【85・シュタールツ帝国12】
アリアが店先でチョコバナナを大人しく食べてると聞いて一安心はしたけど、不安は尽きない。
あの食い意地の張ってるアリアがこのままなはずがない。
そう思いつつも僕は注文されたアイスモカを準備したり、生チョコを準備したりと忙しなく動き回っていた。
今回のコンテストの採点基準は時間内に会計を済ませた一般客が一人1ポイントと審査員たる貴族、王族が15歳以上一人5ポイントの加算ポイント制だ。
不正しようにも魔法的防止が施されているとかで不正は出来ない。
では、料理人自身を出場出来なくしてはどうかってなるけど、他は妨害工作があったようだけど僕達一家にはない。
「居るだけで抑止力になるんだもんなぁ……」
そう、アリアが守護魔法を掛けたのもあるし、対策用にとアリアと出会った洞窟産魔石にアリアが守護魔法を付与した魔石を一人一個持っていたので、被害は一切無し。
この市場で購入した食材には、浄化魔法をアリアがしたので、こちらも問題無し。
全てアリアが居たからありがたいんだけど、普段のだらしない姿を見ると何とも残念だ。
「この香り……。カオレートですか」
「……それ以外何があるってんだい。クランツー、客さね」
「しゃ、しゃべっ?! ……いや、フェアリアルキャットがいると話には聞いていたが、まさか、こんな所に……」
「うるさいねぇ。あんまり騒ぐと他の客に迷惑なんだが?」
「ご、ご注文承りますっ!」
ナイス! クランツさん!
アリアが脅すからあの人ビビっちゃったじゃん!
アリアを気にしつつもお客さんは生チョコ一箱、チョコケーキ二個を買って行った。
「やっぱり、アリアが店先に居るの本当は失敗なんじゃ……」
「私が何だって?」
足元にアリアが寄って来ては、次のスイーツの催促をされる。
にゃんこが足元に擦り寄って来るだけでも猫好きには堪らないのに、甘えるように、尻尾を足に絡ませようとする仕草。……ぐぅかわだ。
「……黙ってれば可愛いのに」
「いきなり、失礼な奴だね」
僕を見上げる仕草さえ見た目はメイド服を来たにゃんこで可愛いのに、食い意地が張りすぎでもったいない。
内心でため息をすると、今更だと思い直し要望を聞く。
「んで? 次は何食べる?」
「クレープ!」
「クレープ? 材料はあるから出来るけど、生地を薄く伸ばすのはなぁ……」
腕を組み考えていると隣でマスカさんが手馴れた様子でフライパンに生地を流し、僕が教えたホットケーキを作る。
「な、なんですか?」
思わずジーッと見てしまっていたらしい。
「アリア、行けると思う?」
「ホットケーキが作れるなら行けるんじゃない?」
「坊ちゃん、だから何ですか? あげませんよ? これ、俺の腹ごしらえなんですから」
朝からバタバタしてて今はやっと交代で朝ごはんを食べている。
そんな中、ホットケーキは腹持ちもいいと家の中では結構人気だけど、今回のコンテストには出してない一品のひとつだ。
「マスカさん、試しにこの生地をフライパンに薄ーく伸ばし焼いて?」
「ま、まぁ、それくらいなら。何をするつもりです?」
訝しげに僕を見つつも、慎重にフライパンへと垂らして伸ばしていく。
「火が強いし、まだ生地は厚い。でも、いい線行ってる」
「ちょっと、小型化して肩に乗らないでよ」
か、肩が重い。そんな僕の様子なんて知った事かとアリアがマスカさんに指示を出してるけど、的確に言っている為無下にも出来ない。
「もっと薄くですか? 切れてしまいそうですが……」
「いんや、さっきのホットケーキより薄くはなってるけど、まだまだ。分かりやすく言えばフライパンの底がうっすら透けて見えるぐらい」
「な、なるほど……。こう、ですかね?」
アリアに言われ次の生地作り。今度は火から離しフライパンに残った余熱に、僅かにアリアが風を送り少し冷ましてからの生地を流す。
「いいねぇ。ちょいと火に当てて焼き上げれば出来上がりさ!」
皿を用意しておき、そこに円盤に広げたクレープ生地を落として貰うと、僕は作って置いたホイップクリーム、バナナもどきのバーナ、チョコソースをかけて折りたたむ。
包めたらいいけど、それは美しくない。このコンテストには貴族も食べるからそっちも意識しないとだからね。
後は、フルーツとホイップクリーム、更にチョコソースを掛れば出来上がり!
「ちょっと豪華なクレープデザートの出来上がり! やたー!」
視線を感じそちらをみれば、クランツさん。
「う、うん。一般客向けにチョコバナナ。貴族用にこれで行けると思うし、この生地使えば色々と応用出来る。今ある材料を掲示してリクエストしてもらってそれで作ろ! でも、メインはカオレートってのを忘れないでね?」
「はい! このスイーツで勝負します!」
その合間にも希少価値の高いカオレートで作ったチョコレート商品が売れ、追加でこのクレープ。
「さあ、どんどん焼こう! どんどん売ろう!」
そんな僕達を見る視線に、その時の僕は気が付かなかった。
「フェアリアルキャット……」




