シレット
ダッカの北東230kmほどの所にシレットという街がある。大きな街で、バングラ人にとっては避暑地であり、主要な旅行先らしい。関東から見たら松本市といったところだろうか。有名なヒンズー寺院があり、巡礼地でもあるようだ。ダッカからは列車もバスも多数あるようだが、今はダッカから45kmほど北の国立公園にいる。一旦ダッカに行くとなると遠回りだし、折角公園でデトックスしたのにまたあの喧騒と大気汚染の中に飛び込まなければならない。気が進まなかった。ホテルの人に相談すると、南のガジプールという街からバスが出るという。色々調べた結果、翌日の朝早めに出立する事にした。散策を楽しんだ国立公園や、初日から「顔見知り」になった飲食店のおっちゃんともおさらばだ。翌朝、ガジプール行きのバスに乗り込んだ。ちなみにガジプールまではトゥクトゥクでは250円だが、バスでは30円だ。次々と来るバスの車掌に「ガジプール?」と叫んでいれば、そのうち正しいバスに乗れる。
さて、ガジプールに着くとグーグル先生の指し示すチケット売り場に行った。確かに切符売り場だが、何故か切符を売ってくれない。言葉が通じないので例によって周りの人を巻き込んですったもんだの末、少し離れたところに別の切符売り場があるらしい事が分かった。早いバスに乗らないと到着が真っ暗になってしまうので少し焦っていた。果たして教えてもらった所で切符が買え、そこが発着場になっていた。まずは一安心。バス代は850円くらい。距離を考えるとまあまあ安い。しかし、時刻になって来たバスに乗ろうとすると、係の人が違うという。次のバスも、違うという。その次のバスも。結局、シレット行きのバスはなんと1時間も遅れてやってきた。始発場所からはさほど遠くないはずなのに、どうやったら1時間も遅れる事ができるのか不思議だ。早速乗車すると、走り出して5分でガソリンスタンドに入ってしまった。15分停車。このままでは暗くなってしまう。やはり初めての街には明るいうちに到着したい。バングラ的にゆったりしていたつもりの自分の中で、セカセカした「日本人」が蠢いていた。給油が終わり、やっと動き出したバスは断続的に渋滞の中を進む。なかなか距離が伸びない。さらに、給油から30分も経っていないのに、最初の休憩。この頃には気持ちが落ち着いてきて、なるようにしかならない、という原則に立ち返っていた。売店で素焼きの器に入ったヨーグルトをいただき、再び車上の人となった。
もちろんエアコン無しのバスだ。この季節にエアコンは要らない。バングラではバスも列車もエアコン付きは料金がえらく高い。バスは倍くらいする。バスは主要国道を進んで行くが、相変わらず断続的な渋滞が続き、遅々として進まない。道は悪く、運転も荒く、気分が悪くなってきた。我慢していると、3時間後くらいだろうか、次の休憩場所に停車した。まだ3分の1も来ていない。しかし、ここから徐々に渋滞は減り、バスはどんどん加速して行った。高速道路では無いが、バスは限界に挑戦するかのように飛ばす。車窓にはバングラの人々、街々が通り過ぎてゆく。広大な田園地帯が繰り返し現れる。工業施設は少ない。そうこうしている内に周囲が段々と市街地化してきた。シレットの街に入って来たのだ。やはり人と車とリキシャとトゥクトゥクの混沌とした光景だ。久しぶりだったせいか、この様相に不思議と落ち着きを覚えた。自然の中にいると、街が恋しくなるのかもしれない。
バスは、なんと最初の遅れを取り戻して、定刻前にシレットのバスターミナルに滑り込んだ。驚きだ。暗くなるというのは杞憂に過ぎなかった。予約していたホテルまでは少し距離があった。歩いて行こうかどうか思案していると、バイクのおっさんが声を掛けてきた。周囲にはリキシャもトゥクトゥクも沢山いるが、バイクというのもあるらしい。もしかすると違法なのかもしれないが良く分からない。ここでも、最初の料金を無視して離れようとしたら、ぐっと安くなった。外国人の姿こそ少ないが、ここは観光地で、バングラ中から人が来る。旅行客相手の商売も盛んだ。安くなったので、このバイクで行くことにした。ヘルメットを被せられて、渋滞の中を縫うように走って行く。確かにバイクは便利だ。そういえばカンボジアでもバイクに乗ったことがある。
着いて見れば、結構立派なホテルだ。今回の旅行では贅沢するつもりはなかったが、結果的に全体として、ちょっと良さげなホテルでの宿泊が多かった。例によって、シレットの下調べはしていないので何があるのか分からない。街歩きが楽しみだ。心配した大気汚染は、ダッカに比べればかなりマシだった。これならマスク無しでも大丈夫だ。こうしてシレットでの滞在が始まった。




