第三章 エピローグ
アイボリー地区のとあるマンションの一室。その玄関には靴跡のような焦げ目がついており、リビングには損壊した機械の破片や、衣服が散らばっている。一言でいえば、尋常じゃなく散らかった部屋だった。
「え〜と本日は、わたくしの旧邸にお集まりいただき誠にありがとうございます!実に一年半も放置していたこの部屋は荒れに荒れているでしょう!勝手に!なので、お片付けのお手伝いを、お願いする次第にございます!」
「それでは皆の衆、かかれぇいっ!!」
小川のような髪を揺らし、亜沙日はサブスクリプションの映画で観た武将のモノマネをしながら、彼のお手伝いに集まった友人たちに号令を放った。
すぐさま作業に取り掛かる未来と侑里と、まだあまり状況を呑み込めていない遥と理人。
「お、おま……! これ……!」
「お姉ちゃん! それは……エッチな本だよ!」
積み上げられた衣服の下から現れた、この街に相応しくない物理媒体に狼狽する遥と、それを窘める未来。
「いやあの時あの人が来なきゃな! 片付けられてたんだよ!」
「やっぱいやらしかったか~」
「これが数百年越しに復活したアダルト雑誌という媒体か。珍しいなあ」
「リーダーも読む?」
秘蔵の代物を弄ぶ理人と侑里。亜沙日の手が少年の目を大慌てで包む
「ちょ!? 子供が嗜んでいいわけないだろ!!」
「亜沙日も7歳だろ?」
「製造年月はやっぱまだ呑み込めてねえ!」
「亜、亜沙日……?」
「母ちゃん……! こ、これには訳が」
自身の隠していたつもりの秘密が公然となり、顔が真っ赤になった亜沙日は必死で痴態を誤魔化そうと声を張り上げる。
「も~黙って手伝ってってば~」
思い思いの感想を口に、和気あいあいと部屋を片付ける亜沙日の友人達。
いつまでも居候として甘えているわけにはいかないこと、そして自室の片付けが済んでいないこと、これを機に一人暮らしを再開することを亜沙日は未来と侑里に宣言した。二人の押しもあって彼女らのお手伝いを了承したものの、得体の知れない悪寒を肌で感じとった亜沙日は、当日になってリーダーと遥を呼びつけた。
それでも彼らの手際の良さはまるで、損害を受けたこの街を復旧する高度なインフラのようにテキパキと効率の良いものだった。
一息ついた亜沙日は、背中から「おいいきなり何サボってんだ」と聞こえる声をよそに、窓の縁に手を置いて、遠目に見えるエボニー地区の巨大なクレーン、その手前にある森地区の雄大な自然と大河、そしてアイボリー地区に映える真っ白なビル街を眺め、
雲一つない真っ青な空と、そこに一つだけ穴が開いたように存在する太陽に向けて、眉を顰めつつ、小さくはにかんだ。
亜沙日の、もう一つの人生が始まる。
「いや何始めて数秒でサボってんだって!」
「いやごめん天気が良くて」
「私たちがいないとダメかな?」
「未来さんまで~」
もう一つ、もう一つと彼らの時間は是非もなく、只ひたすらに積み重なる。亜沙日は、そんな日々をよりもっと愛してみようと、頭の中に整理をつけた。
世界を見守る大きな空に、太陽は、ただ一つ。




