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【78・シュタールツ帝国編5】

 鋭い槍先が結界に食い込む。

 だが、それ以上は無理だと判断した相手が、後ろに飛び下がる。

 

 

「デュラハンっ!」

 

 

 土煙が晴れて見えてきた姿に、リューリは声をあげる。

 しかし、私の鼻は奴からもあの魔香の香りがするのを捉えた。

 

 

「ふんっ、死しても騎士の誇りを持つお前さんが随分と情けないねぇ……。リューリ、相手は槍使いだ。距離感とスピードに気をつけな」

 

「わかった。あのさ、デュラハンからもするの? えっと、魔香の香り? ってやつ」


「あぁ、するさ。ただし、デュラハンよりあの奥の方が怪しいねぇ」



 奥に見える石造りの扉から漏れる魔素と、そこから香る魔香に、思わず威嚇するように唸ってしまう。



「ただし、このデュラハンをどうにかしないとダメのようさね」



 ガチャガチャと、大層な鎧の音を立て槍を構えるデュラハン。

 私は相手をするように唸り敵意を向ける。



「リューリ、アンタはあの扉の所に行って開くかどうか試しな。デュラハンは私が相手する」



 デュラハンも私を相手だと思ったようで、首はないがまるで、こちらを見ているように矛先を変える。



「行くよ、リューリ」


「気をつけて、アリア」



 一瞬の間が空き、先制を仕掛ける。



「『闇の帯!』」



 リューリは壁に向かって走り、その姿をわざと地を闇の帯で叩くことで、土ぼこりを発生させて隠しながらデュラハンを捕えようとする。



「ま、そう簡単に行くわけないよねぇ」



 軽々とした身のこなしで私に迫るデュラハン。



「たくっ、こっちはあの匂いで鼻がばかになりそうなんだよっと」



 爪を振り上げ槍を叩き落とすと、身を翻しながら更に爪で切り裂こうする。

 だが、相手は鎧、ギギギギッと嫌な音を立て致命的な傷とは行かない。



「(デュラハンっていったら定番は聖属性の攻撃が効くんだけど、私自身、聖属性はねぇ。)……『闇霧』」



 時間を稼ぐため、デュラハンの周囲に黒い霧を発生させ、気配を消しては後ろに回り込み、デュラハンの動きを制限させた。

 すると、私の姿を見失ったデュラハンは標的をリューリ変えようとするが、そうはいくか。



「アンタの相手は私だろ? 『聖なる刃よ! 貫き威厳を示せ! 聖槍!』」



 短縮詠唱でも聖属性の単一攻撃。

 闇霧で動きを鈍く、また、私達の気配を探知しづらくする『闇霧』を受けたデュラハンには何処から来た攻撃だか分からず堪らないだろう。

 あー、魔力消費が激しいな。

 

 《アリア! 扉に妨害魔法が掛かっていて、開ける為の鑑定も出来ないっ! 》

 

 《攻撃魔法は? 》

 

 《ダメっ! 弾かれる! 》

 

 ……面倒な。解呪しろってかい?


 《面倒だけど、アナログで出来る? おっと! 》



 リューリと念話で会話していると判明した扉の構造。頭でどうするかと思考を巡らす。

 しかし、水を差すようにデュラハンからの槍。難なく躱すが、僅かに腕に当たり痛みが走る。

 そして、リューリからの心配の声。



 《大丈夫さね。私は伝説の魔獣、フェアリアルキャット。このくらい何ともないさ。こっちの心配よりそっちはどうなんだい? 》


 《あ、アナログってまさかピッキング?! 》


 《そゆこと! 出来るー? 》



 槍を爪や『闇の帯』で捌きつつ念話を続ける。槍が届かない事に苛立ちを滲ませるデュラハンにそれをわかっていて、弄ぶ私はさぞ狩りを楽しんでいるように見えるだろう。

 

 

「ん? んん? あれは……いいもん見っけ!」

 

 

 思わず叫んだ私は悪くない。

 だって、デュラハンの胸元に光る鍵のような物。恐らくあれは、あの扉に使う物だ。

 よし、あれを貰う!

 最初は楽しかったが、魔力消費は激しい上にあの鍵さえ手に入れれば奴に用はない。

 デュラハンの連撃を弾き返し姿勢を崩せば、がら空きになる胸元。

 

 

「深淵なる闇よ、汝らの無数の手により誘え(いざな)、彼の者は汝らの眠りを妨げる者なり。無限の闇の狭間にて、彼の者を招き給え! 『極闇(きょくあん)』」

 

 

 最上級闇魔法『極闇』。祝詞を唱える前に結界、浄化魔法を解除してから唱え放ったこの魔法。

 最上級とあって難易度、危険度共に度を超えて高く威力も申し分ない。

 今、この部屋の色、生きとし生ける物の時間全ての主導権、つまり生殺与奪の権は私の手にありそれを任意で行える。

 

 

「あれ? え? なに、これ?」

 

 

 リューリが困惑の表情で辺りを見回すと私を見てきた。

 

 

「リューリは私の意識下の元、この魔法の影響から除外させたさ。ささっ、あのデュラハンの胸元からちょっと見える鍵っぽいの取ってきなよ」

 

「うん、色々ツッコミたいこと大量にあるんだけどなぁー?! とりあえず、あれを取ればいいのかなー?!」

 

「そうそう、あれ! 私、この魔法の維持で動けないからさ! あ、ちなみに魔法は使えないからねぇ」

 

「はいはい! やればいいんでしょ! やれば!」

 

 

 ブツブツと文句を言うリューリには悪いが、本当に動けないのだ。この魔法の代償は私の生命力。つまりゲームでいうHPだ。

 これを削り続ける事でこの魔法は維持されるが、フェアリアルキャットの生命力なんてバカ高いのでこれぐらい問題ない。

 

 そして、リューリはデュラハンの胸元へ渋々よじ登り、胸元から鍵を剣を使って剥がして取ると、私の元にきた。

 

 

「これでいいの?」

 

「それそれ! んじゃ、さくっと終わらしますか!」

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