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1-18 止血

「あ、ルシウス様! 血が!」



 呆然と扉のほうを見つめながら突っ立っていたベルローズは、目の前に立つルシウスにハッと視線を戻して大きな声で言う。

 椅子の側においてあるポシェットから自身の白いレース生地の清潔なハンカチを取り出したベルローズは、血が出ているルシウスの頬にそれをあてた。



「いいよ、ベルローズ。汚れてしまうから」

「汚れても大丈夫ですから……とりあえず止血しましょう。消毒液はありますか?」



 ベルローズがハンカチを持つ手を自身の頬から離させようとしたルシウスだが、彼の力は弱々しくベルローズはハンカチをあてたまま彼をベッドに座らせる。

 キョロキョロと視線を部屋中に彷徨わせながら消毒を探すベルローズに、ルシウスは軽く息をついた。



「……そこのタンスの二段目のなかに入っていたはずだよ」

「ありがとうございます。取ってきますので、ハンカチをご自分で押さえていてくださいね?」



 ルシウスの言葉に頷いたベルローズはハンカチを彼の頬にあてたまま、もう片方の手で彼の手を掴んでハンカチを押さえさせる。

 真っ白なハンカチは四つ折りのまま彼の頬にあてられていたが、もともと薄い生地でできていることもあってすでに中央がじんわりと赤く染まりつつあった。


 ルシウスがハンカチを押さえたのを見届けたベルローズは、ベッドから離れて先ほど彼が教えてくれたタンスに駆け寄る。

 ガラッと音を立てながらタンスの二段目の取っ手を引いたベルローズは、そのなかに消毒液のみならず湿布や包帯など多くの応急処置で用いるものが入っていることに驚きながら、必要そうなものを取り出してベッドのほうへ戻った。



「……少し沁みますよ」



 ピンセットを使ってコットンに消毒液を染み込ませたベルローズは、ベッドに腰掛けるルシウスに処置がしやすいように床に膝をつきながら言う。

 ルシウスはハンカチを頬から離しながらコクッと頷き、ベルローズはおそるおそる彼の頬にコットンを近づけた。


 ルシウスの頬に触れたコットンはジワジワと赤く染まり、彼はコットンがあてられているほうの眉毛をピクッと動かした。

 軽く彼の頬を拭くようにコットンを動かしたベルローズは、すぐにコットンを彼から離してガーゼを傷のサイズより一回り大きめに切る。


 そして切ったガーゼを丁寧に彼の頬に貼り付けたベルローズは、貼り付ける最中に触れたルシウスの頬の温度がとても高かったことにギュッと眉を寄せた。



(こんなにも熱があるのに……なんで仮病だなんて言うのよ)



 ルシウスの母である女性の先ほどの暴言を心のなかで否定したベルローズをルシウスはじっと見つめていた。



「……止血はしましたから、もうお休みになってください。酷い顔色ですよ」

「そうだね、寝ることにするよ」



 ベルローズの勧めに素直に頷いたルシウスはベッドに足を上げて横たわる。

 その様子を見ていたベルローズに向かって気だるそうにルシウスは口を開いた。



「ベルローズ、君はもう帰るんだ。ここにいてもいいことなんてないから」

「……」



 沈黙するベルローズを畳み掛けるようにルシウスは言葉を続ける。その言葉にはどこか昏い音がのっていた。



「まだ昼食だって食べていないだろう? ずっと側にいたら、伝染る可能性も高いし帰ったほうが良い」

「……わかりました」



 頷きながら立ち上がり、椅子にのっていたポシェットを手に取ったベルローズは静かに部屋を退出したのだった。




お読みいただき、ありがとうございました。

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