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2-9 レインの提案

 そして現在に至る。

 昼休み開始直後のことを思い出すことで、現実逃避をしていたベルローズは、目の前でコーヒーを啜るリュシールをちらりと窺った。

 リシャールもベルローズと同じくあまり喋る性格ではないためか、二人の間に会話が生まれることはない。


 リアとレインはというと、リアのほうはケーキを取りに、レインのほうはコーヒーのおかわりを取りに食堂へ行っている。

 リアがデザートを取りに食堂へ行くことは日頃から何度かあったことではある。そのたびにルシウスは「そのまま教室戻れば?」と辛辣に言っていた。


 レインは甘いものが苦手なのでデザートを取りに行くことはないのだが、いつもは彼しか飲まないコーヒーを今日はリュシールも飲んだことでコーヒーが足りなくなってしまったらしい。



(リアと彼で食堂まで行ったほうがよかったんじゃないかしら……)



 リュシールを応援するわけではないがリアも彼と仲が良いようだったので、そのほうがよかった気がするベルローズ。

 実際のところ彼と二人きりになるのが気まずいだけである。



「あーその……リアとはどうして仲良くなったんだ?」

「お義姉様からの紹介です、やっぱり好きなんですねリアのこと」

「……は!?」

「あ……」



 ようやく会話が生まれた二人だったが、ベルローズからこぼれ落ちた余計な一言で空気が一変した。

 顔を真っ赤に染めたリュシールは素っ頓狂な声を出して慌てふためいている。


 視線を右往左往させたリュシールはガクッとうなだれてハァーと息をつく。



「……リアには言わないでくれ」

「言いませんよ」

「そうか、ありがとう」



 ベルローズの言葉を聞いたリュシールはほっとしたように言った。

 リュシールはもう一度息を吐いてから顔を上げた。その表情は赤みも引いていて、真剣な面差しである。



「それでだな、フェルメナース伯爵令嬢……リアに少しでも振り向いてもらおうといろいろ頑張っているものの、リアはまったく気がつかないのだが……どうすればいいと思う?」

「……」

(恋情に気づかれた瞬間、恋愛相談をしてきた……意外な一面すぎるわ)



 あまりにも早すぎる手の返しように驚いて沈黙を返してしまうベルローズをリュシールは真面目な表情で見つめている。

 ベルローズからしてみると、純粋な瞳で恋愛相談のアドバイスを求められても良いアドバイスなど思い浮かばない。

 しかしベルローズからの言葉を待ち受けるかのような眼差しをリュシールが向け続けるものだから、ベルローズは仕方なく口を開いた。



「あー……そうですね。一生を共にするなら誠実な人がいい、と言っていたのでワステリア公爵令息なら今のままで大丈夫なのではないでしょうか」

「誠実な人か……」



 以前、前世の話をしていたときに「やっぱり最終的には誠実な人が一番だよね」と訳アリ顔でぼやいていたリアを思い出してベルローズは言う。

 ベルローズの言葉を受けて難しい顔で思案するリュシールに、真面目な人だよなぁとベルローズは思った。



「また眉間に皺が寄ってますよ、リュシール先輩」



 両手に一つずつチョコケーキが乗った皿を持ったリアがからかうように言いながら、ガゼボへ戻ってきた。レインも後ろからついてきている。



「2つも貰ってきたの?」

「チョコケーキ好きでしょ? 食べるかなーと思って」

「そうなのね、ありがとう。いただくわ」



 ニッと笑ったリアからチョコケーキを一つ受け取って、ベルローズは華奢な銀のスプーンを手に取った。

 レインは談笑しながらケーキを食べるベルローズとリアの様子を見守りながら席に座ってコーヒーを飲む。



「そういえばもうそろそろ建国祭だな」

「あぁ、確かに」

「その時期ですね」



 レインが不意に口を開き、リュシールとリアがそれに頷く。



「まあ、私は関係ないですけどね。街のお祭りを回るだけです。ベルローズたちは夜会があるんだっけ?」

「えぇ。王家主催の夜会だから強制参加よ」

「大変だねぇ」



 しみじみとベルローズを労ったリアに、ベルローズは苦笑する。

 毎年盛大に行われる建国祭は早朝から身支度が始まり、昼前から始まる長ーい式典に参加したあと、夕方から始まる夜会に夜遅くまで参加しなければならないという地獄の1日である。

 去年の建国祭の翌日の疲労を思い出したベルローズとレイン、リュシールは揃って顔色を悪くした。



「ほんとうに大変だよね。平民はどんちゃん騒ぎだけど、貴族のほうは他国からの来賓もあるし、気が抜けないもんね」

「私はまだマシなほうよ、式典のあと夜会の前にドレスを着替えるために1回家に帰れるんだもの」



 ベルローズは乾いた笑いを漏らしながら言う。

 そうなんだ、と頷いたリアはレインとリュシールのほうへ目を向けた。



「レイン先輩はずっと王宮にいるんですか?」

「俺は夜会の前にリオネを迎えにユリアデナ伯爵家まで行くから、ずっと王宮にいるわけではないな」

「婚約者ですもんね、大変そうだけどドレス姿のリオネ先輩をエスコートできるのはいいなぁ」



 羨ましそうに言ったリアに対して、レインが自慢げにフッと笑うものだからリアはムッとした表情になる。

 レインから視線を動かしたリアはリュシールのほうを見る。



「リュシール先輩は? 婚約者はいないですよね? ずっと王宮にいるんですか?」

「まあ今年もそうなるかな……一昨年ぐらいまでは従兄弟にパートナーを頼んでいたんだが、そちらに婚約者ができてしまったから仕方がない」

「ずっと王宮にいるなんて気が抜けませんね」

「あぁ……」



 リアに話しかけられて少々嬉しそうに話していたリュシールだが、建国祭の憂鬱を思い出したのか話しながら段々と表情に影が差す。

 その様子を見ていたレインがおもむろに口を開いた。



「……ベルローズはまだパートナーが決まっていないだろう?」

「え? えぇ、決まっていないけれど」



 不意にレインがベルローズに尋ねてきて、ベルローズは困惑しながらこたえる。

 ベルローズは決まっていないと言ったものの、ここ3年間ずっとルシウスと参加しているので今年も彼と参加するのだろうと思っていた。



「じゃあ、リュシールとパートナーになったらどうだ?」

「「「え?」」」



 ベルローズ、リア、リュシールの素っ頓狂な声がぴったりと重なって響いたのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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