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【69・ハンセイカイ】

 リューリの言う『例のアレ』。

 それを聞いて鼻をひくつかせると、ほのかに香る甘い匂い。

 

 

「本当に出来たのかい? 香りはいい感じだけど、大丈夫だろうねぇ」

 

「大丈夫、大丈夫! ちゃんと出来たから!」



 力説するリューリの勢いに、私は余計心配になるが、料理長とか居たし大丈夫だろうと考え直しライオンぐらいのサイズへと姿を変えては、リューリが乗りやすいように伏せをしたのだった。



「アリア?」


「さっさと乗りな。アタシは早くそれを食べたいんだ」



 香りのするカゴから目線を動かさず、今か今かと待ち構える私にバッとカゴを抱え守るようにするリューリに、私は思わず恨めしげに視線を投げた。



「……ダメだからね?」


「一個ぐらいダメかい?」


「アリアが一個で終わるわけない」


「いいじゃないか。また作れば!」


「貴重な実ってわかってる?!」



 あーだこーだと言ってる私達に痺れを切らしたのはギルマスだった。

 リューリの襟首をむんずと掴んでは、ひょいっと私の背に乗せてきたのだ。



「どうでもいいからさっさと引き上げねぇか」



「「はい」」



 ギルマスの凄みに私達は揃って返事をすれば、これ以上、怒らせてはならないと思いさっさと待機場であるロビーへと引き上げたのだった。




 ♢♢♢♢♢




「さぁて、お前らなんだ? その体たらくは!!」


「す、すみませんでしたっっ!!」



 ギルマスであるゲリオスの怒声が、アリアとリューリが居なくなった地下鍛錬場にビリビリと響いた。


 

「手加減されている上に、あれだけ魔法負荷を掛けて起きながら、一太刀さえ付けられねぇなんて怠けてんのかぁ?! ぁあ"?!」

 

「い、いや、あと少しで行けたと思うんですが……」

 

「ぁあ"? 寝ぼけてんじゃねぇぞ!!」

 

 

 尻込みしながらもなんとか話す一人の冒険者に、周りの人間も同意するようにこくこくと頷いていた。

 

 

「ばかやろうっ! それが油断だと言ってんだろうが! いいかっ! フェアリアルキャットはお前らと立ち回りながら岩場にマーキングしてたんだぞ!」

 

「ま、マーキング?!」

 

「危なかったから無理矢理身体を大きくして、拘束を解いたとかじゃなく?」


「ありゃ、ただ単にリューリ坊ちゃんに気付いたからさっさと終わらす為でしかねぇよ」


「あぁー……」


「でも、ギルマス。よくマーキングされてるの気付きましたね」


「阿呆、アイツ(フェアリアルキャット)が言ってきたんだよ」

 

 ーー『おっと、いけない。マーキング解いておくさね。大した魔法は込めちゃいないが、こんな所で不必要な怪我をして居られたんじゃ後味悪いからねぇ』ーー

 

 

 リューリを背に乗せたまま不意に振り返り『解』と呟きながら、前足で地面を軽く叩くとアリアの視線の先にあった小さな魔法陣はスッと消えたのだった。

 いつ仕掛け、数は幾つだと聞けば、十ほど? 冒険者たちと遊んでいる最中にと、サラリと言われ軽く目眩がしそうになったのは記憶に新しい。

 

 

「マーキングってそんなに簡単に出来るもん?」

 

「えと……。術者の力量によるけど、マーキング、つまり魔法を込めた魔法陣を仕掛けるなんて簡単なようで何かと制約あるし、動きながら作って張るなんて、流石としか言えないよ。私も一応出来るけど、作れても張る時は皆に守ってもらわないと隙だらけになる。 マーキングなんてどっちかといえば、トラップみたいなものだし、普通なら戦闘中に使うものじゃないよ」

 

 

 何処かのパーティの女性魔術師が説明する。

 そこへ黙って話を聞いていたギルマスは、疲れたように息を吐きながら面倒そうに続きを説明し始めたのだった。

 

 

「あのなぁ。使い方次第だろうが。確かに普通ならお前みてぇな考えが一般的だ。だが、込める魔法と魔力量、指示を書き込めば話は変わる」

 

「でも、それでも張る時に無防備になるような……」

 

「その隙がお前らにはあり過ぎんだよ。視界を塞いでも魔力探知、気配察知、匂いでお前らの動きは丸わかり。なら、単純な物でもその隙に自分の気配を薄くして張るぐらいなら俺でも簡単だぜ?」

 

「うぐ……」

 

「連携とかも言われてたな……」

 

 

 がっくりと肩を落とす冒険者たちと呆れるギルマスのゲリオス。

 パーティ単位で動く事の多い冒険者に他パーティと咄嗟に連携を取るには難しい事もあるが、それでは生き残れない時もある。

 それを指摘され、わざと相打ちになるように仕掛けられただろうと容易に想像はつく。

 

 

「おい、お前ら! それが分かったならいつまでも引きづってねぇで対策を練ろ! 次に活かせ!」

 

 

 ゲリオスは激を飛ばしその場を後にしたのだった。

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