【59・やっと帰宅!】
「書状は忘れていたんじゃなくて、一緒に渡すものが中々来なかったんだっての」
ほら、こいつも持ってけとリューリに投げ渡したのは一振の剣だった。
「わわっ! えっ?! あ、あのこれは?」
慌てて受け取ったリューリは剣をチラリと見てから戸惑い気味に国王を見上げた。
リューリが受け取った剣は一見すると、華美な装飾は無いが、よく見ると魔力石が鍔と柄にあり、鞘には魔法陣が刻まれ魔力を帯びている。
そのどれもが互いの力を引き立て、増幅させるような感じがする。
「こいつはまた凄い仕組みの剣だねぇ。 確かにこれくらい手が込んでいるなら時間もかかるさね。 リューリ、いい物貰ったじゃないか貰っておきな」
「ぇえ?! そんなに?!」
私の簡単な説明を聞いては驚き、恐れ多いとリューリは返そうとするが、国王は首を横に振ってきた。
「それは、お前の今後の為に作ったんだ。 いいか? それを使いこなし、アリア様の主人として誇れる大人になれ。 そして、お前の事を何かとうるさく言う連中を黙らせる実力をつけろ」
「国王陛下、あ、ありがとうございます」
「リューリ、良かったな」
ギュッと剣を大事そうに抱きしめ、嬉しそうに国王からの言葉を噛み締めるリューリとそれを優しく見守るリカルド。
「リカルド。 お前も大変だろうが、息災でいろよ?」
「あぁ、お前もな」
立場は違うが共に冒険者として旅した仲間同士。 リカルドと国王は互いに多くは語らずとも分かり合えるようで、私はその様子を少し羨ましく思った。
「さぁ、アリア殿、リューリ。 家に帰ろう」
「はいよ」
「うん!」
こうして、私たちは国王たちに見送られながら
行きと同じように私は二人を背に乗せて、色々あった王都からライヘン領へと帰路を目指した。
勿論、その道中は私の独断で道なき道を突き進むという私にとっては楽しいけど、二人にとってはスリル満点だったみたい。
♢♢♢
そして、現在。ライヘン領にほど近い小高い丘の上で休憩中。
風が気持ちよくのどかで見晴らしもいい。 リカルドは荷物整理をしていて、リューリは国王から貰った剣を太陽にかざして鑑定をしていた。
「アリア。 国王様から貰った剣を鑑定してみたら想像以上にヤバい代物だったよ」
「おや? アンタ、まだ見てなかったのかい?」
「どこかの誰かさんが、道なき道を突っ切るからそれどころじゃなかったんだけど?」
「でも、早かったし手頃な肉も手に入ったじゃないか」
「それとこれとは別! って、そんな事よりこの剣だよ、剣! 鍔の両端にある魔力石は風と火。柄にあるのは光、どれも一級品! 鞘に至っては効果増幅と制御の魔法陣。 何これ、国宝?」
「だからいい物っていったでしょ?」
「いや、良すぎだって! 使いこなせって言われたって難しいよー……」
「何弱気な事言ってるんだい? 修行あるのみさね」
「スパルタかっ!」
「身体に覚えさせるのが手っ取り早いんだよ」
そんなやり取りをしていると、荷物整理が終わったリカルドが行くぞ? と声をかけてきたので、私たちは再びライヘン領へと向かった。
しばらく二人を乗せて走ると見慣れた街並みが見えてきた。 やっと、帰ってきたのだ。
街の人たちからリューリとリカルドは代わる代わる挨拶をされていつの間にか囲まれていた。
私は姿を家猫姿に変えると邪魔しないようその輪から離れて見守っていたが、そんな私の元にギルマスがいつの間にか隣に来ていた。
「何の用だい?」
「何の用とはひでぇじゃねぇか。 聞いたぜ? 魔物暴走の鎮圧、ご苦労さん」
「たまたまさね。 私も久しぶりの魔物暴走は中々に面白かったよ」
「俺らからすると厄介なもんなのに、フェアリアルキャットにとっちゃ面白いのかよ」
「ふん。 私を甘く見るんじゃないよ?」
「あぁ、わかってるって。 まぁ、俺としちゃぁ、アイツらの事、頼んだぜ?」
そういいながらギルマスは囲まれていたリューリとリカルドがこちらに気付き、手を上げたリカルドに挨拶代わりの片手をあげるとそのまま冒険者ギルドへと入っていった。
「いつになったら帰るのさ。 お腹空いたんだけどねぇ」
「すみません」
「ごめん、ごめん!」
二人が口々に謝るが、その姿は中々シュールだと思う。
そして、私たちはやっとライヘン家に着いた。
「「お帰りなさい!」」
玄関を開けるとヘレンちゃんとイリスが出迎えてくれた。
「「ただいま!」」
ありふれた挨拶だけど、リューリとリカルドはそれぞれ返事を返すと何処かホッとしたように表情を緩めたのだった。




