ふたりだけの秘密(1)
「……なんだよ、それ」
社内の給湯室。
ひんやりした空気の中で、秦涼一が、呆れたように声を上げた。
目の前にいる冬崎来人は、慌ててカーディガンの袖を引き下ろす。
……が、どう考えても間に合わなかった。
俺の、肘のあたり――ふわふわした白い毛が、ぱらぱらと生えているのが見えたからだ。
「な、なんも見てねぇよな!?」
「いや見たし。普通に見たし。……つーか、お前、猫耳も生えてたよな?」
秦の言葉に、顔がみるみる熱くなるのを感じた。
舌打ちでもしたくなるくらい、最悪だ。
小声で、ボソッと答える。
「……たぶん、な」
***
すべての始まりは、二週間前。
自称・天才科学者の兄、冬崎 深月の発明品――"合体装置"。
なんとなくヒマつぶしに見学していた俺は、うっかり事故で一匹の野良猫と融合してしまった。
見た目は一応、人間のままだ。
でも、感情が高ぶると、猫耳とか尻尾とか、果ては肉球まで出てきてしまう。
……はっきり言って、間抜け以外の何者でもない。
「元に戻るまで、絶対バレんなよ」
兄貴にそう言われて、必死で隠してきた。
なのに――よりによって、秦にバレた。
無愛想だけどやたら鋭い同僚。
しかも、妙に俺に甘いとこがあるやつに。
「……頼む。誰にも言わないでくれ」
頭を下げるなんて、正直、死ぬほどダサい。
でも、背に腹は代えられなかった。
秦は、しばらく俺を見下ろしたあと、ぽつりと言った。
「じゃあ……俺だけの秘密な」
耳の奥が、じわっと熱くなった。
その声は、からかいでも脅しでもなく――なんか、やけに優しかった。




