2-2 紹介したい人
翌日。
早速授業が始まり、ベルローズは新しい生活に緊張しながらも授業に参加している。
昨日は自室に戻ろうとするところをルシウスに邪魔され、結局ほとんどルシウスとレインと一緒に過ごしていた。今朝も同じ馬車に一緒に乗り込んで登校している。
レインとルシウスはそういったことがベルローズの入学前にも何度かあったので、なかなか注目を集める二人だが他の生徒はあまり気にしていなかった。
ここでの他の生徒とは2年生以上の生徒のことであり、当然ベルローズと同学年の生徒はそんな場面に立ち会ったことがないので今朝からずっとベルローズは同学年の生徒__ほとんどが令嬢だ__からジトーっと睨まれていて、いたたまれない。
ただでさえ朝のことで針の筵状態だったのに、あろうことかルシウスは昼休みになるとベルローズを昼食に誘いに来る。
もちろん、レインと彼の婚約者であるユリアデナ伯爵令嬢も同席するらしいのだが、誘いに来たのがルシウス一人だったことから、より一層令嬢たちの視線はキツくなった。
貴族令嬢のなかで唯一仲良くできているユリアデナ伯爵令嬢と昼食を共にすることができたのはほんとうに嬉しかったベルローズだが、午後の授業はとてつもなく居心地が悪かった。
「ルシウス様を誘いによこさないでよ……」
「俺もリオネも昼休みの直前まで忙しかったんだ、仕方ないだろ?」
「まぁそうよね、お兄様もお義姉様も生徒会役員なわけだし」
放課後になり、ベルローズの教室まで迎えに来たレインと共にベルローズは正門へ向かう。さすがに今日はルシウスはいないらしい。
ちなみにユリアデナ伯爵令嬢とレインはまだ婚約者という間柄であって結婚はしていないが、ベルローズは彼女のことをお義姉様と呼んでいる。
レインが隣にいることで令嬢たちの視線は少しだけ和らいだが、明日の朝になればおそらく元に戻っているだろう。
非常に学園生活の先行きが不安なベルローズであった。
***
「ベルローズ、一緒にご飯を食べましょう?」
「お義姉様! もちろんです!」
授業が始まって1週間後の昼休み。
豊かな金髪をふわりと揺らしたリオネがひょこっとベルローズの教室に姿を現した。大きな垂れ目に柔らかい微笑みを携えた大好きな友人の登場にベルローズはパッと顔を輝かせて頷く。
授業が始まってからずっとリオネと昼食を共にしていたベルローズだが、誘いに来るのは決まってルシウスだったので複雑な気持ちで彼について行っていたが、リオネが誘いに来てくれたとなれば即決である。
鼻歌交じりにリオネのもとまで歩き、彼女と共に食堂へ向かう。
「今日はヴェリアンデ侯爵令息もいないし、レインもいないのよ」
「お兄様もルシウス様もですか?」
「えぇ、なにか用があるみたい」
歩きながら話すリオネはふふっと笑いながら続ける。
「それでね、ベルローズに紹介したい人がいるの」
「私に?」
「そう。あちらが貴方と話がしたいって言うの。私も親しくしている人だし、とても良い子だからすぐにでも紹介したかったのだけれど……なぜかヴェリアンデ侯爵令息がダメだって言うのよ。でも彼にベルローズの交友関係を狭める権利なんて一つもないでしょう?」
「えぇ、まぁそうですね」
おっとりと笑っているリオネだが、なかなかルシウスに対して棘がある。もとより彼女とルシウスはあまり仲が良くない。レインとベルローズという兄妹を挟んでいなければ関わることすらしないだろう。
ルシウスがベルローズと会わせてはダメだ、と言うのならばリオネが紹介したい人とは男性なのだろうか。ルシウスはベルローズがレインとルシウス以外の異性と関わると、ほんとうに嫌そうな顔をする。
婚約者なわけでもなく、ましてや恋人なわけでもないのにルシウスがベルローズの交友関係を狭めようとするものだから、リオネとルシウスはよく口論していた。
ベルローズの兄であり、ルシウスの親友であり、リオネの婚約者であるのだから、レインがそれを止めてくれれば良いものの、彼は『我関せず』を突き通すものだから年々リオネとルシウスの仲は悪化しつつある。
「今日はここで食べましょう?」
「ここって、生徒会役員専用のところじゃ……?」
「えぇ、そうよ。といっても生徒会役員が許可すれば一般生徒も入れるの」
リオネが指し示した扉は、食堂の近くにある生徒会役員専用の個室の扉だった。
「ベルローズはなかなか目立つでしょう? すぐにヴェリアンデ侯爵令息の耳に入ると厄介だし、紹介したい方も生徒会役員だからちょうどいいと思って」
「そうなんですね」
ルシウスのことなのでベルローズが他の男子生徒といるとなればすっ飛んできて、引き離すだろうからリオネの判断は賢いと言える。
生徒会役員でルシウスが会わせることを嫌がるとなると男子生徒の可能性が高く、もしかするとリオネが紹介したい人とは攻略対象の誰かかもしれない。
なぜベルローズに相手が会いたがっているのかはわからないが、もしも攻略対象だったらどうしようかとベルローズは心配するが、それは杞憂に終わった。
なぜならリオネに促されて個室に入った瞬間に聞こえてきた声も、視界に入ってきた相手の姿も攻略対象とはほど遠いものだったからだ。
「はじめまして……ではないですよね。ごきげんよう、フェルメナース伯爵令嬢。私はリアと申します」
ピンクブロンドの肩ほどで切り揃えられた髪を揺らしながら、優雅にカーテシーをする少女がそこには立っていた。
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