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第二百九十話「始まりの終わり」


 妖魔帝国との戦いは、未だ睨み合いにも似た膠着状態が続いている。散発的に戦闘は起こるが、本格的な侵攻はまだであると言え、これまでの勢いから考えると、非常に不気味な状態が続いていると言えた。

 相手はこちら側を値踏みするような、戦力を推し測ろうとするような、そんな空気を感じるのだ。恐らくこちら側の動きをある程度だが気付かれており、警戒させてしまったのだろう。


「お陰で周辺国との協力関係を、取り付ける事にも成功したが」


 そう呟いたのはテオドール。アトラシア帝国が誇る竜騎士団の一部を率い、自らもドラゴンに乗って戦う姿は、この戦いに挑む兵士たちにとって、大きな希望となった。

 同様にドラゴンを駆る冒険者、【竜爪の旅団】を率いる団長ラルドもまた、義勇兵として参加している冒険者や傭兵たちにとっては、憧れの的として注目を集めている。

 飛竜種の亜竜に真なる竜種が、空と陸から魔物の軍勢を薙ぎ払う様は壮観であり、その圧倒的な武力を前に妖魔帝国と言えど、二の足を踏むのは当然だと考える者も少なくない。

 またそれぞれが光り輝く聖剣を携え、当然のように振るう姿は美しいと同時に勇ましく、その姿に希望を見出す者は増える一方である。


悪魔ディアブロどもが、こっちを警戒してるんだろ?」

「ああ。あちらには我々と刃を交わした、ゴブリンの妖魔王がいる。こちらが姿を見せた事で、警戒させたと考えた方が妥当だろうな」


 一見優勢に見えても、重苦しい空気は変わらない。ラルドは相手の強さ、恐ろしさを過小評価していないからこそ、妖魔帝国が本気でない事を理解している。テオドールも自分たちが姿を見せた意味を、相手が理解出来るとわかっていて、姿を晒しているのだ。

 それは彼ら二人が、聖剣使いであることも相手に筒抜けであろう事も、十分に理解している。相手がこちらを警戒してくれるほど、その動きが一時でも鈍ってくれれば、態勢を整える時間が稼げると言う戦略でもあった。


「ま、大体はクロトさんの発案だけど、随分と上手くいったもんだな」

「流石は我らが国の、守護神様だと言うべきだろう。クロト殿はこの一帯だけでなく、隣国のフィンダート王国からも援軍を引っ張ってくるつもりらしいからね」

「あの天空城ってヤツに乗ってか? そりゃ向こうもお気の毒……って程でもないか。こんな時にまで傍観決め込まれたんじゃ、勝てるものも勝てないからな」


 世界樹のある大壁樹海は、フィンダート王国のすぐ東なのだ。距離自体はまだ相当あるとはいえ、だからと言ってのんびりと待ち構えるなど、よほどの自殺志願者なのだとしか彼らの目には映らない。

 そしてそんな馬鹿げた自殺に、こちらが付き合うつもりはないのである。だからどれほど強引な手段だったとしても、彼らが引っ張ってくるであろう援軍は、彼ら人類が生き延びるために必要な存在なのだ。


「我がヴォルデス王国が妖魔帝国と対峙した時のような、絶望的な圧迫感はない。あの悪魔ディアブロどもが姿を現していない所を見るに、本体はまだ到着していないと考える方が妥当のようだ」

「殿下の言う通りですね。自分が前に出て暴れる必要も無さそうだし、兵士たちの士気も高いので寧ろ突出しすぎないよう、彼らを抑える方が大変です」


 ヴィクターの言葉に、ベリエス卿が少しだけ困ったように頷き返す。彼の言うように、兵士たちがやや浮き出しだっているのは間違いない。それは彼らヴォルデス王国からの援軍である、魔銃騎士団の活躍も少なからずあったからだ。

 魔術弾は節約しなければならない為、現在は主に魔術による支援を行っているのだが、それとて大々的に行えるモノではない。なので限られた少数に施しているものの、その効果が劇的に現れるお陰で、兵たちが増々勢い付いてしまう事になっていたのだ。

