表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/104

【86・新たなミカタ】

「……。はぁ……。なんだい、坊主」

 

 クレープをかじっていると、私の居るカウンターの下から私を見上げる熱い視線。

 いやん。私が可愛いからってそんなに見つめないで! って、馬鹿な事考えていると聞こえてくる腹の音。

 

 

「……ちょいと、そんなに見てもこれはやらないよ? 欲しけりゃ買うんだねぇ」

 

「ねぇ、それって美味しいの?」

 

「私の話聞いてたのかい? まぁ、甘くて美味いよ」

 

 

 そういいながら、ホイップクリームをひと舐め。子供は少し薄汚れていて髪は稲穂のようだが伸び放題で身体も痩せているが、恐らく10歳前後。その見た目から平民より下の身分だろう。

  この世界は身分差が激しいとリカルドから聞いてはいたが、こうして貧民層の者を見るのは初めてだ。

 

 

「……高いよね」

 

「さぁ? 聞いてみなよ。んで、そこの鼻息荒くしてる変態エルフは、よくここに私が居るってわかったねぇ」

『リューリ、貧民層の子供が買いに来てる。私は知り合いが来たから、その子供の相手してやんな』


『うん、了解。知り合いって?』


『後で紹介するさね』

 

 

 そう言い残し私はリューリとの念話を終えると、あからさまに喜色ばんだエルフの足元へと向かった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……。ひ、久しぶりぃー! なんで、そんなにちっちゃくなってんの? なんで、ここにいるの? なっ……」


「やかましいっ!」

 


 矢継ぎ早に言われるわ、じりじりと近寄ってきて近いわ、鼻息荒いわと色々とぶち壊してきた残念エルフ。思わずジャンプして頭を思いっきり叩いた私は悪くない。そうしないと止まらないのだ。


 顔はいい。そして、頭もいい。背も高く、すらりとして涼やかな目元が理性的なイケメンエルフ。

 だが、しかし、こいつのこの様子が全てを駄目にしている。

 

 

「痛てて……。んもー。酷いじゃないか! 久しぶりにあったのに、いきなり頭を叩くなんて。相変わらず、君は手が早いよね」

 

「やかましいわ。お前の事だから来てると思ったいたけど、よく私がわかったねぇ」

 

「それは! 僕のあっ」


「ふざけた事言ってんじゃないよ。まったく、いい加減にしな」



 この変態エルフ、名はリレック・リーフ・ツァイブル。こんなんでもハイエルフで魔道具、古代魔法、錬金術に詳しくその界隈ではちょっとした有名人である。

 そして、コイツを知る連中はこうコイツを呼ぶ「残念エルフ」や「魔道技師のリレック」と他にもあるが、私は残念エルフと思っている。

 いや、だって、いくらなんでも鼻息荒く無駄にテンションが高いコイツを見ていたら……ね?



「まぁ、いい。ちょうどアンタに用があったんだよ」


「ん? 僕に? やっと僕と契約してくれる気になったんだね?!」


「するわけない。そんなんじゃなくて、アンタの知識を借りたいのさ」


「えぇー……。やっと、解放されたのにー……」



 私の居るカウンターの脇に移動して、いつの間にか注文していたアイスティーを慣れたように飲んでいたが、私の言葉にガックリと肩を落とすリレック。 

 

 

「ん? 解放? 今度は何をしたんだい」

 

「ちょっと、僕が何かをやらかしたみたいな言い方止めてくれる? まだ何もしてないよ」

 

「まだって……。何かするつもりだったのかい」

 

「い、いやだなぁ……。ただ、ちょーっと休眠に入ったダンジョンから出た古文書をすこーし覗こうとしただけだよ。保管場所があの学園都市の図書館の禁術書保管室なだけ!」

 

「……アンタ、出禁になったんじゃないかい?」

 

「……てへっ!」

 

 

 記憶の奥に昔コイツと一緒に旅をしていた時に巻き込まれた騒ぎを思い出し突っつけば、誤魔化し切れない誤魔化しをされて思わず呆れてしまう。

 てへっ! なんて可愛くもなんともない。

 

 

「まぁ、いい。アンタ、合成獣についてどう思う?」

 

「んー? 随分、唐突だねぇ。……それは自然産? 人工産? まぁ、自然産ならそのまま放置。だって、この世界の(ことわり)と摂理に則った存在が許されたもの。でも、人工産なら助ける意味も含めて死を与えるべきだね。アレは理とかを個々の存在を無視した非人道的だし忌むべき存在だ。それがどうしたんだい? だいたい、人工産は国際法で禁術指定されていて、発覚した場合かなりの重罪だし、その術自体かなり難しいはずだよ? 今の時代、知ってる人間は少ないと思うし……。なんかあった?」



 私の隣の壁へと寄りかかり、賑やかな祭を眺めながらなんとでもない様子で言われた内容は否定的な物。

 まぁ、普通の反応だ。私が考えているのは普通じゃないし、フェアリアルキャットとしての思考も何考えてるんだって状態だ。

 でも、リューリが願ったから。人間だった時の私の感覚でも助けたいと思ったから。



「一体の人工産合成獣をそれぞれあるべき姿に戻したい」


「………………は?」



 息を小さく吸い込み、 リレックを見上げ見据える。

 私の言葉を上手く飲み込め無かったのか、私に向かって勢いよく振り向き固まるリレック。

 

 

「だから、一体の人工産合成獣を本来あるべき姿にそれぞれ戻したいんだよ。可能かい?」

 

「いやいやいや、言葉の意味は分かってる。わかっているけど、いや、わかってるからこそ、だよ? 君だってわかってるんだろ? それが如何に難しくて、ほぼ不可能ってことぐらい」

 

「でも、可能性はゼロじゃないだろ?」

 

「いやいや、理論上は可能かもだけど実現させた人は居ないし、そもそも人工産合成獣が禁術なんだから証明しようがないんだよ? わかって言ってる?」

 

「ごちゃごちゃ五月蝿いねぇ。アンタの無駄に良い頭と可能出来る程の魔力があればどうなんだい?」

 

 

 無茶苦茶を言ってるのはわかってる。でも、だからといって諦める? いや、それは無い。私と向き合い私が冗談を言ってる訳では無いと察したリレックは深いため息をした。

 

 

「……理論上は合成出来たのならその逆。つまり分解も端的に言えば可能だよ。ただ、現実的じゃない。それぞれあるべき姿って事は、合成前に戻すって事でしょ? 言葉にするのは簡単だけど、無機物を分解するのとは訳が違う。造るのも難しい術なのに、分解。それも、別々の個体として存在させるなんて魔力云々の問題だけじゃない」

 

 

 頭が痛いとばかりに首を振るリレックの頭の中では今、凄い勢いで記憶を遡ったり錬金術師として計算されてるはず。知らんけど。

 

 

「何が君をそうさせたのかはあの少年かな?」

 

 

 こちらを気にしつつも、自身より小さい子供の相手をするリューリをチラ見する。

 

 

「……そうさねぇ。それもあるが、私自身の為でもあるよ」

 

 

「あーぁ。妬けるなぁ。君をそんな風に変えたのも従魔契約もあの子だろ? 僕の方が君の相棒として良いと思ってたんだけどなぁ」

 

「ふん。やかましいよ。……んで? この話、一枚噛むかい?」

 

「はぁー……。わかった。錬金術師として気になる事だし、手を貸そう」

 

 

 仕方ないなぁ。とばかりに苦笑いをするリレックに助かるよ。と素っ気なく言うが内心の私は嬉しさに小躍りしてたのは秘密だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