表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢の夜に  作者: 赤さん
281/281

悪夢の夜に 最終章

長らく読んでくださった方、ありがとうございました。何年にもかけ書いたことのない素人が妄想の限りを尽くして作り上げられたかともいます。稚拙でしたが、これで終わりです。

それは、ラインハルトとゲンジの剣が交差する刹那


源二とガーディアンが交差する瞬間



放っていた魔力の色が変わる。


何もかも吸い込んでいく黒から白へ。


ラインハルトとはまったく逆の超常現象が巻き起こり、源二の目の前にいた記憶が破壊され、記憶の世界を構成する魔法すらも破壊してゆく。


ラインハルトの魔法陣が揺らぎ、街全体に広がっていった魔獣達はその波に撃たれて消滅する。

それは、敵味方関係なく降り注ぎ、エマの崩壊は加速し、源二を守っていたクリスやペーネロぺーの倒れ込む一瞬のうちの身体にヒビが入り、その溝を赤い熱源を持ったように見える。



エマは一瞬のうちに魔法を砕かれた。だが、その顔は安らかで、舞い上がっていた身体はヒラリとシャルロット達の層へと舞い横たわる。


「それで良い、源二。久方ぶりにお主に出逢えた。

やはり、この世界に終止符を打つのはお主しかおらぬ。


穿て、少年!」




ラインハルトは、暴風のような魔力の放出の中、ゲンジへ手を伸ばすものの、力を込めれば込めるほど反発していく。

同質が故に同化できる筈なのに、その少年との距離は認識よりも早く、遠く離れていく。


「魔法が、何もかも砕かれる...」


ラインハルトの生成スピードと同程度波に触れるもの全てが破壊される魔力。


体内で生成される闇とそれを喰らう光の特性の反発を利用して無限を糧にするラインハルトの魔法。

その全く逆。


源二の心の中にある光を拾い、育まれたその輝きを己の魔法に結びつけ放つ久遠の剣。



源二の相貌が激しい嵐の中、ラインハルトの視線と交わる時に見える。想像とは違う、朗らかで苦痛のない顔。



そしてその虚構から放たれる波にラインハルトの身体が押し流され、召喚された過去の英霊が砕け、エマの生み出した大きな魔法陣とその体が地面へと堕とされる。

その姿は魔法をもって魔法を否定する神の如く、大空を舞い上がる。


「変性だと...あの不純物が!!!」


「ラインハルト。いい加減、諦めよう。この世界を本当に変えられる魔法なんてものはない。


それは、世界を変えたように見えるだけで、単なる呪いでしかない。」



「この後に及んで対話だと?そんな余力、人類になどない。

また奴らは戦いを起こすことなど、目に見えている。

それこそ我々がいなくなった後はどうする。誰がこの力を治めるというのだ。」



「わかるだろ、貴方が縛られているように。人は皆勝利を求めてしまうものなんだよきっと。

君は、王だ。どこまで行ってもね。立派だ、最後の一瞬まで君は人類のためを思って小数を切り捨てる決断をした。その決断に慣れすぎて、人の業を、人の愚かしささえ許してしまったんだ。」


ラインハルトの手から魔法が放たれるものの、源二の魔法領域内に入った瞬間、威力が格段に落ち、まるでその軸だけが時間の進行を遅らせたように魔法の礫の形状が変性し球体上に伸びていく。


