#68 ギルドマスター
ギルドマスターと呼ばれていたが、それにしてはかなり若々しい見た目をしている。三十代……下手すれば、まだ二十代後半なのではないのだろうか?
身長は百八十届かない程度、茶色の瞳に黒髪の七三。いかにも堅苦しそうな男だ。
「ほぉ……初めてお目にかかるな………」
「彼が、この冒険者ギルドのギルドマスター、ネスト・ローゼンツだ」
ローゼンツ、レイアが確かに言ったその姓に、私は聞き覚えがあった。それは、この冒険者ギルドに深くかかわった男の姓だったからだ。
「ローゼンツ………まさかっ……!ハンゼットの息子か………!?」
「む……?なんだ貴様………ハンゼット・ローゼンツは私の祖父だ」
祖父………それもそうか。
私の友にして初代ギルドマスターであったハンゼット・ローレンツは、当時でも年齢は七十近かったのだ。それだというのにその時はよくぞ役目を引き受けてくれたと感謝しかないが、それでも今も現役でとは流石にいかないか。
だが、それにしたって、なんで今ハンゼットの孫がギルドマスターをしているんだ?孫がいるのだから、当然息子もいる。前世でも奴が話に挙げてくることもあったし、そこまで悪い関係でも無かろうに。何か他の役目を全うしているのだろうか?
「あっ……あのですね……先ほどちょっとした事故がありましてね………」
リンがネストにそう言うと、彼の険しい顔に更に深いしわが現れる。
「………事故……折れた剣、刎ねられたガーディアンの指。私にはどうも、事故の現場というよりも戦いの形跡の残った現場にしか見えないのだが」
「うっ……それは………」
リンは私を庇ってくれたのだろう。まだ会ったばかりだというのに、優しい娘だ。が、ここは私が正直に話しておかねばならないだろう。下手に隠して後で追及される方が面倒だ。
「すまない。私がやった」
「む……?さっきから、なんなんだ貴様は。名と階級を述べろ」
「私はシルカ・リザリア。階級は無い。次の冒険者試験を受けるつもりではいる」
私は包み隠さずありのままを言った。だが、ネストは冒険者でもない人間がこの状況を作り出せるなど到底思うはずもなく、表情を変えないまま言葉を続ける。
「………ふざけているのか?私は真面目に聞いているのだが?」
「……事実です、ギルドマスター。そちらのリザリアさんがこの巨人の間での訓練を行った際、樹拳の指南者が暴走、彼女がその戦いを収めました……!」
「………にわかには信じがたいな……おい、レイア・オルフロスト。巨人の間にそこの青髪………それと、オレンジ髪を連れてきたのは貴様か」
「ひうっ……!」
私だけかと思いきや突然自分についてもレイアに聞かれたヒユウの体が少しびくっとする。
「ヒユウは何も悪いことをしていないんだ。なんの心配もいらない。それよりも、下手に怯えていると逆に怪しまれるぞ?」
「う…うん……」
ヒユウにひっそりとそう伝えておいた。こういう時は堂々としておいた方がいいのだ。変に疑われることもなくなるしな。ただ聞かれたことにありのまま返せばいいのだ。
「はい、私です。そこのジェニスと共に、彼女らに施設を案内しましたですが、監督責任があるというのならば、全て私にあります」
「れ、レイアの姉御………」
「そうか、ならばジェニス・クロワール。貴様はもう行け。これ以上は用は無い」
凄いなこの男。冒険者の名前は全て覚えているのだろうか?どうも言い方は気に食わんが。
「ッ!?……了解だ……………レイアの姉御、すまねェ………」
ジェニスは苦虫を嚙み潰したような顔でそれに応える。何も言い返せない悔しさを押し殺しながら、レイアに向かって謝罪した。
「気にするな。元はと言えば私から誘ったんだ。ここまで付き合ってくれてありがとうな」
「姉御……何かあったら、いつでも呼んでくれ……!!」
そうして、ジェニスは巨人の間を後にした。この場に残っているのはあと私含め五人だが………
「レイア・オルフロスト、事の顛末を説明してもらう。今から私と共にギルド長室に来い」
「分かりました」
「リンはひとまず業務に戻れ。今日の分がある程度終わり次第同様に私の元にまで来い。勤務時間内に終わりそうになければ夜勤組に仕事は引き継いでおけ」
「は、はい……!」
そう言うと、ネストはレイアを連れて巨人の間を後にしようと歩き始めた。私たちについては特に何も言わずに。
「私たちはどうすればいいんでしょうか?」
私がそう尋ねると、ネストの足が止まる。そして、こっちを見ることなく口を開く。
「………シルカ・リザリアと言ったか……貴様らに用などない。好きにしろ。だが、貴様ら二人は次回の冒険者試験に合格しない限り、この地下修練施設………いや、冒険者ギルドへの今後一切の立ち入りを禁止する。例え冒険者同伴だとしてもだ。そして、もし試験に不合格となった場合、再試験は一切認めない」
「えっ………!?っそ、そんな………」
「おい……!これをやったのは私だ……!こいつは何の関係も――」
「何の関係もない……か?この場にいる時点で、そいつも十分関係者に値する。違うか?」
「だとしても、明らかにやりすぎだろうが!!」
私が声を荒げると、そこでようやくネストがこちらに振り向く。完全に私を睨みつけており、かなりの威圧……もはや殺意まで感じる。
「この施設には、建設に相当な資金が充てられている。そしてさらにこれだけの被害。修繕費は相当のものだろう………本来であれば到底許しておけんが、もし適性があるとみなされ晴れて冒険者になれば無罪だと、私はそう言っているんだ。むしろ、貴様らは私に感謝するべきなんだよ………!!」
「………分かった。合格すればいいんだな?」
「あぁ。ただし、もし本当に試験を受けるのであれば―――――覚悟しておくんだな」
決して声を荒げてはいない。それでも全身に重く響くその声だけを残して、ネストは巨人の間から立ち去った。




