【70・天国と地獄】
サブタイトル変更しましたm(_ _)m
「ふおぉぉっ!! これが、これがあのカオレートかい?! 夢じゃないよねっ?! 食べていいんだよねっ?!」
「ぶふっ! くくっ……。そこまで喜んでくれるなら作ったかいがあるよ」
私達はギルマスから退場扱いされたので、ロビーの片隅へと陣取りリューリがマジックボックスから取り出した、念願のチョコレートならぬカオレートを使ったパンとクッキー、板チョコを丸テーブルに広げてテンション爆上がりで騒いでいた。
「実が大きかったからこれくらいは作れたけど、僕はパティシエじゃないからレシピは少ないよ」
「いいよ! いいよ! そんなの気にしないで! むしろありがとう! きゃっー! どれから食べよう!」
「あ、アリア、口調が戻ってるって」
リューリに注意されハッとして、辺りを見ればこっちを凝視する視線の数々。
やっべ! と思い無駄に咳き込み荒ぶる内心を沈めようと深呼吸を数回繰り返し、おすまし顔を作り改めてテーブルを見つめたのだった。
「しっかし、本当にチョコレートの見た目まんまだねぇ。リューリは、試食したのかい?」
「まぁね。僕と料理長のジンさん、あとマスカさんの三人で実食済みで、今回教えてくれたジンさんからはお墨付きを貰えたよ。あとは、数の問題さえクリア出来たらあのスイーツの祭典で使えるって!」
「なるほどねぇ。あの森で保護した若木がどうなってるか、後で見に行こうじゃないか。今のところ、もしカオレートを使うならあの木しかないからねぇ」
カオレートの板チョコに爪を刺してパクリと一口。
「んん〜〜っ!!」
口に広がるほのかな苦味と共に豊かで深い甘み。
前世で幾度となく食べ慣れたチョコレートそのままの味で、思わず身体を揺らしてしまう。あらヤダ、しっぽなんてブンブンじゃないの。
恐らく今、私の背景には花が飛んでいるエフェクトが出ているくらいだろう。
「はあぁぁー……。美味しいぃぃ。どれどれ、次はパンでも……」
「お! 美味そうな匂いしてんなぁ!」
さて、チョコデニッシュでもと手を伸ばすとそれを横から掻っ攫うように一人の冒険者がチョコデニッシュを奪って行った。
「「あ……」」
「うまっ! これ、うめぇじゃねぇか! 初めての食感だけど、甘くていいなぁ!」
「ぁああ"ーー!! アタシのチョコデニッシュううぅーー!!」
あろう事か奪ったチョコデニッシュを奴は一口で食べてしまったのだ。せっかくリューリが恐らく私が食べやすいようにと、小さめに作ってくれたのに何たる屈辱!
「貴様ぁぁ! 吐け! 今すぐチョコデニッシュを返せぇぇ! 秘技『猫パンチ』!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
「アリアぁぁっ?!」
私は悔しさと怒りのまま猫パンチを奴の腹へとお見舞いすると、奴はカウンターまでテーブルもろとも盛大な音を出して吹っ飛んでいった。
「あーぁ……」
やっちゃったよと呟くリューリの声なんていざしらず、私は吹っ飛んだ奴の腹にドスッとわざと音を立てて座り、猫パンチを繰り返し顔に放った。
「アリアっ、もうストップ! それ以上は死んじゃうって!」
「だって! だって! チョコデニッシュがぁぁっ!」
「まだ、チョコチップクッキーがあるでしょ!」
「それとこれとは別なのー!」
段々と猫パンチの威力は無くなりべしょべしょに泣く私を、リューリが急いで抱っこしてくれてた。
「あー……。今度は何があったんだよ」
リューリの腕の中でグズグズに泣き続ける私は説明してらんない。
声を掛けてきたギルマスにリューリは困ったように苦笑いをしつつ、私をあやす様に優しく背を撫でてくれる。尻尾、クルンって腕に巻き付けちゃうんだから。
「それが、アリアが楽しみにしてたカオレートを使ったお菓子とパンを作ったんですけど、あそこで伸びてる人がそれを横取りしちゃって……」
「はぁぁ……。ったく、フェアリアルキャットにまさかの甘味の弱点があったとはなぁ……。おぅおぅ、ちっせい子供みてぇに泣いてやがる。聞きてぇ事はあるが、後でいいや。とりあえず、こいつには俺から言い聞かせとくからそれをどうにかしてこい」
「あ、は、はいっ! アリア、家に戻るよ?」
「グスッ……ヤダ……」
「えぇ? ヤダって言っても、此処じゃ迷惑だし……」
「……カオの実探しに行く。もう1回作って」
「あ……やっぱり……。ただ、別の日にしよう? この後、父さんに呼ばれてるんだ。アリアと一緒に来て欲しいってさ」
リカルドが? と不審に思いながら降ろそうとするリューリに足掻くように服に爪を立てると痛い痛いと言って、諦めて抱え直してくれたのだった。
だってまだ甘えて居たいもん。
むしろ、あれくらいで我慢したんだ。これくらい主人として甘んじて受け入れて欲しい。
「あーもう。分かった分かった。僕が抱っこして行けばいいのね?」
「おら、お前もいつまでも寝てんじゃねえ。それくらいで済んで良かったと思え。下手したら死んでたんだからよ」
「アリア……?」
「ふんだ。それくらいの理性は残ってるさね。ほら、早くいくよ」
リューリの首筋にウリウリと頭を擦り付けながら、私は不貞腐れつつ呟いたのだった。




