転生
放課後の教室は、いつも通りうるさかった。
笑い声、スマホの通知音、誰かの恋バナ。
そのどれにも、俺は関係ない。
窓際の一番後ろ。
いわゆる「特等席」に座っているのに、俺の存在に気づくやつはいない。
「……帰るか」
小さく呟いて、鞄を持つ。
誰とも話さず、誰にも見送られず、教室を出る。
——これが、俺の日常だ。
家に帰ると、唯一の居場所がある。
電気をつけ、椅子に座り、パソコンを起動する。
画面に映るのは、いつもの戦略ゲーム。
現実とは違って、ここでは俺は“負けない”。
「さて……今日もやるか」
マッチングが始まり、対戦が決まる。
相手はランク上位のプレイヤー。
普通なら、嫌な顔をするところだろう。
でも——
「……楽しくなってきた」
口元が、少しだけ緩む。
試合が始まる。
資源の回収、拠点の配置、ユニットの生産。
すべてを同時に考え、動かす。
相手は強い。
序盤から圧をかけてくる。
だが、問題ない。
「ここで前に出るのは悪手だな」
あえて防御を固め、相手の出方を見る。
焦って攻めてきたところを——
「そこだ」
一気に包囲。
逃げ道を塞ぎ、戦力を分断し、各個撃破。
気づけば、勝負は決まっていた。
【VICTORY】
「……やっぱり、な」
静かな部屋に、結果だけが残る。
現実では、誰にも必要とされない俺。
でも、この世界では違う。
“俺は強い”。
それだけで、ここにいる意味がある。
——そのときだった。
画面が、急にノイズを走らせた。
「……は?」
バグかと思った。
だが、違う。
画面の奥から、何かが“こちらを見ている”。
『——力が、欲しいか?』
頭の中に直接、声が響く。
「なんだよ……これ」
『お前は、選ばれた』
次の瞬間、画面が真っ白に光る。
視界が、塗りつぶされる。
逃げようとした。
でも、体が動かない。
「……っ!」
意識が、途切れる。
——これが、俺の人生の終わり。
そして。
“別の世界の始まり”だった。
——意識が、浮かび上がる。
「……ここ、は……?」
目を開けると、見知らぬ空が広がっていた。
青い。やけに、青い。
体を起こすと、そこは森の中だった。
土の地面、木々の匂い。
おそらく、日本じゃない。
「……夢、か?」
——ギャアアアアアッ!!
悲鳴が、森に響いた。
反射的に立ち上がり、声の方向へ走る。
開けた場所に出た瞬間、俺は息を呑んだ。
「……なんだよ、これ」
そこにいたのは、人と——化け物。
緑色の皮膚、小柄な体、粗末な武器。
「……ゴブリン、か?」
人間は三人。
ゴブリンは十以上。
完全に囲まれている。
「くそっ……!」
「もうダメだ……!」
絶望が、場を支配していた。
——だが。
「……いや、違う」
その瞬間、視界にノイズが走る。
「……っ?」
景色が、“変わった”。
敵と味方の位置が、頭の中に浮かび上がる。
(敵、12。脅威度、低〜中)
(味方、3。連携なし、士気低下)
右側のゴブリンに、印がつく。
(弱点:連携不全)
さらに情報が流れ込む。
(指揮可能対象:3)
(バフ効果:小)
「……なんだ、これ」
分からない。
でも——理解できる。
「……使える」
気づけば叫んでいた。
「おい!!右だ!!」
その瞬間——
三人の体に、淡い光が走る。
「な、なんだ!?」
「右側を一気に突破しろ!!」
迷いが消えたように、三人が動く。
「うおおおお!!」
ゴブリンに突っ込む。
反応は遅い。連携も甘い。
「そのまま押せ!!止まるな!!」
一体、また一体と倒れていく。
そして——
包囲が、崩れた。
「抜けた……!?」
残ったゴブリンは散り散りに逃げていく。
「……勝った」
戦いは、終わっていた。
三人が、ゆっくりとこちらを見る。
「……お前、何者だ?」
その問いに、少しだけ考えて——
「……俺にも、わからない」
それが、本音だった。
だが、一つだけ確かなことがある。
この世界で。
「……多分、俺は“戦える”」
それだけは、理解していた。
——俺の戦いは、ここから始まる。




