#57 冒険者専用地下修練施設
「二人とも、私は今から修練場に行こうと思うのだが、どうする?」
「修練場あるんですか!?」
「修練!今すぐ行こう!!」
私同様、修練場という言葉に目を輝かせている者が一人。これは見込みがあるかもしれんな………いや、何のって話だが………
勉強で少し疲れているのがばれたのだろう。レイアがそのような事を提案してきた。確かにちょうど体を動かしたいと思っていたところだったが、そんなに顔に出ていただろうか?
「いや、あまりにも勉強を教えているシルカがうずうずしていたものでな」
「顔ではなく体の方だったか………」
その答えに、私は苦笑いを浮かべることしか出来ない。これにはもはや本能的な何かが関わっている気もしてくる。
今は昼過ぎ。多少腹が減ってきてはいるが、外はすがすがしいまでの快晴だ。もし食事の後に雨が降りでもすれば、この一日に悔いが残ってしまう。どんなものでも、あまり後悔は残さないように今世は生きていきたいのだ。
と、そんなことを考えていると、レイアが何やら奇妙なものをこちらに差し出してくる。
紙袋に入った、何やら明るい茶色の棒状の何か………それが二本。
「なんですか?これ?」
「多少何か腹に入れておいた方がいいと思って買ってきた」
「兵糧か?」
色合い的には完全に兵糧のそれだ。ただ体を動かすための飯は不味いなんてもんじゃなかった。非常事態の時以外は絶対に食いたくはないが………
「これはエナジーバーと言ってな、腹持ちが良くてエネルギー量も多い。味もそこまで悪くはないぞ?とは言っても、流石に図書室では食べれないから、向こうについてからな」
「ありがとうございますっ!」
受け取ったヒユウはなんだかとても嬉しそうだ。いや、ベテラン冒険者からの施しが嬉しかったのだろうか?
「それじゃあ行こうか。二人とも始めてだろうから、ついてきてくれ」
「ん?おいレイア、そっちは出口じゃないぞ?」
「そっちって確か………地下に続く階段が……っまさか、修練場って……!?」
「あぁ………ここの下にある……!」
修練場。生まれ変わった私がそれとしていたのは、村の近くの森の中。無論前世の城のような道具はなかったが、その自由度は極めて高かった。剣の標的となる的はすぐ切れてしまう丸太程度しかなかったため、少し物足りなかったが。
そうは言っても、それ以外は基礎体力を身に着ける程度のトレーニングしか行えなかった我が聖域と言ってもいいその場所は、私に用がある両親か、後はナルクくらいしか私以外には訪れる者はいなかったので、集中して修練に励むことはできた。少し意図的に避けられていた気がするのは多少気にはなったが……………
そして、今日初めて今世でそこ以外の修練場を目の当たりにする。そしてそこで、私は少しだけ悲しくなってしまった。なぜって………?
「こんな場所知ってしまったら、もう戻れなくなるだろう………?」
整いに整った設備の数々。光属性の魔術だろうか、地下だというのにも関わらず昼間のように明るい空間。
壁、天井、床の岩肌は綺麗に磨かれており、窪みの一つすら見当たらない。一体日々どれ程手入れされているのか。
通常は冒険者ライセンスが無いと入ることすら許されないそうなのだが、今回は冒険者同伴ということで受付で許可が下りた。奥へ進んだ私とヒユウは、今まさに驚かされてばっかりだ。
「ここは手前から受付、その奥に三つの間が連なっている。部屋の一番手前がここ。基礎体力の間だ。基本的には筋力アップ、スタミナ向上など、身体能力の強化が主だ。」
「うわぁ………凄い筋肉の人ばっかり……!」
「この設備のためだけに冒険者試験を受ける者が存在するほどだからな」
「だろうな………」
下手をすれば、かつての城よりも遥かに良い道具が揃っている。更に今気づいたが、こんな地下の密室だというのに、空気は驚くほど綺麗だ。浄化系魔術の類だろうか?
「おっ!レイアの姉御じゃねぇか!なんだか久しぶりにあんたの顔を見た気がするぜ!!」
「やぁジェニス。だが、ほんの一か月ほどじゃないのか?」
すると突然やってきた謎の筋肉男。レイアを姉御と呼んでいるので恋仲ではないだろうが、随分親し気な感じだ。
「おや?よく見たら随分と可愛らしいお客さんを招き入れているようじゃないか!」
「ひうっ!?」
「ジェニス、お前は見た目が怖いんだから気を付けろ……シルカもそう警戒するな………」
確かに見た目は中々に強烈だ。髪は黒、肌も黒。そしておまけに黒のサングラスに黒いタンクトップ、そして黒いハーフパンツ………黒尽くしだな。
「………かなりやるようだな?」
「おぅ……?嬢ちゃん、見る目あるじゃねぇか……!分かるかい?この鍛え抜かれた筋肉美……!」
そっちはどうでもいいんだが……………
「ちょうどよかった。この子たちは次の冒険者試験の受験者でな。修練がてらこの施設を案内しようと思っていたんだ。一緒にどうだ?」
「オォウ……?てことはこの嬢ちゃんたち……それなりに戦えるんだろうなぁ……?」
サングラス越しに、ジェニスはじぃっとこちらを見つめてくる。何か見定めようとするような仕草でずっと見つめてくるものだから、隣のヒユウは少しびくびくしている。この程度で怯えていては、騎士にはなれんぞ若者よ。
「オレンジの子の方はまだ分からないが、こっちの青髪は………私より強いぞ?」
「ほぉ……………面白い!乗ったぜ姉御!嬢ちゃんたちも付いてきな!この先は、ワクワクと……エキサイティングに満ち溢れてるぜ………!」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
そうして、私とヒユウの修練兼見学が始まったのだった。
ジェニス・クロワール
第七階級冒険者。実際の実力は第四階級クラスだが、ほとんどの時間をトレーニングに費やしているため日々の生活費とよりよい筋肉を作るための食事代程度にしかクエストを受けていないため第七階級止まりである。
グラサンマッチョの黒人。
好きなものはウエイトトレーニングと鶏ささみ。嫌いなものは有酸素運動とレバー。




