【84・シュタールツ帝国11】
副題を付けるとしたら甘い物とメイド服かなぁ……。
よく晴れた快晴の空! なんて祭り日和! 食いだおれするぞー!
とまぁ、行きたいがそう上手くいかないもの世の常である。
「リューリ! 私を待ってる料理の元に行ってくるよ!」
「待てぇぇっ! 単独行動ダメー!」
いざゆかんと走り出そうとする私の尻尾を……そう尻尾をガシッと思いっきり掴んできたリューリ。
「に"ぁゃゃゃっ?!」
「大人しく、頼むから大人しくしててっ!」
「ばかぁ! ひぐっ、バカリューリっ! い、痛いじゃないかぁ!」
「僕との約束を早速破って飛び出そうとしたじゃないか!」
「うぐっ! や、やだなぁー……。わ、忘れるわけないじゃないかぁ………!」
「じゃぁ、さっき、飛び出そうとしてたのは誰かなぁー? ん?」
わーぉ。思わず撫でていた尻尾をギュッと抱きしめちゃった。笑顔なのにこわーい。
「今日はコンテスト本番! カオレートを使ったお菓子を出すんだから手伝って!」
「いや、あのね? リューリさんや、私にどうしろと? 無茶ぶりするね」
手伝えって言われても私、もふもふよ? 食品加工現場で抜け毛混入なんてもってのほかなのに……。
と、考えているといつもの姿の私の上に差す日陰。ん? と不思議に思い首を上げれば、キラキラ笑顔のイリス。
「それなら、問題ないわ!」
「いや、あのー……。イリスさん?」
侍女にトランクのような鞄を持たせ、抵抗する間もなく抱き上げられあれよあれよと連行されたのは、休憩所としてあつらえられた天幕の奥。
そして、鞄から取り出されたのは今の私のサイズに合わせ作られたような服。
うん。何も突っ込まない。突っ込んだら負けな奴だ。
でも、気になるのはいい感じのサイズ感のせい。
「あのー。一応聞くけど、いつの間に作ったの?」
「こんな日がいつ来ても大丈夫なように、私達の服のお古をとっといて、服を買う時は次いでに切れ端貰って少しづつ貯めたのよ〜! きゃー! 可愛いー!」
まぁ、なんという事でしょう〜。
白くふわふわの長毛がシックなメイド服風にデザインされたペット用服に隠され、頭にはヘッドドレスを装着。
首元にはチリンチリンと可愛いらしい鈴の首輪。
匠の腕であの恐れられるフェアリアルキャットが大変身したのです!
頭に流れたかの有名なbeforeafter番組のナレーション風にフリーズしてしまう。
「…………」
「うわぁー……」
「似合う、似合う! その姿で店先に待機してるだけでいいわ! 食べてても良し!」
なに? 食べててもいいだと?
「母さん?!」
「リューリ、考えてもみなさい。下手な客引きより、あのフェアリアルキャットが夢中になって食べてるなんて口コミが広がったら?」
「ハッ! そうか!」
「それに、それが、希少価値の高いカオレートだったら?」
「……。アリア、散らかさないで、美味しそうに食レポしながらだったら食べてて」
リューリ、目が怖いよ。ガシッと毛を掴むな。
あろうことか、イリスの入れ知恵によって私は看板娘ならぬ看板猫へと素敵にジョブチェンジを果たした。
これじゃ、私が店頭に出てると、客は来る所か逃げるんじゃないの?
そう思いつつも、食べてていいしまさかのメイド服を着れた事に浮かれていた私はリューリ達の好きにさせる事にしたのだった。
「バーナとカオレート、いい組み合わせじゃん〜! 甘くてトロッとしてて、うまぁー……」
「チョコバナナといいます。坊ちゃんが付けてくれたんですよ」
「チョコバナナ? ふーん、面白いねぇ。ねぇ、もっとちょうだいよ」
私が食べやすいようにとカットしたチョコバナナをイリスとリューリに言われたように、食べながら食レポをする。語彙力が少ない? んなもん、知るか。私はあの宝石箱やぁー! って食レポする人じゃないんだよ。
たまたま近くに居たクランツがにこにこと教えてくれたんだけど、やってくれたねぇ、リューリ。
「チョコバナナ……。ふーん。ま、美味ければ何でもいいけどね」




