世界の理と、物騒な使命
「……うぅ……」
ナイトホーク――今はシェマー・ムーア似の黒衣の戦闘服のイケメン――が、壁にもたれて膝を抱えていた。
その姿はどう見ても“世界を滅ぼす黒竜”ではなく、“上司に理不尽に怒られた新人”。
「ちょっとオーエン! 何したのよ!」
エリが駆け寄ると、オーエンは腕を組んだまま、どこかスッキリした顔で答えた。
「事実を述べただけだ。“人間から見れば黒竜も魔獣も同じ”と」
「それが一番ダメなやつでしょ!」
ナイトホークは涙目でエリの袖をつまんだ。
「エリ殿……儂は……儂は魔獣ではない……。高貴なる黒竜族なのだ……。
人間の分類など……心が折れる……」
「はいはい、大丈夫よ。ナイトホークは“心優しい黒竜”だから」
エリが肩をぽんと叩くと、ナイトホークは一瞬で機嫌を取り戻し、
“黒竜の威厳”より“褒められた大型犬”の顔になった。そしてエリに見えないようにオーエンを見てニヤリとした。
(……こいつ、本当に黒竜か?)
オーエンは心の中でツッコんだが、口には出さなかった。
そんな空気を切り裂くように、カルミナが扇子を閉じて前に出た。
「さて、エリ。あなたに話しておかないといけないことがあるの」
「また面倒な話?」
「ええ、とても面倒よ。世界の理について、ね」
カルミナは神妙な顔をして語り始めた。
「魔獣が増えている理由……それは“魔界”がこちらの世界に近づいているからなの」
「魔界?」
「そう。魔界とこちらの世界が接近すると、魔界の生き物がこちらに流れ込んでくる。それが魔獣。そして――」
カルミナはわざと間を置き、扇子で口元を隠した。
「もっと厄介なのが“魔人”よ」
「魔人……。どんなの?」
「簡単に言えば……“ゾンビのくせに知恵がある”存在ね」
「は?」
エリの脳内に、ウォーキング・デッドの“走るゾンビ”が大量に湧いた。
「ゾンビなのに知恵があるの?」
「ええ。罠を張るし、集団で襲うし、逃げるし、隠れるし…… 人間を騙すのも得意よ」
「それにこのゾンビは人を生きたまま喰らうのだ」とオーエンが補足した。
「そんなに凶悪な奴、どうやって退治すればいいのよ」
「魔人は魔獣より遥かに危険。だからこそ――」
カルミナの目がキラリと光る。
「あなたの“この世界にない概念”が必要なのよ。
どんな兵器で魔人を殲滅してくれるのか……楽しみにしているわ」
(……この人、絶対に楽しんでる)
エリは心の中でため息をついた。
その横で、オーエンが拳を握りしめ、震える声で言った。
「エリ……君をそんな修羅の地に送り込むなんて……!」
「いや、まだ行くとは言ってないから!」
「だが、君は行くのだろう? いつもそうやって……!」
「勝手に悲劇のヒロインにしないで!」
さらにナイトホークが胸を張る。
「エリ殿。魔界に行くなら、儂も同行するぞ。
儂の炎で魔界ごと焼き払ってやろう」
「焼き払わないで! まだ行くかどうかも決めてないから!」
こうして、世界の理という重大な話は、
いつものようにツッコミと誤解と暴走にまみれながら幕を閉じた。




