2-17 ルシウスとレイン(ルシウス視点)
「ベルローズとなにがあった?」
「……」
ベルローズとリオネが街に行っている頃。
ヴェリアンデ邸のルシウスの自室ではレインとルシウスが向かい合っている。
とはいってもルシウスはレインから少しズレたところを見ているが。
探るように真面目な表情でルシウスを見据えるレインに対して、ルシウスはにこにこと微笑んでいた。
「なにって……なにもないよ?」
「なにもないなら休日だと言うのにお前がベルローズに会いにこないわけがない」
「たまにはレインと友情を深めようと思ってさ」
「……」
朗らかに笑いながら言うルシウスにレインは表情を緩めることなく、ルシウスを見つめ続ける。
「……はぁ……まあ、レインに嘘は通用しないよね」
「当たり前だろ」
ルシウスは観念したように苦笑し、レインはぶっきらぼうに返す。
「けどごめんね、言いたくないや」
窓の外を見ながら軽く笑って言ったルシウスをじっと見つめ続けるレインは口を開いた。
「泣かせでもしたか?」
「……見当はついてたのか」
レインの言葉にルシウスは乾いた笑いを漏らす。
先ほどから頑なにレインと視線を合わせようとしないルシウスをレインはずっと見つめている。
ルシウスはなにかを話したくないとき、絶対に目を合わせようとしない。幼い頃からの彼の癖だ。
(いつまでたっても、癖は変わらないな)
「それで、どうする?」
レインが感慨深げに心のなかで思っていると、ようやくレインのほうを見たルシウスがにっこりと笑いながら尋ねた。
「どうするって、なにをだ?」
「僕をベルローズから遠ざけるかって話。今まで干渉しなかった君でも、さすがに妹を泣かせられたら干渉せざるを得ないだろう?」
きょとんとした表情になるレインにルシウスが冷たく返す。
ルシウスの言葉になにかを考え込むようにしばらく黙り込んだレインはゆっくりと口を開いた。
「俺は__」
「レイン様!」
「……リオネ?」
レインの言葉を遮るようにノックもしないで入室してきたリオネにレインは驚いたように声を漏らす。
ルシウスも声は出さなかったものの、リオネのほうを目を見開きながら見ていた。
しかしそんな二人の様子に構うことなく、リオネは肩で息をしながら大きな声で叫んだ。
「ベルローズが階段から落ちて……ユリアデナ邸でお医者様に看てもらっていますが、意識が戻らなくって……!」
「ベルローズが!?」
リオネの言葉にレインがこぼれんばかりに目を見開いて大きな声で返す。
すぐにユリアデナ邸に向かわなければ、とレインが動こうとしたときには扉の側に立つリオネのすぐ横をルシウスが走り抜けていた。
「ルシウス様!?」
「馬車を用意しろ! ユリアデナ邸へ行く。今すぐだ!」
驚いたように声を出す執事とルシウスの大きな声が廊下から響く。
その様子にハッと我に返ったレインはリオネのほうへ向き直る。
「リオネ、お父様やお母様に連絡は?」
「しているところです……我が家はフェルメナース邸よりもヴェリアンデ邸のほうが近いですし、レイン様がこちらにいるのはベルローズから聞いていましたので私はこちらに来ましたが、使用人が同じタイミングでフェルメナース邸へ伝えに行ったのであと10分もすればフェルメナース邸に着くはずです」
「そうか、ありがとう。とりあえずユリアデナ邸に行こう」
「はい……」
冷静になろうと努力はしているが、妹の意識が戻らないという情報を聞いて冷静に徹することなどできないレインは不安そうな表情をするリオネと共にユリアデナ邸へと急ぐのだった。
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