「だからお前の花嫁達を自分の中へ...」


「ラインハルト、今なら、俺はお前と同じだって言える。

辛かっただけなんだろ。

正直に誰かに吐き出すことすら許せなかった。だから、ヨルを選んだ。


かけがえない戦友なんだろ。」



「貴様...」


「ペーネロぺーも、たった1人愛した女だったんだろ。」



ラインハルトは音もなく源二の背後を取り、襲いかかる。


しかし、当たるはずのその剣は、目前に大きな大輪の花を咲かせて受け止められ、また生じた波によって凄まじい勢いで構築した魔法が消滅させられる。


「これが、貴様の見ている絶界!!」


「間違いかもしれない。でも俺は、自分の信じた道を突き進むだけ。」



初動から2撃目が見えない。


3回目の衝突は2人の距離が開き、4回でラインハルトの鮮血が舞い、傷が塞がる。

しかしそれだけで2人の均衡が崩れていることを示していた。源二は光を、ラインハルトは闇を行使し戦いは別の局面へと変わりゆく。


「ラインハルト、俺たちの絶望は何のためにある。

人間の悲しみは何のためにある!」


「そんなことを語ろうたとて、この世界は変わらぬ!」


「その理想を追って、己が身を魔法に染めれば染めるほど、ヒトの社会と切り離されていくことにまだ気づかないのか!」


「だからこそ、これが我の答えなのだ!!」



5度目の衝突。無限に近い剣戟の線。


地盤は魔法によって破壊され、城だけは地面を巻き込んで丸ごと持ち上がる。


ラインハルトから放たれた白と黒の閃光がうねり、源二に襲いかかる。


しかし波にさらわれるように無限の消滅の前に消える。2人の剣が交差する時、ラインハルトはその不吉な剣の存在に思考を巡らせる。

みたことない剣の存在。感じたことのない感覚。


勇者でも、サフィールでもガーディアンでもない4本目の剣。


源二の巻き起こす不可思議な魔法。


破壊し尽くされたガーデンから蘇った死んだはずの少年。

世界の理の外からやって来た真の闇の覚醒。


その瞬間に全てが結びつく。


源二の固有武器の槍がこの世界に与えられたものだと言うのなら、この剣はその真なる闇から生まれたもの。

源二の持つ固有魔法に最も適合した固有武器。



ラインハルトの思考が巡り切るよりも前に、放たれた魔法が弾け落ちる。


源二の言葉の一つ一つが意味を持って身体に食い込む。


同格のはずなのに、その力が強く見える。



「己の弱みを、己が食ったからか!!」



「少なくともペトラとエレーナは死んじゃいない。確かに生きてるよ。


でも、俺のせいで傷ついてほしくないだけだ。」


「敵味方関係なく魔法を構成するもの全てを破壊する...だから、守るべきものを中へ...」






源二達が鎬を削る中、墜落したエマの身体に走る源二の衝撃波がヒビのように入る傷をさらに痛めつける。



「エマ様。肩を。」


歩み寄るツバキが、エマへ肩を貸す。2人の肌にも同様に崩れそうな程深いヒビと燻った火のような色を帯びていた。


「源二は...どうじゃ。」


「一緒に見ましょう。」


「まさか、最後に見たかった魔法に殺されようとは。」


「もう死ぬ覚悟くらいとうの昔にできておいででしょう。」


「見届けるとも、最後まで。妾の可愛い奴らが送り出した子じゃ。ここは終点になってはいかん。よく見ておれ。これが、始天じゃ。」







源二の剣がラインハルトの身体を切り裂く。


「神に迷いなど要らぬ。謙遜など要らぬ!!」


「人間は魔族は殺しても己の神までは殺しちゃいない。」


「それが、愛とでも言うのか!魔法を超越した種としての存続という欲求如きが!」


「そんなものじゃない。俺たちが争うしかできないように、反撥だってする。

だったら俺たちは受け入れることだって出来るはずだ。


死は平等。闇の魔法使い達が死を恐れぬ戦士として生きても真に死だけは克服できないと証明したように。」


「だから、愚かな人間共の愚行を許せと。

その前に進むために、ペーネロペーのしたことを理解できなかった下等生物を!!」



「理解できてないのはお前の方だよ。ラインハルト。」



源二の振るう剣に鮮血が乗り、繰り出された掌底に当てられ、ラインハルトの体がさらに上空へと跳ね上げられる。