 なので退いていく敵に対して、頻繁に深追いしそうになってしまっているため、機動力に優れるベリエス卿が頻繁に走り回る羽目になっているのである。


「統制の取れていない現状ですら、中々に厄介な数が居ると言うのに、まだ増えるか。全く、二度も妖魔王との戦いに駆り出されるとは、思いもよらなかったわ」

「……かつてローヴィス様と一緒に戦われた時の事、ですよね? バルバシム陛下が今もこうして共に戦ってくれること、当代の勇者として大変誇りに思います」

「心身ともに衰えているつもりはないが、それでもこんな年寄りを再び戦場に引っ張り出しておいて何を言う。面の皮の厚さまでローヴィスの奴に似おって……まあ、人間どもとの関係修復に丁度良いので、存分に利用させて貰うとするか」


 アトラシア帝国からの援軍と同じように、輝く聖剣を振るい、敵を打ち払う。魔王と恐れられ魔霊へと至ったバルバシムと、当代の勇者である人間のアルベルトの活躍もまた、人々の希望となっていた。

 少なくとも人々の目には、この戦いの為だけに幾つもの聖剣を持つ存在が姿を現し、その聖なる力で以って悪しき妖魔帝国の侵攻を、阻んでくれているようにしか映らないのだから、それを間近で見て彼らを英雄視するのも道理である。

 このお陰もあってか、少なくともローヴィス教絡みでの亜人への差別的な態度、と言うものは見られない。状況が状況だけに、亜人にそっぽを向かれる事への危険性を、本能的に理解しているからでもあるのだろう。

 トワイア魔王国から参戦している兵の大半が亜人であり、ローヴィス教が担ぎ上げていた勇者が魔王に師事しているという事実もまた、偏見や差別意識を遠ざけていた一面もあったのかもしれない。


「……こちらの出る幕が無いのは、良い事ではあるんだがな」

「この静けさが不気味じゃわい。とはいえ今はまだ、時間が欲しいからのう。あの空飛ぶ城が帰ってくるまで、奴らが大人しくしてくれれば万々歳って話じゃよ」


 ルグト王国から参戦している聖剣使いである狼獣人のカーチス卿と、同じく聖槍使いのドワーフであるウルツ卿が、自らが率いるそれぞれの騎士達に指示を出しながら、後方に控えている。

 ヴォルデス王国の面々と同じように余り前に出ていないのは、彼らは万が一が起こった時の為の、切り札とする為だ。今ある全ての聖剣を見せることなく、この防衛ラインの奥深くまで到達した妖魔に対抗しうる者を残す。

 相手の不意を突く事が狙いであり、この戦いの最初期から剣を振るっていたアトラシア帝国側や、ここに来て隠す気のないトワイア魔王国側の面々では、その役を果たせないからと言う理由でもあった。



 そうやって妖魔帝国軍と睨み合っている間に、瞬く間に月日は流れていく。そして天空の城が、再び姿を現した。

 戦場の兵士らは一度その威容を見ているとはいえ、やはり再びその姿を見て、畏怖と感動を覚えるのは当然である。あの城を含む浮遊群島こそが、人類に残された最後にして最大の希望。神々が与えた加護の印。

 そして更なる援軍が、天空の城に居るのだと知っている。誰もが勝てると、負けるはずが無いとさえ信じる事が出来るのだ。


 新たに運ばれてきたフィンダート王国の軍は、決して数こそ多くはない。それでも援軍が来るだけでも、十分に有難いのである。


「お姉ちゃん。治癒に関しては、どうしたら良いでしょうか?」

「今回ばかりは、多少は目を瞑るわ。死んだ人を生き返らせる以外は、やっちゃいなさい」


 彼らが連れて来たのは、何もフィンダート王国からの兵士らと、冒険者たちだけではなかった。遥か東、大壁樹海にいるエルフたちを、多少なりとも引っ張ってきているのである。

