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クロスオーバー・ゲームズ  作者: 猫の人
4章 戦争世界のマーチャント
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国境の街 ブリリアント

 こうして俺達は空の旅を楽しんだ。街に直接乗り付ける事はしないし、目立たないように姿を消して移動するのはお約束だ。


 やはり、男だけの行動は気楽だった。

 最近はずっと女子と一緒だったからか、それなりに気を張っていることが多かった。独りで行動していた時もあったけど、同性と一緒に行動するのはやはり馬鹿なことができて楽しい。


「娼館に行くんだよな? マジか~」

「イイ女がいるといいよな! 女子がいねー時じゃないとやっぱーこーゆーことは出来ねーし!」

「だよなー! たまには発散しねーと!!」


 娼館に女を買いに行く。たったそれだけで同行者、男子連中はハイテンション。

 男だけで行動するというのは馬鹿をするという事。売春は日本では犯罪行為だけに、抱いた罪悪感を掻き消す為にテンションが上がるという訳だ。自棄になっているとも言う。

 情報収集という大義名分、仮の名目があるとはいえ、それだけで欲望のままに動くのは難しいのだ。


 だが、全員が娼館に行くことを楽しみにしている訳ではない。


「で、俺は女を買わなくていいんだな?」

「買わなくて、じゃなく、抱かなくて、だ。

 買わないと彼女らは他の男に抱かれるか、その日の収入が無くなってひもじい思いをするぞ? 資金援助と思って割り切れ。それも優しさだろ。

 あ。それと、出自を聞くのを忘れないように。もしかしたら身請けするかもしれない」


 古藤ともう一人、「田島(たじま) 良平(りょうへい)」は俺達の売春行為に最後まで反対していた。そんな彼らには購入までは強制し、彼女ら売春婦の身の上を聞き、情報を集めてもらうだけという事で納得してもらった。

 本人がやりたくないというなら、俺としては否は無いのだ。



 そもそも、娼館に行って女を買うのは奴隷購入の基本情報を聞き出すためだ。

 いきなり奴隷商に行って相場を聞くのは阿呆のすること。第三者視点で奴隷商と関係していそうな施設で俺達が言っても怪しまれないのが売春宿、娼館という訳だ。そこで一晩のお値段と女性の質、扱い、購入費用、購入元その他を調べて上手く交渉しようというのだ。


 日本人というか現代人は値切り交渉などが苦手というより意識の外で、値札に書かれた代金をそのまま払えばいいと思っている人間が多い。そして値切りをする人間を白い目で見る風潮がある。というか、今どき値切りしてくれる店などあまり無いのだが。一般人はコンビニやスーパーなどの値段が値札から絶対に動かない店しか行かないのだ。

 俺もそのクチだが、クラスの商人とそのスキルを使い、上手くやってみるつもりである。





 街に入るのに、銀貨を人数分要求された。

 一人あたり銀貨2枚。

 これが妥当な金額かどうかは今後の物価確認の結果を待つことにしよう。



 俺達が来たのは王国の中でも国境近い、『ブリリアント』という街だ。空から見た街の形はブリリアントカットでは無かったがそこは異世界の単語が偶然一致した結果である。勝手な期待を押し付けてはいけない。

 ブリリアントの街は王都のそれに比べ、活気が無い。商店は閉まっているところが多く、人通りが少なめ。町を歩く人を見ても疲れた表情が多く明るい表情の人は少ないと思った。


「なぁ、街の選択、間違えたんじゃね?」

「言うな。一番近かったのがこの街なんだよ」


 田島から容赦のないツッコミが入るが、こちらも周辺の街の情報なんて全く知らない。王都で話を聞いていた連中の方がずっと詳しい。

 ただ、戦線が近い街なんだから空気が悪いのもしょうがないのではないだろうか? 命の危険があるかもしれない恐怖とは簡単に克服できる物ではないし、克服していいものでもない。


「とりあえず、飯にしようぜ」

「さんせー」


 時刻は昼になったばかり。

 俺達は街の飯屋を探すことにした。



 トリビアで聞いた話ではあるが、中世ヨーロッパにレストランはほとんどなかったらしい。

 ヨーロッパにレストランという文化が広がったのは18世紀後半の話。フランス革命で王政が終わった後の話だ。それまでは階級によって食材すら法で制限され、平民は粗食しか食べる事ができなかったという。

 俺達の考える「外食」と呼べるのはこのレストランのことなのだが、中世ヨーロッパ風、もっと正確に言うなら王政のこの時代にレストランという概念は存在せず、俺たちの考える「美味い物」を食べる事が許可されていないようだった。


 王都の外食屋を覗いたわけではないが、あっちはイギリスのパブのような、にぎやかな空気を醸し出していた。

 だがこの街の飯屋はたいして美味しくも無い、「生きていくだけの餌」を出すところしかない。これでは街の空気が悪いのも仕方が無いだろう。俺達も買って食べてはみたが味気が無く、美味くしようという工夫は見られなかった。


 仕方が無いので俺達は自前の飯で口直しをして、各自、夜まで自由行動で解散という運びになった。

 娼館に行くときは、みんな一緒だ。

 ……一人で行くとか、ハードルが高すぎるんだよ!!





 あの後も街の中を散策してみたが、ブリリアントは観光には向いていない。

 兵士がうろついていることも空気の悪さに拍車をかけている。兵士たちの態度が悪いとかそういう事は無いんだけど、兵士たちの顔色が悪く、劣勢である事は疑いようがない。大司教だったか、あの男も言っていたからなー。本当に、異世界人頼みだったわけだ。

 で、そんな兵士の様子からピンチを悟った住人にしてみれば今の状況は恐怖しかないだろう。中世レベルの戦争では、街が墜ちれば略奪と凌辱の嵐が吹き荒れるのだし。住人は死ぬか奴隷になるかの2択である。

 となれば逃げればいいのだと思うのが現代人。しかしこの時代に移住や就職の自由は無く、引っ越しするにもお金がかかり、引っ越した先で仕事が見つかる可能性も薄い。逃げることができるはずも無いのだ。

 そんな街で観光とか、頭が沸いているという訳だな。女子を連れてこなくて正解である。


 そういえば、今回の訪問には奴隷購入以外にもいくつか目的がある。

 その一つは交易で、ノーズ村で手に入らない物を定期的に購入するためだ。

 ついでに村で手に入る物のうち、売り物になりそうなものをピックアップしておくつもりだ。俺がいる今なら資金に余裕があるし、今回は購入のみにするんだけどな。


 という訳で、雑貨とか売っていそうな店を探し出さないと。

 金物屋というか、鍛冶屋ってあるのかね?

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