2-3 ヒロインという先輩
「リアは生徒会で書記をしているのよ。5年ほど前に設けられた『特待生制度』の試験に合格した初めての生徒なの。とても優秀よ」
リオネがリアの紹介をするものの、呆然とするベルローズにはその話が右から左へと流れてしまっていた。
「……ベルローズ?」
「あ……! すみません、少しぼーっとしてしまって……ベルローズ・フェルメナースです。えぇ、その……確かに二度ほどお会いしたことがありますね」
ぽかんとしていたベルローズを訝しんだリオネの声にハッとしたベルローズは、リアにカーテシーを返す。
「覚えていてくださって嬉しいです…………リオネ先輩」
ベルローズの言葉に安堵の表情を浮かべたリアはリオネに呼びかける。その様子を見てリアはベルローズの一つ上の学年だから、ベルローズより2つ年上のリオネが彼女にとっても先輩にあたるのだとベルローズは気づいた。
「えぇ、わかってるわ……ごめんなさい、ベルローズ。私はここでお暇するわね、リアが貴方に話したいことがあるみたいなの」
「え?」
ベルローズの困惑した声にリオネは申し訳なさそうな表情になった。リアは身動ぎをせず、じっとベルローズとリオネを見据えている。
「ほんとうにごめんなさい、また今度二人で出かけましょう?」
「……はい、もちろんです」
ベルローズの言葉に柔らかく微笑んだリオネは静かに部屋から退出して、静かに扉を閉めた。
二人きりになった部屋のなかで、先に口を開いたのはリアだった。
「フェルメナース伯爵令嬢……『乙女ゲーム』という言葉をご存知ですか?」
「……っ!」
おそらく転生者であるリアがベルローズにしたい話とは前世関連のことなのではないかと薄々推察していたベルローズだが、彼女が思ったよりもリアが真っ直ぐに尋ねてくるものだから息を呑んでしまう。
そんなベルローズの態度にリアは質問のこたえを見つけたらしく、小さく深呼吸をした。
「やはりご存知なんですね……ここが乙女ゲームの世界であることも?」
「……はい、知っています」
「ゲーム内での貴方の将来も……?」
「えぇ……」
ベルローズの言葉にリアは眉尻を下げる。
しかしそれも一瞬で、彼女はすぐに真剣な面差しになり、再び口を開いた。
「私は乙女ゲームのストーリーをなぞる気は到底ありません。両親の願いなのでこの貴族学園で生徒会役員として生活していますが、攻略対象の彼らと恋仲になる気は毛頭ありませんし彼らも中身が『ヒロイン』ではない私に興味がないようです」
「…………」
「貴方が私と同じ転生者であることは初めてお会いしたときから察していました……だからきっと乙女ゲームのような将来に進む可能性は低いと思っていましたが……」
黙り込みながらリアの話を聞くベルローズに躊躇うような視線を向けたリアだが、それでも言葉を続けた。
「これは私の身勝手な警告です、フェルメナース伯爵令嬢。ヴェリアンデ侯爵令息は危ないです。乙女ゲームではヒロインに向いていた彼の執着が、現在貴方に向いています。それもヒロインに向けていた執着よりも苛烈に」
「えぇ……そうですね」
やはりそうなのか、とベルローズは思う。
リアの言葉は、まさしくルシウスがベルローズへの執着をあらわにしてからずっとベルローズが心の奥底で考えていたことだった。
ヒロインに執着を向けながらも乙女ゲーム終了時までヒロインの行動を制限することがなかったルシウスが今はベルローズの交友関係を狭めようと躍起になっている。
「離れることをおすすめするわけではありません。おそらく離れようとすればするほど彼は危ないことを考える……フェルメナース伯爵令嬢は彼のルートをプレイしたことがありますか?」
「え? ルシウス様は攻略対象ではないはずじゃ……」
リアの言葉にベルローズは大きく目を見開く。
むしろベルローズの言葉に驚いたリアは少し戸惑ったように視線を動かした。
「ヴェリアンデ侯爵令息はビジュアルが大変人気でしたし、ヤンデレ属性なのもかなりのプレイヤーから支持を得たので追加コンテンツとして彼のルートが有料で開放されたんです」
「そうなんですね……」
「私もそれをプレイしていたので、言い方は悪いですが彼からの好感度を下げる方法は知っています。それが今の彼に効くかはわかりませんが、執着全開の彼から逃げるよりは安全かもしれません」
リアの言葉は理にかなっていた。
この3年間ベルローズがやんわりと彼を遠ざけようとするだけで豹変するのだから、本格的に離れようとすればルシウスがどんな行動に出るかなんて皆目見当がつかない。
「フェルメナース伯爵令嬢が彼から離れたい、とほんとうに思った時は頼ってください。間違っても一人で逃げようとしないで」
「……ありがとうございます」
リアの真剣な声音にベルローズは頷きながら礼を言う。
学園に入る前に街で二回会ったことがあるだけなのに、ルシウスの執着がベルローズに移り乙女ゲームから解放された彼女がここまでベルローズを心配する理由が見当たらなかったベルローズだが、リアの厚意を嬉しいと思う気持ちは確かにあったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。




