#67 鍛錬終了
「はあっ……はぁっ………」
たった十分動いただけだというのに、これほどまでに息が上がってしまうとは。私もまだまだということだろうか。
達成感や満足感は大いにあるものの、それ以上の疲労感と筋肉への激しい痛みが襲ってくる。無理矢理限界を超えて動いた結果だろう。
だが、十分とは思えないほど、修練とは思えないほどに戦いは濃密なものだった。正直、今の私の限界以上の力を出せたといってもいい。久方ぶりの二刀流も上手く嵌まってくれたくれたようで、何とか勝つことが出来た。
逆に言えば、まだまだこんなものだ。修練用のガーディアン一体にここまで手こずった。木製のガーディアンでこれなのだ。おそらくは鋼鉄で作られているであろう防衛巨人計画に使われるそれに勝るのは現状難しい。ましてや、それらが相手にするであろう多くの魔物には。
「もっとだ……もっと鍛錬を積まねば………」
魔物の殲滅。私がこの人生を賭ける価値のある大義。それを全うするためには、更に高みへと昇らねばならない。
だが、ひとまず今は満足だ。この調子で、冒険者試験までにコンディションを整えていくことにしよう。
「………リン、あの樹拳の指南者は、木剣で倒せるような相手なのだろうか………?」
レイアは後からやってきたギルド職員――リン・クィルガーにへと問いかける。
黒髪青目のこの女性、年齢こそまだ若いものの、ギルドの運営能力に非常に長けているため、この冒険者ギルドの中でも中堅に位置している。
普段は運営の傍ら、冒険者たちの良き相談役としても活躍しているリンであったが、それでもなお目の前の現状は信じがたいものであった。
まだ冒険者にもなっていない青髪の少女。それが、かつて見てきた凄腕の冒険者たちにも引けを取らないほどの実力を見せたのだから。
ヒユウの戦いを見た時も、内心リンはあり得ないと思った。ここまでの実力があれば、一気に冒険者の中でも駆け上がり、あっという間にどんどんランクを上げていくだろうと。
が、シルカに関してはもはや別格だった。十分新人として化け物であるヒユウが霞んで見えてしまうほどに。
「………樹拳の指南者は、ヴェラリオで初めて作られたガーディアン……そして、あくまでも冒険者の修練のためにその素材等は改良されています………」
「戦っている冒険者の生命がもし危なくなればガーディアン側で制限がかけられるし、外側は木製だから、金属よりは攻撃を食らった時の痛みは少ないしな」
「………ですが、肝心の樹拳の指南者の骨格は………鋼鉄なんですよ………いくらとんでもない実力を持っている冒険者であっても………それに、名の通った名剣なんかであればともかく、あんなギルドが修練のために貸し出している……言ってしまえば粗雑な木剣でその身体を断ち切り、ましてや倒すなど………普通は考えられません………」
リンは淡々とそう述べた。自分が思ったことをただ素直に。
「……実にアァンビリィィバボォゥだぜ……!思わずブルっちまったよ………!」
「私も数多くの冒険者を見てきました………お二人には失礼ですが、リザリアさんからは………第一階級上位クラスの雰囲気を感じました………少し、大袈裟化もしれませんが………」
「いや、構わないよ。そう思うのも無理はない」
リンの考えを肯定するようにレイアはそう言った。通常状態の樹拳の指南者ならともかくとして、あの暴走とも呼べる咆哮する巨人は、おそらく自分でも厳しいと、レイアは感じてしまっていたのだ。万全の状態で挑んだとしても勝てるかどうか、そんな相手だったのだ。
「シルカーー!すごーーい!!」
「ぐわふっ!?ヒユウ……!今はちょっと勘弁してくれ…!!体が痛い………!」
満面の笑みを浮かべるヒユウに突如として抱き着かれたために、少し治まっていた痛みが再度全身を駆け巡る。思わず未だ両手に握っていた木剣も手から放してしまい、二振りのそれはカランカランと地面にぶつかって音を立てた。
思えば、よくぞ最後の最後まで耐えてくれたものだ。片方は柄以外粉々になってしまったが、もう片方はまだその原型を留めている。
この戦いで、私は剣を二本も折ってしまった。二刀流の際に入れ替えた木剣もボロボロだし、とうに限界を迎えている。共に戦い、木片となってしまったそれに、私は目を瞑り心の中で謝罪する。
(すまなかったな……そしてありがとう………お前たちのおかげで、私は更に強くなれたはずだ………)
どんな剣にも、宿るものがある。そしてそれを蔑ろにするのは、剣士としてあるまじき行為だ。修復不可能である木剣の役目を終わらせてしまった。物であるのだから仕方のない事ともとれるが、それとこれとは違う。
「ヒユウ……私は、もっともっと強くなるぞ………!」
「………うん!負けないよ!!」
私はヒユウに抱き着かれながら、彼女と拳を軽くグータッチを交わす。もたもたしていたら、この少女に後れを取りかねない。もっと精進せねば―――――
「随分騒がしいなと様子を見に来てみれば………これは一体どういうことだ?リン?」
「っ!?ぎ、ギルドマスター……………」
そんな時だった。巨人の間にこの男が現れたのは。




