#58 基礎体力の間
「姉御、今のところどれくらい説明したんだ?」
「三つの間があるのと……あとは基礎体力の間の基本説明くらいだろうか?」
「オォケェェイ………では姉御に代わって、このジェニス・クロワール……リアマルト最高峰の施設をご紹介させていただこうッ!!」
「なんだか実に不安だ……」
「私、この人少し苦手かも………」
おそらく、本当にこの施設が好き故のこのテンションなのだろうが、それでも少し度が過ぎている気がする。
だがまぁ、郷に入っては郷に従えだ。素直に熟練者に教えを乞うとしよう。
「この基礎体力の間……最高のポイント……それはやはり……なんといってもこのバーベルの握りやすさッ!!」
「………はい?」
「予想の斜め上の答えを出してきたな………」
ヒユウなんて始まったばかりだというのにすでに放心状態だ。この時点でこのジェニスという男。確実に教える側になってはいけない人間だというのが確定してしまった。レイア、なぜこの男を講師に選んだのだ………?
「更には左右共に完璧な重量に調整された重り!その重さの種類は様々!カールにプレス……アップライトロウ!なんでもござれだ!!おぉっと、もちろんベンチプレス台も完備だ!そこは安心してくれて構わないぜぇ………!思う存分筋繊維を破壊しつくすことが可能だ!おっと、トレーニング後のクールダウンとストレッチ、あとタンパク質補給も忘れるなよ!」
「て……テンションが高い………でも、言ってることはなんだかちゃんとしてるし分かりやすい………!」
「確かにごもっともだ。筋肉は一度壊れて再修復することで更に強くなるからな………」
勢いとノリがおかしいだけで、意外にも理にかなっている事を言うものだ。
「………多少変な部分もあるが、これでもジェニスはれっきとした実力者だ。色々教えてもらって損はないと思うぞ?」
「多少……?」
「そうですね……ジェニスさんも冒険者………私たちなんかよりもずっと強いんだ……ジェニスさん!他にも色々教えてください!私、もっと強くなりたいんです………!」
ヒユウもそんなレイアの言葉を聞いて心機一転。強くなるために、ジェニスにへと更なる教えを乞う。
「いいねぇお嬢ちゃん………!良い心には良い筋肉が宿る………そのまま頑張れば、マッスルエクスタシィの領域にまでたどり着けるかもしれねぇなぁ……………」
「マッスル……エク?」
「ヒユウ、それは気にしなくてもいいぞ」
「あ、そこらへんは否定するんだな………」
やはり変の度合いは多少ではないと思う。
この基礎体力の間は、全体の大きさが五十×五十メートル。半分が鍛えるための設備が固まったエリア、もう片方は何も置いていないが、その代わり床に白線が引かれている。こちらはただひたすらに走るための空間といった感じだ。
確かに、体を鍛えるのにこれほど整った環境は中々ないだろう。少なくとも、この街では確実にここが設備の最先端を進んでいるはずだ。
冒険者は何と言っても体が資本だ。鍛えねば、いざという時には死ぬ。生きたければ、常日頃から修練を欠かしてはならないのだ。
「それにしても、中々の人数がいるな。やはり皆己を高めるためにここにいるのだろうか」
「オォォウッ……イィイ着眼点だぁぁああ………!」
「………一応聞いておくが、なんで悶えてるんだ?」
「その内に秘めたる筋肉への愛………さては、内に秘めたマッスルエクスタシストへの憧れが爆発して………」
「なんだそれは」
この男、変な単語ばかり言っているな……あるのか?そんな言葉が本当に?
「そうッ!筋肉とは高みへと昇るための希望!無論ただ肥大化させるだけでは意味がないが、使える筋肉が増えれば、それだけ可能性も広がる………それを想像しただけで………オォウ………エクスタシィィィ……………!!」
「話を聞け」
駄目だ。何を言っても聞いちゃいない。よくこの筋肉頭で冒険者試験を突破出来たものだ。素直に感心してしまうではないか。
話はだいぶ逸れたが、今この間にはかなりの数の人間がいる。ここにいるということはつまり、全員が冒険者。日々魔物と戦い修練を重ねている者たち。
引き続き、その意識の高さを継続させてほしいものだ。できれば、あまり死んでほしくない。
「試験までは毎日ギルドには行くから、その時に自由に使わせてもらえるように私が頼んでおこう。もちろん、ヒユウもな」
「レイアさん……!ありがとうございます!!私、絶対受かって見せます!!」
「その意気だ。シルカも負けるんじゃないぞ」
「当然だ!ヒユウ、頑張ろうな!」
「うんっ!!」
そんなこんなで、今日を合わせて残り六日ほど。ヒユウと共に訓練を行うことが決定した。まだヒユウの実力が分からないので対人戦闘訓練の相手になるほどかは分からないが、それでも誰かと共に鍛えるのは己のメンタル的にも良いことだ。
「共に手を取り合い、共に高め合う………まさに筋肉の極致へと辿り着くために必要なものを……二人は持っているようだな、姉御!」
「すまんジェニス。ハイになったお前の言動は私でもさっぱり分からん」
「クルゥゥゥエェェル!?」
密かに尊敬しているレイアにそう言われ、若干人知れず落ち込むジェニスなのであった。
もしかしたら皆さん知らないかもしれないので説明しておきますと、マッスルエクスタシストなんていう言葉は存在しません。




