着陸
着陸は印象的だった。操縦の事ではない。夕暮れ時の大地には霞が掛かり、幻想的な光景を創り出していたのだ。もやの中を滑るように滑走路に着地した。それにしても不思議なほど霞んでいる。夕日ももやに色あせて見える。いつかテレビで見た、アフリカのサバンナに沈みゆく太陽を彷彿とさせた。気候的なものだろうか。或いは北京の様に大気汚染だろうか。
到着が日没に近かったので、大事をとって空港近くのホテルを予約しておいた。果たして空港から出てくるころにはすっかり暗くなっていた。交通に不案内な中をダッカ中心街へ向かい、ホテルを探すのは大変そうだったので、近くに宿を確保しておいたのは正解だった。
空港から出るのが遅くなった理由の一つはATMだ。若干の利子が掛かるが、現地通貨の入手はキャッシングが便利だ。以前はトラベラーズチェックなんかもあったが今は使わない。ATMに恐る恐るクレジットカードを入れ操作した。空港内のATMなので安心感はある。と、思いきや、「エラー」した。カードは無事戻って来たが現金は出てこない。カードにチャージされてしまっているのではと心配になって、近くの案内所に相談した。応対は良い。これは帰国するまで感じていた事だが、相手の身になって親切にしてくれる。つっけんどんな対応はほとんどない。日本で何か悶々とする所を感じていた私には嬉しい限りだ。さて、話しをATMに戻そう。英語が今一つ通じなくて困っていると、その案内所の某氏はスマホを私に向けて英語でしゃべれと言う。翻訳するらしい。英語でひとしきり録音して、そのベンガル語訳を読んでいた某氏は急に明るい顔になり、「大丈夫、大丈夫」と自信たっぷりに言った。少し面倒になっていた私は、そういうならまあいいや、と礼を言って大丈夫だろうという事にした。実際、帰国後に確認したが、不正なチャージはされていなかった。気を取り直して、隣のATMへこれまた恐る恐るカードを入れてみたが、今度は現地通貨の入手に成功した。
初めての空港内では方角も分からず、周囲に目的の方に出るのにはどっちに行ったら良いか聞いたが、皆、親切だった。バングラ人の第一印象は「大変良い」である。やはり先入観は禁物だ。接してみて初めて分かるものだ。こうして、やっと空港の建物から出ると、外は暗くなっていた。そして早くも人、リキシャ、車、クラクションの洗礼を受けることになる。