが上手過ぎるぞ!」



 〈予知眼ヴィジョンアイ〉。僕の魔法で、1秒先の映像を見る事が出来る。その際右の瞳が青い色に淡く光るのだが、この魔法を覚えた時は格好良いと思ってそのままにしていた。


 ……今は少し後悔している。淡い光とはいえ夜だと目立つから、人がいるところでは注目を集めそうで恥ずかしいんです。



 ただこの魔法と目の前の男との戦いにおける相性は良かった。いくら動きが分かっていても、トラブルさんのようにスピードが速い人が相手だと最小限の動きでも避けきれなかったからだ。


 闘牛士ってこんな気分だったのかな? ……うん、出来れば二度と体験したくないね。失敗したら死ぬなんて、怖すぎるもん。



「ハァハァ、いいか、げんに、くたばり、やがれ、ハァハァ」


「ハァハァハァ、なら、やめませんか?」



 避けるだけだけど一撃一撃に精神力を使い過ぎて僕は疲れ果てていた。相手も振り回した剣を全て空振りにされているので、体力の限界が来ているのだろう。2人共肩で息をしている。



「それにしてもシン君って変な避け方をするよね」


「ハァハァ、何が、ですか?」


「ん? だって攻撃が来る前から避ける動作に入っているよね。まるでどんな攻撃が来るのか見えているように」


「そ、それは━━って!? なんでトラブルさんがノンビリ見学しているんですか!?」



 普通に後ろから話しかけられたから受け答えをしてしまったが、もう1人と戦っていたトラブルさんがここにいて僕の避け方に疑問を持ったと言う事は、少し前には自分の戦いを終わらせて見学していたということだ。

 僕には攻撃するつもりがないので助けてもらう立場ではあるが、文句を言いたい気分だよ。



「シン君の動きに見惚れていた? けっこう余裕そうに見えたから見学させてもらたんだ。あ、わたしの相手はそこで寝ているから大丈夫だよ。それよりー、またわたしの事をトラブルさんなんて呼んでる! ちゃんと名前で呼んでくれないと駄目だよ」



 トラブルさんの……おっと、ミーシャさんの指差した方向には血塗れの男が倒れていた。微妙に動いているので死んではいないようだが、その光景を見て胃の中が逆流してくる。



「うっ、気持ち悪い」


「あ、そっか。シン君に変な物を見せちゃったね。でも安心して。残りもわたしが倒してあげるから」



 ミーシャさんは僕が血や肉を見るのが駄目なのを思い出し、軽く謝罪をしてもう1人の男の前に立った。



「ま、待て! 俺達の負けだ。もう勘弁してくれ」



 2対1でミーシャさんを倒そうと考えていた男が、逆の立場になり、しかも体力の限界となればもう勝ち目はない。すぐにでも襲いかかって来そうなミーシャさんに対して、降参の意思を示した。


 これでようやく終わったか。僕はそう気を抜いたのだが……



「え? 何を言ってるの? あんた達はシン君を殺そうとしたよね? それなのに自分だけ助かろうなんて、少し甘いんじゃない」



 そう言って表情を変えずに男の太股を斬る。



「シン君はあまり血を見たくないから、急所を一突きにさせてもらうね」



 ミーシャさんは僕の事を考えて笑顔で剣を構える。その剣が向けられた先は心臓。確実にトドメを差すつもりで、しかも少しも躊躇する様子を見せない彼女に寒気を覚え、僕の体は勝手に動き出す。



「ミーシャさん! これ以上の戦いは無意味です! 相手も降参していますから、ここで戦いは終わりです」



 僕は後ろからミーシャさんに抱きついて押さえる。



「えー、殺す気でかかって来た相手にはちゃんとトドメを差さないと、こっちが危なくなるよ?」


「それはそうかもしれませんが! ……そうだ!? この男達の有り金を全部貰いましょう。命をお金で買うんです。それでお終いにしましょう。そっちもそれで良いよな? 命が助かりたいなら、言うとおりにしてください!」



 ミーシャさんは自分の考えが悪いものとは少しも考えていないので、不満そうな顔をしている。確かに逆恨みによる復讐の可能性があるのだから、確実にトドメを差すのは間違いではない。

 だが今回は向こうの悪乗りの部分もあるので、命まで奪う事は僕には出来なかった。


 男もミーシャさんが本気だと分かったようで、僕の提案に頷いて有り金を差し出してくれた。もう1人の男も僕を助けに行く為にトドメを差すのを後に回したようで、一命を取り止めたようだ。


 争いが終わった後、ミーシャさんは僕の戦いに対する質問ばかりしてきた。それを誤魔化すのも大変だったが、それ以上に周りの視線が嫌だった。

 周りの人達はモンスターを警戒する以上に、手加減知らずの危険な僕達(本当はミーシャさんだけだけど)を警戒して怖がっていた。




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