 主に回復役のユナと、エルフたちを統率する為にレイが連れて来られている。世界樹とその周辺はルーモット大森林の樹海の里を始めとした、この大陸のエルフたちに任せることにした。

 元々彼女たちは世界樹だけでなく、妖魔帝国軍とも戦う気でここまで来ている。今の世界樹回りではやる事が無い獣人の部隊も、暴れられる時を今か今かと、待ち望んでいる程なのだ。


「はー。疲れたわぁ。疲れないはずなのに、疲れたわねぇ」

「……あっちこっちに転移しましたしね。あと開戦前に各国の王に集まってもらって、号令をかけるくらいはして貰うつもりですが」

「このお城、本来なら気軽に転移出来ないのに、よく許可を出して貰えたじゃない」

「そこはユウ君のお陰ですねー」


 これまでネクロとクロトは魔法で各地へと飛び回っており、各地の被害状況と戦況の把握に努めていた。それと同時に参戦している各国の王宮とも密に連絡を取り合う為の、連絡係も担当していたのである。

 同様の事はレイも出来るが、彼女の場合は立場上それを許されない事もあり、除外されているのである。逆にネクロはヴォルデス王国側やルグト王国側とは面識があり、使者として動いて貰う分には好都合だったという理由があった。

 そしてクロトはそれ以外を担当すると言う流れで、あちこち飛び回っていたのである。


「もうすぐ戦いになるね。皆、気を引き締めていこう」

「……おい」

「こっちは気合も十分だよ。懐かしい奴らに、良いとこ見せたくはあるかもしれないしね」

「おい!? こんなもん渡しといて、涼しい顔してんじゃねえよ!? ヘルガも自分は関係ないって顔すんな!!」


 意気揚々と城の上から戦場を見下ろすユウリに、不敵な笑みを浮かべるヘルガ。何故か不機嫌そうな態度のクレストの事は、完全に無視されている。

 クレストの手には、輝く剣がある。ユウリからこの戦いの為にと渡された、聖剣オートクレールと呼ばれるモノだ。


「一緒に戦いたいけれど、今回はこの城で、皆のサポートに回るわ。ルナもいいわね?」

「はい、ステラ姉さま。父様と母様も、怪我をしないように、気を付けてくださいね」

「勿論よ。可愛い娘たちを置いて、死んだりするものですか」

「……いや、イリス。君はもう少し落ち着いて欲しい。その剣、本当に、なんて物を軽々しく貰ってるんだい!?」


 エルフ一家もまた微妙に不穏なのだが、やはり父のウィロウ以外は無視を決め込んでいるのだから、このパーティの常識的な男性陣は基本的に損な役回りなのだろう。

 母であるイリスの手には、ユウリから渡されたもう一つの聖剣である想聖剣グロリユーズがあった。その光景を見ていた各国の使者たちが、頭を抱えていたのは言うまでもない。

 どちらも妖魔王と悪魔ディアブロを相手にするからこそ、それに対抗するだけの装備が必要だと言う判断から、クロトの口車に乗せられたユウリが、自身が持っていた使っていない武器の中から渡された物なのだ。


「ワタシも援護に回ります。マットも今回はこっちで、一緒に手伝いをしてくださいね?」

「えー……おれ、戦えるのにー!? ドラゴンが戦うところ見たいー!」

「我儘を言わないでください。人手が足りないんですー!」


 そんな微笑ましいやり取りをしているのは、アイリスとマットの二人である。天空城自体の人手が少ないこともあり、マットもそちらの駆り出されることになっていて、不満そうにしていた。

 このようなやり取りが可能なくらいには、相変わらず【ユグドラシル】には余裕がある。

 少なくとも今はまだ、危機的状況と言える状態ではない。それは人々の心の余裕を生み出し、交流をも深めていく。そして着々と、妖魔帝国への備えは、整いつつあるのであった。


多少詰め込み過ぎたような……まだやりたい話もあるんですけど、次以降に回して書けたらいいなぁ。


第十一章はこれにて終了です。予定は未定なので一応第十二章として始めますが、次で最終章……のはず。頑張ります。

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