2-8 リュシールの思い
「……」
「……」
(この気まずい状況はなんなのかしら……!?)
暖かな日光が差し込む学園内の中庭のガゼボで、ベルローズはリュシールと向き合いながらかれこれ5分ほど沈黙し続けている。
(お兄様とリア、早く帰ってきて……!)
ベルローズは表面上はにこにこと微笑みつつ、心のなかで涙目になりながら叫ぶのだった。
***
事の発端は昼休みが始まった直後まで遡る。
リアの実家に招待してもらいとても楽しい時間を過ごした3日後の昼休み。いつもならルシウスと刺々しい雰囲気を醸し出しながらベルローズを迎えに来るリアが、上機嫌に一人でベルローズの教室にやってきた。
曰く、ルシウスは家の用事で今日学園を欠席しているらしい。
「やっぱりリオネ先輩が忙しいのが悔しいよね。せっかくあいつがいない昼食だっていうのに一緒に食べれないなんて……リオネ先輩も悔やんでたよ」
「あはは……」
口をとがらせて悔しがるリアにベルローズは乾いた笑みを返しながら、二人は食堂へ向かう。
相も変わらずルシウスに対してリオネやリアは辛辣である。
「それにしても、今日はほんとうにいい天気だねー」
「えぇ、そうね」
「あ、そうだ! 折角だから食堂で昼食を受け取って中庭のガゼボで食べよう!」
窓の外に広がる青空を見ながら、リアが『良いことを思いついた』と言わんばかりの表情で提案した。
確かに過ごしやすい天気なので、中庭で昼食を食べるのは心地良いだろうし、学園内の中庭に置かれたガゼボは一つ一つの距離は離れつつもかなりの数があるので、空いているガゼボはまだまだあるだろう。
リアの提案にベルローズは頷いて、食堂に昼食を受け取りに向かった。
たいていの生徒が食堂を利用するので、昼休みが始まって5分ほどしか経っていないがすでに食堂は混みつつある。混雑しているといっても、食堂がまったく狭く感じないのは流石は貴族学園といったところだろう。
昼食を受け取るために列に並んで談笑していたベルローズとリアだが、リアがびっくりしたように声を上げたことで会話が中断された。
「あれ? リュシール先輩!」
「ん? あぁ、リアか」
「なんで食堂にいるんですか? いつも生徒会室でお弁当食べてますよね?」
ちょうど最後尾に並んでいたベルローズとリアの後ろに並んだのはリュシールだった。
彼はリアの質問に少しばかり苦笑して、口を開く。
「いつもはそうなんだが……料理長が腰を痛めてしまったものだから、弁当を作ってもらうのは憚られたんだ」
「料理人は何人もいるんじゃないんですか? 公爵家ですもの」
理由を述べたリュシールに貴族の常識を知っている者であれば当然の質問を投げかけるリアに、彼は気まずそうに視線を彷徨わせた。
「他の料理人じゃあ、ダメなんだよリュシール先輩は」
「あら、デリック」
「デリック、黙っていろ」
リュシールの後ろからひょこっと顔を出したデリックに、リアがひらひらと手を振り、リュシールは低い声で言った。
彼の耳が赤くなっていることにベルローズは気づく。
凄むようにデリックへ発したリュシールだったが、デリックはそれに臆することなく言葉を続けた。
「リュシール先輩は昔から料理長の料理しか食べないんだよ、もはやワステリア公爵家内でもリュシール先輩専用の料理人になってるってこの前夫人がおっしゃっていたよ」
「わお、結構味に厳しいんですね」
「……」
デリックの言葉にリアが意外だなーという表情でリュシールを見るが、彼は気まずそうに黙り込んでしまう。
デリックとリュシールは爵位こそ少し差があるものの、従兄弟なのでデリックからリュシールに対する遠慮が皆無である。
「それじゃ、僕は行くよ」
「デリックはリュシール先輩と食べるんじゃないの?」
「いや、偶然通り過ぎたら面白い話をしていたから」
きょとんとしたリアにデリックがこたえ、リアがリュシールのほうへ視線を戻す。
「じゃあ、リュシール先輩はお一人ですか?」
「まぁそうだな。いつも通り生徒会室で食べる予定だ」
「あ、じゃあ私たちとレイン先輩と食べませんか?」
「「え?」」
突然のリアの提案にリュシールとベルローズの素っ頓狂な声が重なった。
「中庭のガゼボで食べる予定なんですよ。今日はいい天気ですし、どうですか? 今日はあいついませんし……」
「え……あぁ、いや__」
「いいじゃないですか、ガゼボで食べるの。行ってきたらどうです?」
「デリックお前__!」
無邪気に笑う__最後の部分だけ少し腹黒かったが__リアの言葉でうろたえるリュシールをデリックがやけにニヤニヤしながら小突く。
(やっぱりそういうことなのね)
その様子を眺めていたベルローズは、リュシールがリアのことを好きなのだという結論に辿り着く。
この前、ベルローズとリアが生徒会室を退出した際に扉のほうを切なげに眺めていたのもそういう意味だったのだ。
そしておそらくその恋心にリアは気づいていない。
学園で初めて会った日に「攻略する気はない」と言っていたし、そもそも攻略する気でいるのならリュシールルートでのヒロインの行動をなぞればいいが、リアの行動は実際の乙女ゲームのヒロインの行動と違いすぎる。
おそらく無意識にリュシールからの思いを勝ち取ってしまったのだろう。
(さすがリアだわ……)
前世の推しとはいえ、恋愛感情なんて存在しないベルローズは純粋にリアに感嘆した。
「あれ、でもリュシール先輩以前私が持ち込んだ手作りのお菓子食べてなかったっけ__?」
「せっかくのお誘いだし、フェルメナース嬢が良ければ一緒に食べさせてもらおう!」
リアの呟いた言葉にギクッと反応したリュシールは被せるように言う。
割と恋情が露骨だな……とベルローズが思っていると、リュシールが「ご一緒してもいいかな?」とかなり必死な形相で尋ねた。
「えぇ、大丈夫ですよ」
なんだか断るのは可哀想でベルローズは微笑みながらこたえる。
そうしてリュシールはリアとベルローズ、そしてレインと昼食を共にすることが決定したのだった。
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