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スマホ

今回のバングラ行きで、期待していた事がある。それは、歩きスマホが無い、或いは少ないのではないかという事だ。結論から言うと、「うーん、まあ、こんなもんか」という感じだった。スマホは意外と普及しているようで、特に若者は持っている。だが、日本のようにお年寄りが一生懸命スマホ画面を凝視している、という光景は見られない。若者たちも、日本のように、のべつまもなくスマホを見ている訳ではなく、歩きスマホは少ない。日本に居ると、ホームで歩きスマホ、電車に乗る列でスマホ、着席までもスマホを見たまま、下車も、エレベーターも、エスカレーターも、前から来る人も、右から来る人も、となんだか「スマホゾンビー」に取り囲まれているような(おぞ)ましさがある。ぞっとする光景だ。僅かな期間だが、この息苦しさから抜け出したい、というのもバングラ行きの理由だった。スマホが無い爽快さを味わって見たかったのだ。これは概ね達成されたと思う。気分を害するほどには、スマホ歩きは多くなかった。電車・バスの車内でも、スマホをいじっている人は少なかった。日本の場合、電車の長椅子にずらりと座っている全員がスマホを見ている場合がある。なんとも滑稽な光景だ。滑稽だが、ある意味怖い。凍り付いたような表情で眉一つ動かさない。まるで蝋人形館に迷い込んだかのだ。たまに本を読んでいる人がいると、それだけで文化人に見える。かつては「何を」読んでいるかが問題だった。デカルトか、ショーペンハウエルか。でも今は、本を持っているだけで知的に見える。それを通り越して、スマホを手に持たずに歩いているだけで、「おお」と思ってしまう。特に、例えば若者の2~3人連れが、誰もスマホを手にしていないと、何か爽やかさを覚えてしまう。おかしなものだ。それと、バングラでは、日本で良く見る、スマホをいじりながら会話をする場面にとうとう出会わなかった。ある意味器用だとは思うが、相当に異様な光景だ。バングラはまだそこまで行っていなくて安心した。

スマホついでに、もう一つ私がバングラに期待していた「すれ違い」についても報告する。日本で人とすれ違うと、相手が何らかの「反応」を示すことが多い。すれ違いの場面に限らないのだが、前から来る人や、周囲に居る人にやたら反応する。典型的な例を挙げてみよう。私が近づいて行くと、下を向く、横を向く、スマホに目を遣る、連れているペットや子供の方に目を遣る、鞄をまさぐる、ポケットをまさぐる、肩掛け鞄を掛けなおす、鞄のベルトをいじる、時計を見る、手袋を付け始める、マスク眼鏡を直す、紙をいじる、速足になる、小走りをする、歩道のやたら端っこを歩く、などなどだ。中には軽く目をつむる人まで居る。あるファミレスにいたら、5mも離れた席の人が私と直接顔が合わないように、メニューを面前に立てていた。スーパーでも同じ通路に入ろうとすると、そそくさと別の通路に向き直す人が居る。バングラ人ならどんなに通路が狭くても、気にせずズカズカと入って来るだろう。以前驚いたのは、広い川の堤防道を歩いていたら、川の反対側の堤防道をやってくる人が、私を認識してさっとスマホを出した。距離にして50m以上離れているだろう。50m離れた人に反応するのは何の意味があるのか分からない。それにしても、なんとややこしいのだろう。もちろん、気にしなければいいのだが、何故か気になってしまう。人とすれ違おうと、同席しようと、ただ泰然としていればいい。鞄をまさぐったって、相手にも自分に利点は無い。労力と時間の無駄だ。人は生活していれば人とすれ違う。これからの人生、何万、何十万の人とすれ違う訳だが、その一回一回毎、これらの仕草をする事に意味があるだろうか。果たしてバングラでは、すれ違いの「反応」はとても少なかった。つまり、単にすれ違ってくれるのだ。これは嬉しい限りだ。私が歩いて行っても、前から来るバングラ人は私の事など気にかけない。ただ、すれ違う。私は思わず笑みを浮かべてしまう。バングラまで来た甲斐があったというものだ。しかし、その後の観察で、バングラ人の中にもスマホに目を遣ったり、私から目を逸らしている人がいる事に気付いた。ただ、とても少数で気にならない。ふと、思った。結構多くのバングラ人が日本で出稼ぎに行っている。もしかすると、これら「反応」するバングラ人は、日本帰りではないだろうかと。バングラ人が、日本で変な習慣を身に付けてしまったと思ってくれているなら救われるが、先進国の仕草を学んできた、なんて思っているのなら悲しい事だ。

電車・バスの着席についても違いがある。日本だと、席がポツポツと空いているのに、立っている人が少なからず居る。座ると腰に悪い人も居る、なんて以前聞いたことがあるが少数だろう。この点、バングラは爽やかだ。とても単純な図式が成り立つ。「空席がある→すかさず座る」。これを見ていて嬉しくなった。精神衛生上、大変良い。席を見て、隣を見て、周囲を見て、やっぱり座らない、などという事は無く、隣が誰であろうとどうであろうと、空いていればさっと座る。いいですねぇ。心が洗われる気分だった。デトックス、とでも言うのだろうか。

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