その軌道の先をゲンジの槍が迎え、胴体に突き刺さると、いくらラインハルトとはいえど簡単に引き抜くことはできない。


「己...」



「最後最後まで、お前の永遠の問いに対して暴力でしか解決できないこと。否定できないことをこの世界の。俺の矛盾として受け入れよう。


「原初より来たれりその軌跡は此処より来たれり。


創造は、世界を超越し運命を大きな渦へと注ぐ。」」


一個一個、巨大な魔法陣が浮かび上がり、源二の背後に生まれる。

その姿を見るラインハルトは考えずともゲンジの詠唱が読み取れる


魔法は根源より来たれり。その原初は光と闇。その頂点に立つ者。


ヒトの創造はセカイという隔たりを超えて、未知と未知を繋ぎ合わせ、新たな運命を呼び込む力となった。



「「隔りの二つは破魔の剣となり、聖域を与えん。

聖域は信仰、信仰は聖心を、聖心は恒久を、

恒久には尊厳を、それらを護るものに神聖を。


痛みの大海を人で埋め、豊穣で埋めん。


討ち払う強き力は内功より来たれり。己の真、己に宿るカミを信ず者のみ与えられん。


箱庭は我らを守る不可侵の絶対。罪なき者へ憶う内功の絶界へ、罪なき者のみ招かれん。」」




光と闇は対峙している自分と源二。唯一無二揺るぎない根源から与えられた絶対のこの二つは、この世界に根付く様々な構造に結びついてきた。


故に光と闇は絶大な力を持ち、人々の信仰と迫害によって相対するも同格の力を蓄えてきた。


だがその度に戦いが起き、社会は作られてきた。


箱庭と呼ばれる世界もあらゆる世界も自分たちが作ったものはない。ただ、森羅万象を見つめ、すでにそこにあったものを利用したにすぎない。

本来不可侵だったこの領域を穿ち、不可侵を解き放ったことによって個は個としての強みを強く確立させた。最終的に今の源二を示すのはその個の本来の力にすぎない。


箱庭は、個人は、個人であって侵食されない。だが時にその壁すら忘れさせるかのように心通じ合い、その壁故に反発する瞬間が存在する。

愛の存在証明である。

それ以外にも友人や他人の少しばかりの会話のこの一瞬が自分へ圧力をかけて外側からその形を。あるいは自分が自分を変えていく。


その瞬間に気がつく。

この詠唱は、以前よりこの世界にあった本質。

召喚者であるはずの源二の知らない世界の話。


そして結びつく源二の背後に広がる何層もの魔法陣の由来。

源二を呼び出した最初の魔法が、源二の魔法を形取る原型。

やがて結びつく本人の強いエゴが築き上げる仮想の現実が本人すら食い殺す大召喚の魔法を基盤に組み上がる。


ラインハルトは吼え、その槍から逃れようともがき、血飛沫を垂らしながら抜き取ろうとした瞬間、まるで意思を持ったかのようにさらに槍は喰らいつく。


輝かしい大召喚の魔法を象る光が反転し、その上に闇の魔法陣、源二の起動式が浮かぶ。



「「最初は憎くて仕方なかった。苦しくて、暗くて、怖かった。何度お前を殺したことか。人の足音も、誰か見えぬ暗がりの視線も。何もかもが怖かった。

俺が生きていたのは、生きたかったからじゃなくて、死にたくなかったから。死ぬ勇気すら持てなかったから。


でもそれでいい。最初から何かの使命なんてない。最初から定められた運命なんてない。





この世界も、この物語も。この苦しみも、この痛みも。全部が連鎖した運命の連続。


此の魔法、世界を超え。認識と理の外へと苦痛を洗い流す。

暗がりは内功より来たれり。真なる暗黒は己を写す鑑。


己を受け入れ、一度は神であることを受容した神だと言うのなら、根源は我が基に。この魔法を奇跡に換えん。


この一刺し、この一撃は全てを赦す終焉と始まりを紡ぐ。」」


ラインハルトの抵抗とは裏腹に槍の背後に展開される魔法陣はさらにその身体に食い込む。


空を覆う根源の球体が変性し凝縮された結晶のかけらとなって世界の地面を繋ぎ、地面はその間を持つように交わる。



「「

ーーー終極天魔法・零ーーー


」」


その言葉は、理解できない不思議な音で奏でられた。


逃げられるわけがない。逃げようとなんて考えられるわけがない。


「我自身こそが、お前の魔法の最終定理」



この槍を動かし、その身体を逃さないようにしているのは自分自身だとわかった時から、何故か...


