襲撃
爆発音は、森の外からだった。
一度。
二度。
少し遅れて三度目。
低い。
重い。
地面まで震える。
「本隊だ!」
カイが叫んだ。
「戻るぞ!」
ガレスが捕虜の腕を掴む。
「こいつは?」
ダグが訊く。
「連れてく」
「走れんだろ、担げ!」
「何で俺が」
「一番でかい」
「竜人のお前が言うな!」
「俺は前を見る」
「都合がいいやつだな!」
言い争っている間にも、また爆発。
今度は近い。
レオンは森の向こうを見る。
魔力が上がっている。
一つ二つではない。
大量。
「急いで」
声が変わった。
ガレスがそれに気づく。
「分かってる」
捕虜はダグが担いだ。
縄で縛ったまま。
レオンはしんがりにつく。
走る。
木々の間。
枝を避ける。
泥を踏む。
カイが息を切らしている。
「先生!」
「喋る余裕あるなら走れ!」
「どっちです!」
「右!」
「索敵器だと左です!」
「じゃあ左!」
「先生!」
「森の中で道覚えてないんですよ!」
「堂々と言うな!」
ガレスが笑う。
「お前、方向音痴だったな!」
「違います! 都市型です!」
「初めて聞いたぞそんな魔術師!」
また爆発。
笑いが消えた。
木々が途切れる。
光。
森を抜けた。
そして。
全員が止まった。
「……何だよ、これ」
カイが言った。
街道が。
燃えていた。
*
本隊は崩れていた。
壊れた荷車。
倒れた馬。
焼けた草。
砕けた魔導器。
兵士が走っている。
負傷者が叫んでいる。
敵は。
「多くない?」
カイが呟く。
レオンは数えた。
無理だった。
街道の北側。
丘。
林。
左右から。
魔族が押し寄せている。
報告の二百どころではない。
「別働隊」
レオンが言った。
ガレスが頷く。
「当たりだな」
「嬉しくないです」
「だろうな」
伝令がこちらへ走ってくる。
「特殊魔術中隊!」
「ここだ!」
ガレスが叫ぶ。
「西林偵察班、帰還!」
「敵影は!?」
「約五十と交戦!」
「五十!?」
「一部撃破、残敵は撤退!」
「本隊は?」
レオンが訊く。
伝令の顔が引きつる。
「北から三百以上! 東にも敵影!」
「三百?」
「まだ増えてます!」
「砦を落とした連中?」
「分からない!」
まただ。
分からない。
レオンは舌打ちした。
「命令は」
ガレスが訊く。
「特殊魔術中隊は中央防衛線へ!」
「中央?」
「第六歩兵中隊が崩れた! 穴を塞げとの命令!」
ガレスの表情が変わった。
「中央防衛線って」
レオンが街道を見る。
敵が一番集中している場所。
「一番ヤバいところじゃねえか」
ダグが言った。
伝令は答えない。
「ほかの予備は」
レオンが訊く。
「魔導歩兵第一中隊がいます」
「そっちは?」
「右翼支援」
「なぜ」
「命令です!」
「だから理由を――」
「レオン」
ガレスが止めた。
「今は行くぞ」
レオンは伝令を見る。
若い。
怯えている。
この兵士に訊いても意味がない。
「……分かりました」
*
中央防衛線。
そこだけ、地面の色が違った。
血。
泥。
火。
兵士が倒れている。
前線は百歩もない。
魔族の集団が迫ってくる。
「特殊魔術中隊、展開!」
指揮官が叫ぶ。
四十人。
元魔術師が多い。
老人。
中年。
古い杖。
傷だらけの触媒。
王都で見た顔。
職を失った者。
解雇された者。
統廃合された者。
「障壁組、前!」
白髪の老人が進み出る。
あの男だ。
出発前。
若い魔導器兵と口論していた元結界術師。
「三重展開!」
杖を地面へ突く。
光。
巨大な障壁。
ほかの魔術師が重ねる。
敵の魔法が飛ぶ。
炎。
氷。
黒い塊。
衝突。
障壁が軋む。
「持たせろ!」
「分かっとる!」
老人が叫ぶ。
二発目。
三発目。
レオンが前へ出る。
「俺も入ります」
老人が横目で見る。
「要らん」
「は?」
「お前は攻撃に回れ」
「でも」
「ガキが後ろで何しとる」
「十七ですけど」
「十分ガキじゃ!」
障壁が揺れる。
「早う行け!」
レオンは一瞬迷う。
その間に老人が怒鳴った。
「わしらは何十年これをやっとると思っとる!」
「……分かりました」
前へ。
攻撃組。
ダグもいる。
ガレスも。
「来たぞ!」
魔族が突っ込んでくる。
レオンは杖を抜かない。
両手を開く。
「左右三十歩、空けて」
「何する」
ダグが訊く。
「邪魔だから」
「お前な」
「早く!」
周囲が離れる。
レオンが地面へ手を置く。
一瞬。
魔力が沈む。
次の瞬間。
大地が爆ぜた。
一直線。
敵陣まで。
土が壁のように跳ね上がる。
十数体が吹き飛ぶ。
「まだ!」
空中。
舞った石。
全部止まる。
「《行け》」
一斉に飛ぶ。
矢より速く。
前列が崩れる。
ガレスが笑った。
「相変わらず派手だな!」
「地味でしょう」
「どこがだ!」
「火も雷も使ってない」
「ガキ基準だな、まったく!」
敵側。
大型の魔族が前へ出る。
二本角。
三メートル近い。
腕が太い。
「重装!」
誰かが叫ぶ。
大男が地面を殴る。
衝撃。
兵士たちが倒れる。
レオンは正面から歩く。
「先生!」
カイの声。
振り返らない。
大型魔族が拳を振り上げる。
レオンは避けない。
直前。
身体強化。
拳を受ける。
轟音。
地面が沈む。
「……重」
レオンの腕が軋む。
「先生!?」
大型魔族が笑う。
レオンも笑った。
「でも」
足を踏み込む。
「その程度か」
腹へ一発。
魔力を乗せる。
衝撃が内部へ抜ける。
巨体が浮いた。
一歩。
二歩。
大型魔族が後ろへ吹き飛ぶ。
兵士たちが呆然。
カイが言った。
「魔術師って何なんですか」
「俺に聞くな!」
ガレスが返した。
*
押し返せる。
レオンはそう思った。
敵は多い。
だが圧倒的ではない。
こちらには人数がいる。
魔導器もある。
元魔術師もいる。
戦える。
「左!」
声。
カイ。
「左翼、崩れます!」
レオンが見る。
確かに。
左側。
歩兵中隊が押されている。
「魔導歩兵は?」
「右翼!」
「まだ?」
「命令変更なし!」
レオンの眉が寄る。
中央。
特殊魔術中隊。
左翼。
通常歩兵。
右翼。
魔導歩兵。
配置がおかしい。
「ガレス!」
「分かってる!」
「何で魔導歩兵を」
「俺に訊くな!」
左翼が崩れる。
敵が入り込む。
「穴開くぞ!」
ダグが叫ぶ。
レオンは走る。
「どこ行く!」
「左!」
「持ち場!」
「崩れたら中央も終わる!」
命令を無視した。
また。
頭のどこかで思う。
でも、止まれない。




