ふたりとふたり、そしてこれから(2)
「ほな、せっかくやし──今日は俺が、腕振るったるわ」
来人の荷物を一通りまとめて、ようやくひと段落している一同に、唐突に、白沢がそう言い出した。
「え? 大知さんが?」
来人が目を丸くする。
「なんか作れんの?」
秦も半信半疑で尋ねると、白沢は自信満々に胸を張った。
「なめたらあかんで? こう見えて、たこ焼きだけはプロ級や」
「……たこ焼き?」
「そ。関西人のたしなみや」
言いながら、白沢は手慣れた動きでキッチンに向かった。
しばらくすると、リビングには香ばしいソースと出汁の匂いが漂い始める。
「……本当に、プロっぽい」
来人がくんくんと鼻を鳴らして感心する。
深月もソファから体を起こして、キッチンのほうに顔を向けた。
「うまそー……。俺も手伝おうか?」
「ミツは座っとき。オレのテリトリーに入ったら火傷するで」
「はいはい」
適当にあしらわれた深月は、苦笑しながら素直に座る。
秦は、何気なく来人のトートバッグを片付けながら、ちらりとキッチンを覗いた。
──確かに、白沢は見た目によらず手際がいい。
片手でたこ焼きをくるくる返しながら、たこ焼き器の温度まで完璧に管理している。
「……すげぇな」
思わず漏らすと、白沢は「やろ?」と八重歯を見せてにかっと笑った。
「ポイントはこのガスコンロやねん。ありがちな失敗原因は大体火力不足やからな。覚えとき。
……これで女にモテるんちゃう? とか思ったこともあったけど、まあ、こうして男ばっかりに食わせる羽目になるとはなあ」
ぼやきながらも、たこ焼きを返す手はどこまでも真剣だった。
やがて、大きな皿にこんがり焼き上がったたこ焼きが盛られる。
「はい、お待ち!」
ドンとテーブルに置かれたそれを囲み、4人が一斉に箸を伸ばす。
「……うまっ!!」
来人が目を輝かせた。
「外カリッ、中トロッ、ってやつだな……!」
秦も感心しきりで、たこ焼きを頬張った。
「マヨもっとかけたい」
「青のり増しできる?」
好き勝手言う来人と秦に、白沢は笑いながら対応する。
「はいはい、マヨ増し一丁、青のり爆盛り一丁な~」
「すげぇ、ノリいいな……」
秦がぽそっと呟くと、白沢は肩をすくめた。
「料理中にケチつけられるん、慣れとるからな」
「誰に?」
「ミツに決まってるやろ」
振り向きざま、悪戯っぽく深月を指差す白沢。
深月はというと、たこ焼きを頬張りながら涼しい顔で、
「いや、俺はいつも『うまい』って言ってるけど?」
と返した。
「おまえなぁ……」
白沢が小さく笑って、諦めたように肩をすくめる。
そんなやりとりを、来人は嬉しそうに見ていた。
──なんか、いいな。
深月にも、こうやって自然に笑い合える相手ができたんだな。
横に座る秦が、ふと来人の肩に手を回した。
「……俺らのほうが、仲いいからな」
小声で、でも妙に自信満々に囁かれる。
「な、なに勝手に勝負してんだよ……!」
顔を真っ赤にしながらも、来人はもごもごと肩を寄せた。
そんな様子を、向かいに座る白沢がすかさず茶化す。
「おーおー、ラブラブやなぁ。……なぁ、ミツ?」
白沢は肘で深月の脇腹をつつきながら、ニヤリと笑う。
深月はたこ焼きを頬張りながら、めんどくさそうにぼやいた。
「……はいはい、よそはよそ、うちはうちな」
「冷た!」
白沢が肩をすくめ、八重歯を見せて笑った。
けれど、その目の端に少しだけ、拗ねたような色が滲んでいる。
深月はそんな白沢に目を向け、ふっと小さく笑った。
「……でもまあ、おまえと一緒にいるの、悪くないって思ってるよ」
「──!」
白沢が一瞬、固まった。
それから、耳まで真っ赤にして視線を逸らす。
「……そ、そんな急に言うなや」
たこ焼きの皿に逃げるみたいに目を落としながら、白沢はぼそりと呟いた。
横でそれを見ていた来人と秦は、こっそり顔を見合わせて笑う。
こうして、甘い空気とたこ焼きの香りがふわりと漂う、にぎやかな夜が更けていった。




