皇王竜討伐⑥
拙いと分かっていても、打つ手が無い。
手数はこれ以上増やせないし、ジリジリとHPを回復されてしまう。
足を止めたいところだが、古藤が足を切り落としてやろうとしても、ダメージが追い付かない。
さっきまでなら足にダメージが蓄積すれば転倒していたというのに、それも無くなった。回復されてリセットされるからか、それとも足ダメージによる転倒が無くなったからか。今の俺にそれを知るすべはない。
「ノームさん、お願い」
「シルフ、任せた!」
みんなは攻撃を諦め、支援に集中している。
主に精霊魔法で足止めだ。ノームが穴を掘り、シルフが飛んでいる皇王竜の邪魔をする。突進するのに合わせてウンディーネが大量の水流で迎え撃ったり、なかなか忙しい。サラマンダーだけ出番が無いので、村に帰る頃に、きっと拗ねているだろう。
こうやって精霊魔法を連続使用するとMPが問題になりそうなんだけど、何故か俺がMPを代わりに支払っているので問題なかったりする。……いいんだけどさ。というか、出来たんだな、代理でMP支払うの。
「四方堂! 奴の背中に乗れ! そして背中に剣でも突き立ててやれ!!」
皇王竜のHPが6割に達し、このままじゃヤバいという所で古藤が叫んだ。
古藤は何とか足を膝上から切り落とすことに成功したが、足が再生してしまったために一時的な足止めにしかならなかった。そもそも空を飛ばれてはあまり意味が無かったというのもある。
なお、切り落とした尻尾や足はストレージに回収済みだ。これだけ苦労したんだし、無報酬だけは絶対に嫌だからな。
古藤の言いたいことも分かる。「ドラハン」の攻撃手段の一つに、敵の背中に乗ってダメージを与え、相手を転倒させるというのがある。それをやれと言う事だろう。
が、それはおそらく悪手だ。
足へのダメージで転倒しないなら背中へのダメージでも転倒しないだろう。それじゃあ駄目だ。
しかしそれをヒントに、俺は別の事を考え付いた。
どうやら俺は普通に戦う事に慣れすぎていたようだ。俺や古藤はダメージを喰らわないんだし、俺達にしかできない戦い方があるじゃないか。
やるべき事が分かっているなら、後は決断するだけだ。
俺は皇王竜の正面へと駆けだす。
皇王竜が俺を見た。
奴はすでに俺のHPが減らない事を理解しており、攻撃対象と認識していない。邪魔な奴とは分かっているが、他のみんなを優先して攻撃しようとする。そちらの方が効率が良いから、と。
だから皇王竜は空を飛んで逃げようとした。走るより早く距離を取るために。
戦闘用にスキルを組み替えているため、空中戦対応用に『浮遊移動』はセットしてあっても『瞬天』のような移動速度向上スキルはセットしていない。一度空へ逃げられるとなかなか追いつけなくなる。
俺は自分の背中に≪フルバースト・マジック≫を使い、無理矢理に加速する。
そうして、皇王竜の顔面に張り付いた。
「背中より眼球が硬いとか、無いだろうが!!」
「グォォォォン!!??」
皇王竜の眼球は直径で50㎝ぐらいある。
俺は右の拳を握ると、眼球に叩き込む。拳は眼球の中ほどまでしか届かないが、それで十分。
「お前は脳みそが吹き飛んだ後でも生きていられるか? HPとか魔法防御力とか再生能力とか。ゲーム脳かって言うんだ」
思えば、ゲーム側の思考に偏りすぎていた。
HPが0かどうかなんて関係ない。人間は脳みそを吹き飛ばせば死ぬし、首を切られても死ぬし、心臓を抉り取っても死ぬ。
あれだな。ゲームの様に考えすぎればこいつは倒せないボスだけど、現実的に考えれば殺す手段なんていくらでもある事に気が付けなかった。いや、ゲームのボスなら普通は倒せるように作るもんなんだけど。
「≪フルバースト・マジック≫」
本来は足元から浮かび上がるはずの光球が、右腕の先に生まれる。俺は半透明の眼球越しにそれを見た。
光球は一つではない。無理矢理複数箇所を対象に選択して10ほど作ってみた。
その光が弾ける様は、なかなか見物だった。
骨がそれほど頑丈だったのか。爆発は皇王竜の両目と鼻穴、耳とあとは口から中身をまき散らす。首から下が無事ってのを考えると、鱗や皮も相応に硬いんだろうね。あとは内臓を焼いたからか?
巨躯が空から落ち、大地を揺らす。
HPバーはゼロになっており、皇王竜の死を証明していた。
「最初っから、こうすれば良かったんだよ」
体内に攻撃するのは、方法としてはありふれた手段でしかない。
それをゲーム的に上手く戦えたからって選択肢から外していたのはどうかしていたとしか思えない。
「ま、反省は後でいいか」
復活されないように死体はストレージに回収。
最低限の事後処理をして、もう一回だけ早着替え。
いやもう。何だったんだろうね、今回の現象は。