心が、身体が軽くなったような気がした。


悔しかった。いつから、これだけ簡単なことを言えなくなってしまったんだろう。

いつから、自分は人でないと言って、苦しさすら享受できなくしてしまったんだろう。


ーーーラインハルト。お前が、私にトドメを刺してくれ...ーーー


違う、守りたかった。


その場で叫びたかった。


あの剣聖達の死んだ目に問うてやりたかった。


人の弱さが、あの狂気の戦いの淵に贖罪を求めた。

闇の魔法使いはあまりに都合の良すぎる生贄となった。

魔族の力を受けて戦う狂気。

そのあまりに大きな存在は、いつからかそれなしでは考えられないほど頼り切っていた。


でも、平和を願い、前へと進めば進むほど




「何故...何故だ。我は貴様を拒んだはず。何故それでも近づいてくる。そして、何故それでも許せる...


違うな。やつが私だと言うのなら、とっくの昔にその答えを持っていた...


だがそんなことをしたって。人間はまた同じことを...私たちが消えた先に待つのは、また戦いが起こらないと言い切れるのか。」


「戦いは起こるものだ。それをコントロールはできない。

ただ魔法が消えれば、俺たちはその痛みを痛みとして受け入れられる。

辛いことかとしれない。苦しいかもしれない。

だがそれが、向き合うってことだ。」



「「始天《ME/TA∞∪∞》」」





穏やかな風に乗って、人々の血の匂いが混じった戦いの日常の光景に広がっていた平穏。

もう昔の主戦派を講じる老人も、反抗を企てる不届者もいなくなった。

この剣が。自分と、ヨルで作り上げた剣は生贄となり、その象徴を背負った。この剣の後光に人々は熱狂したからだ。


でもそれは間違いだった。表では少しだけうまくいったかも知れない。でもそれは、浅い表面だけの話。実際はもっと深く、自分の生まれる前の知らない。知らない世界まで根が伸びていた。





「なんで、ここに帰ってきたんだ。ペーネロぺー。」


「ラインハルト。お前が私にトドメを刺してくれ。」



風は草を揺らし、その背後には剣の引き抜く音。振り返れば広がる剣聖達の殺気。

今自分には生殺与奪の権が与えられ。捨てれば剣聖に渡る。


自分が殺し、この後光をさらに強く輝かせれば、愛する人は私のこのキオクの中で...


その時。何かが壊れる音がした。



音がしたんだ。



認めたくなかったのかも知れない。知りたくなかったのかも知れない。

自分の選択を。導き手の誤りを。



ーーーなぜ。私は負けたんだ。ーーー


ーー私と源二は同じはずだった。ーー



「行こう。ラインハルト。お前の苦しみも、源二は取り払うことができる。

これは、魔法の紡いだ悪夢だ。



あちらの世界も悪くないよ。私たちは人知れぬ誰かの笑顔を確かに作っている。それだけで私は、この悪夢の夜のような世界でできた。少しばかりの世界で、少しだけ誰かに誇れる気がするんだ。」





