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【79・シュタールツ帝国6】sideリューリ

「まったく、本来の姿じゃないから祝詞も唱えないといけないし、拘束時間も短い。せっかく、使い勝手が良かったのに、今はダメだね」

 

 

 ブツブツと僕の隣で文句を言いながら、真っ白な毛並みを毛づくろいしているのは、フェアリアルキャットのアリア。

 本来は2mを越す巨体で縦横無尽に俊敏に動く猫だ。

 いや、猫という動物が居ないこの世界では魔獣に分類されるらしい。

 そんなアリアと僕は、従魔契約を結んではいるが、どちらかといえば相棒という感覚に近い。

 しかも、アリアも転生者で元は同じ地球人で、同じスマホゲームをしていたというとんでもない繋がりが発覚したのは驚きだった。

 

 そんな僕達が今いるのは、シュタールツ帝国の管理下にあるダンジョンの最深部。

 幸い死者は出ていないものの、高レベルの魔物が多く出没。

 原因を探ろうにも祭典と重なり、一般人が多くこの事態に割ける人手が少ない。高レベルの魔物の為、冒険者ランクも高い者に任せたいが、運悪く別の難易度の高い依頼を請け負っていて不在。

 そんな時に来たのが、僕たちライヘン一家だ。貴族ではあるが、冒険者上がりでランクもS。

 ならば、依頼しようとしたけど、僕たちだって祭典に来た来賓。

 そこで、目を付けられたのがアリアだったというわけ。

 もちろん、アリアは断固拒否。

 それを何とか餌、もといご馳走で釣って、ご機嫌取ってここまで来たけど、本当に元人間? って疑いたくなるよ。……本当に。

 

 

「……なんだい? さっさとしなよ」

 

 

「はぁ……。別に?」

 

 

 ここまでの苦労を思い出しため息をして、呆れた視線をアリアに向けてしまった僕は悪くない。

 

 

「アリアは困ってる人とか見て何とも思わないの?」

 

 

 鍵穴は無いかと探しながらアリアに問いかける。

 

 

「あー……。それね。なんていうか、フェアリアルキャット自身の意識と私自身の人間的な意識? っていうのが、私にはあるんだ。私もたまに分かんなくなる時があるけど、フェアリアルキャットって伝説の有名な魔獣でしょ? それが、いきなり人間の言いなりとか従順なんて、こう、プライドっていうのかな。拒否反応が出ちゃうのよ。そりゃ、私自身はどうにか出来る力があるなら手助けしたいよ? でも、難しいなぁー……」

 

「だからといって、一応、お偉いさんとかが相手なんだし断るにしても言い方とかあるじゃん」

 

「フェアリアルキャットとしてのプライドが残念ながら許さないよ。ま、私自身、目上の人にああもピシャリと拒否したのは、スカッとするから悪い気はしないけど! そして、あの困り顔とどうにかして私の機嫌を取ろうとしてて、内心面白かったよ?」

 

「うわー……」

 

 

 顔を洗う仕草は見た目的には可愛い。

 しかし、中身と話す内容が酷すぎる。帝国の人が不憫だ。

 

 そんなやり取りをしながら扉を調べるが、鍵穴らしき物は見当たらない。

 

 

「ねぇ。アリア。この鍵、本当にここに使う奴? 鍵穴なんて無いよ?」

 

「え? いやいや、あんなこれみよがしに所にあってここには使わないなんてありえないでしょ」

 

「いや、だって、本当に鍵穴なんてないんだよなぁー……」

 

 鍵を目線の高さに掲げて眺めていると、突如として鍵が崩れ始めた。

 

 

「はぁっ?! ちょっ、まっ!」

 

「リューリ?! な、何しての?! 鍵がっ!」


「何もしてないって! わっわっ、どうしよ! 粉々にっ……て、あれ?」



 キラキラと粉々に砕けた元鍵は空中に漂い、徐々に形を変えていく。



「なんだ。ギミックか……。あー……、びっくりした」



 隣でアリアが呟く。

 形を変え終えた元鍵は、僕の掌にポトリと落ちた。



「花?」


「花だね。あ、リューリ。これ薔薇っぽくない?」


「薔薇? 言われて見れば、確かに見える。……あ!」



 扉の中央で僕の身長じゃ届かない高さにあるあの窪み!

 アリアに持ち上げて貰えば行けるはず!



「アリア! 僕をあの高さまで上げられる?」


「んな? あぁ、あれ? よしきた!」



 僕の言葉に頷くアリア。

 すると、襟首を噛んで持ち上げようとしてきた。



「待って、浮遊魔法で済むと思うけどっ? これ、首が締まって苦しいって」


「……これくらいで使ってられないよ。んじゃ、しょうがない」



 少し間が空き気になったけど、アリアが隣に伏せてきたので、その背に乗って高くなった視界に聞く事を僕は止めた。



「んっ、よいしょっと!」

 

 

 手を伸ばし薔薇の形になった鍵を凹みへとはめるとカコッと簡単に嵌り、鈍くその鍵は輝き始めた。

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