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猫耳はバレちゃいけない  作者: あしゅ太郎


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17/53

――そして、うさぎ男が爆誕した。(7)

白沢大知は、朝の出勤準備をしながら、テーブルの上に置かれた小瓶を手に取った。

ラベルには、雑な字で「動物的反応抑制薬 ver.1.2」と書かれている。


「……ったく、こんなんに頼らなアカン生活、誰のせいや思てんねん」

ぼやきながらも、白沢は慣れた手つきで薬をコップの水で流し込んだ。


毎朝、仕事に出る前にこの薬を飲むのが、もはや日課になっていた。

服用後は、仕事中にうっかりうさ耳が飛び出すことも、寂しさが暴走することもない。

深月の発明品は、予想外にきちんと効果を発揮していた。


「今日も大丈夫……やんな?」


上着の袖を整えながら、白沢は小さく呟き、深月の家を出た。

その背中を、ソファで寝転びながら見送る深月。


「いってらっしゃーい」

ラフな口調で手を振る深月に、白沢は振り向きもせず、片手だけ軽く上げて応えた。


---


そんな生活に慣れてきたある日。

休日、白沢がリビングでゴロゴロしていると、深月がぽんと隣に座り、

「たまにはどっか出かけようぜ」と誘ってきた。


「出かけるて……どこに?」


「ま、気分転換だよ。最近、仕事ばっかだろ?」


仕方ないなと白沢は立ち上がり、出かける支度を始めた。

もちろん、出かける前にもきっちり「抑制薬」を服用することを忘れない。


「よし、これでどこでも行けるわ」

白沢は薬を飲み干し、口元を拭った。


「……俺が発明したもんだからな、もっと信用していいぞ?」

深月がにやにやしながら近づくと、白沢は軽く肘で小突いた。


「調子乗んなアホ」


そんな軽口を叩き合いながら、ふたりは街へ繰り出していった。


---


街中では、深月がやたらと白沢に話しかけたり、軽く肩を抱いたりするもんだから、白沢は顔を赤らめつつも、まんざらでもない顔を隠せなかった。


「……なんや、こんなん、悪ないな」


ポツリとこぼしたその言葉に、深月は一瞬きょとんとし、

すぐに、くしゃっと無邪気な笑顔を見せた。


――白沢が、素直になり始めてる。


そんな変化を、深月も敏感に感じ取っていた。


帰り道。

人気の少ない並木道を、ふたり並んで歩く。


ふと、白沢が立ち止まり、隣を歩く深月の袖を指先でちょん、とつまんだ。


「……なぁ、ミツ」


少しだけ顔を背けたまま、白沢が小さく呼びかける。

深月も足を止め、白沢を振り返った。


「ん?」


夕焼けに照らされた深月の顔が、すぐそこにある。

白沢は、袖をつまんだ指先にぐっと力を込めた。


「……今日は、ありがとな」


消え入りそうな声。

それでも、深月にはちゃんと届いた。


深月は、ふっと笑う。


「何だよ、そんな顔して」

そう言いながら、白沢の頭を軽くくしゃっと撫でた。


「おう。いつでも付き合ってやるよ」


さらっとした言葉なのに、白沢の胸の奥がじんわり熱くなる。


「……アホ」


ぼそっと返しながら、白沢は袖を離さなかった。

むしろ、ぎゅっと、深月の服を握りしめる。


それに気づいた深月が、優しく笑う。

手をほどこうとしない白沢を見て、

――ああ、こいつ、素直になったな、って思った。


「なあ、大知」


「……なんや」


「手、つないだまま、帰るか?」


からかうような軽い口調だったのに、

白沢は真っ赤になりながらも、拒否しなかった。


「……しゃあないな。特別やぞ」


顔をそむけたまま、それでも、白沢は自分から深月の手を取った。

深月の大きな手と、自分の手がしっかり重なる。


その温もりに、胸が高鳴る。

ぎこちないけど、嬉しくてたまらない。


――確かに、生活も、こいつも、最初よりだいぶ、好きになってきてる。


そんな自分に、白沢自身がいちばん戸惑いながら、

でももう、手を離す気にはなれなかった。

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