あの日見た青空を。私はまだ覚えている。



胸が張り裂けそうなほど苦しく、首に強く脈拍を感じる。手には鉄を伝う痺れと、手や足に伝う鈍い痛みは、鞘付きの剣に打たれた跡。


まだ風が穏やかで。汚れも何も知らない純粋で、干したてのシーツとまくらのような平穏。


「いつまで寝ている。立て。少しは学んだらどうだ。撃ち込む時に脇が甘いと何度言えばわかる。」


「こんなところで戦いの真似事をしたところで意味ない。俺は、早く皆の王としての責務を。」


平手が飛び、痛みよりも早い驚きが支配する。


「命は一つしかない。聞くより喋りたがる年齢だろう。だからそれくらいは目を瞑ろうではないか。

だが。弱きを助け、強きを挫く。それこそが王の姿と心得ているのも認めよう。


だがな、己の戦う理由をそのくだらない立場を理由にするなら戦う資格などハナからない。」


「でも先代までは」


「先代がそうしてきたから、お前もそうするのか。王を説くのなら、再考の余地のあるものだらけだ。


芯を持て。この悪夢のような世界でたった一つでいい。お前が全てをかけて戦い抜ける何かを。」


そう。貴方にとって、私はその守るべき一つだった。


「だが、私にとって。貴方こそ守るべきたった一つでもあった。「終極天/絶 キングダムガード」」





源二の放った神速の槍と、ラインハルトの走り出す神速の剣技。剣の呪いは抜け、迷いも、憂いも、恨みも、恐怖もない。



ただ己の護るべきもののために迷いなく。

まっすぐに。




激突する。



「私は、私の望む。我の望む世界のために!!!!」


源二から放たれた剣は意思を持ち、今この瞬間に源二によって圧力を与えられているかの如く衰えず貫き通す。


その魔法が強く重なり、凌ぎを削りあえばあうほど。生まれる中心の爆発的反発。

そして手に伝い、触れただけで蒸発する肌の魔素。走る亀裂。流れ込む反転の拒絶。


ラインハルトは咆哮し、人格が乖離していく。いつしかその姿は戦場にいたかつての青年の絶望。その咆哮を彷彿とさせ、己として喰らい、共に戦うヨルさえも巻き込む。


2人の咆哮が源二の放つ宝剣の貫きを斬り伏せようと吼える。


吼えるほど、剣に力が籠り。己のしがらみや雑念が消え去っていく。

この剣の導く希望を閉ざし、己を押し通す。それこそが処世術。それこそが覇道。それこそが、己の見出した。源二の見出した護るということ。他者を押し除け、排除し。弾圧し、棺に入れて仕舞えば、相手の言葉など無に等しいのだから


ラインハルトが手から力が抜けかけた時、その手が意識とは裏腹に強く握られ、さらに抵抗する。その意思は、自分からではない。ヨルの執念。



「「この剣、この世界は愛すべきものを捧げてまで守る価値などなかった。ゲンジ!!貴様の抱く希望は我々の望んだ過去の理想だ!!!」




しかし、ラインハルトの目に飛び込んできたのは源二の手へと生み出された槍。

短い時間の間に悉くを破壊してきた槍。



「これが、俺が俺に捧ぐ贖罪。

この世界で、自分を一番許せないのは...


俺自身なんだよ。」


目にも留まらぬ速さで駆ける槍は自らの放つ宝剣ごと貫く。


源二と、私の違いはなんだ。


なぜ、私は敗北し、なぜ、やつは勝ち残った。


そうだ。ここに平等はない。互いが闇を喰らい光を育て、光を喰らい闇を育てた。互いが互いの頂点じゃない。魔法を極め、我々は初めて同じ世界で、巡り会えたのか...



源二の放った槍は自らの剣を喰らい、再びラインハルトと衝突する。



今度の差は争うまでもない。さっきまでのは真の源二の可能性を見ていた。


それでやった初めて対等に。そして結びついた。ペーネロペーがなぜ、悪を己の手で。私に向かって剣を直接向けなかったのか。


この異能、この魔法。この過程。この運命こそが、我々を。人類を前へと歩み進ませる鍵。


敗者ではない。先人は記憶と共に忘却され、その忘却ですら平穏の証として享受する。

いつしか戦いのない世界を夢見て戦う。そんな矛盾を孕み続け、前に進み続ける。


理想を求めれば求めるほど遠くなり、期待しすぎなければ絶望することもない。



「ペーネロペー。なぜ私は。」


「強いて言えば、ゲンジは人らしく。お前は、誰よりも王だった。

光は、人々の栄誉たる輝き。届かぬからこそ美しく、神聖。

故に、人に近く、人とは程遠い。人間が転げ落ちて行ける暗黒の世界とは程遠い。

何にも強弱をつけたがるのは、悪い癖だ。


強いて言えば、それが、お前が源二とは違うところかもな。」


「私は...ただ。」


「行こう、ラインハルト。大丈夫。誰も、お前のことを責めたりはしない。」






手に握られた直剣にヒビが入り、黒色の光を灯す。


次の瞬間、弾け消ていく。世界が。記憶が。痛みが、消えていく。これが、源二の魔法。これが、魔法のない世界の感触。


槍は容赦なくラインハルトの身体へと喰らいつき、その身体を爆発的な魔力の中へと喰らい尽くす。


「これで、よかったんじゃな。源二よ。」


「闇の魔法使いが居なくなり、根源が生まれる...」


ゲンジの存在は本人の魔法によってガーデンを失い、その記憶も強力な魔法の制約によって消えゆく。

背後に宿っていた幾多の魔法陣も割れ落ち、その輝かしい破片と共に落下していく。


表層は灰のように大気に撫でられ溶けていく。

耳に伝わる鼓動に合わせた耳鳴り。


その残響は、街中へ響き渡り源二に降り注ぐ根源の結晶はやがてヨルの消失を持って竜巻のような嵐へと変わり、源二ごと吸い込んでゆく。

それは、例外なく魔法全てを呑み込み、魔法に全てをかけた身体。ツバキやエマも、ルカも例外なく飲み込んでゆく。


シャルロットはその奇跡に跪き、己の身体から流れ出る魔法をただ受け入れる。


「源二...私は...私は、貴方さえも守れなかった。貴方さえも殺してしまった...

ミーシャ...ヒューノ。私は...


ええ。確かに受け取ったわ。責務は果たす。誰もいないこの世界で。私は原初にして最後の女王に。」



ただの人間は己の体から強い脱力感を覚え、サラトガやウメは潜在的な大量の魔法を奪われて気を失い、佐伯と篠原は互いを抱き寄せながらただ空を見ていた。


「魔法が...運命が、収束してゆく。」




源二を中心に、その闇に釣り合う光を求め。そして様々な属性を喰らって。収束してゆく。収束してゆく。街を象る魔法も。怨恨も。それらを象る超常現象が消えてゆく。


全ては大空を包む根源という奇跡へ。



さっきまでの激戦とは裏腹に、街は静けさに包まれ、歓喜にも聞こえる耳鳴りだけが、一帯を包んでいた。


そんな中、シャルロットの揺れる背中をサラトガは捉えていた。

何を考えているのか、ただひたすらに歩き出し、それを遥か遠くに見ていたサラトガは走り出す。城壁を降り、崩れ落ちた大通りを降りて、長すぎる階段を駆け上っても歩くシャルロットの背中を前に正確に留めるしか距離が縮まらなかった。


「シャルロット様!お待ちください!」



魔法の収束は未だ続き、身体から煤のような穢れが上空へと吸い取られる。その現象は人だけではなく、物も同じで魔法が込められていた物。魔法によって繋ぎ止められていたものも例外なく収束する。

エイレーネ城はまだ崩壊を迎えてないものの、足元からは確実に魔力の消失を感じている。


「お待ちください!」


門を抜け、庭を抜け、ラインハルトの居座っていた空間へと足を踏み入れる。


そのすぐ近くまで迫っていたサラトガがシャルロットへと追いつこうと階段を上り切った時、その扉を支える木枠と石柱が崩れ落ちる。


「シャルロット様!!シャルロット様!」


私は、気づいてしまった。私は、呪われている。私の発現した魔法は絶界を継承したもの。

この翡翠色の瞳がその証拠。


ゲンジが最後の一撃を放つ前。4本目の剣が発現した時。あの剣の対となったのは私。

父ですら叶わない可能性を秘めていたあの剣。そして、あの父の継承者である私。

怨恨が、運命が証明された脈絡の上にあるのなら、いずれあの剣と私。シャルロットの剣と交わることになる。


私も多くを失い、傷ついた。いくら取り繕おうとも、産みの父を殺し、目の前で殺された現実だけは揺るがない。


シャルロットは謁見の間の玉座を通過し、その後ろに広がる街を見下ろす淵に立つ。


そう。新たな世界に私はいらない。私が真に人類のためを思うのなら。ここで...



「シャルロット様!!!」


「いま行くね。パパ。。」









嵐が消え去り、自らの肩を抱いて泣き崩れるウメ、篠原と佐伯は立ち上がり根源の結晶ごと魔法のように消え去った荒野を見ていた。


ウメの中に渦巻いているのは後悔。戦えなかった。立ち向かえなかった。兄を拒絶しておいて、最後まで真剣に向き合えなかったのかもしれない。だがもう兄はいない。その機会も、その手段も。今の自分にはなんの力もなくて、なにをすることができないという自己嫌悪の谷底に落とされる。




「佐伯...平気か。」


「はい、先生」


「私は最後まで、誰も守れなかっだ。挙げ句の果てに、生徒たちに守られるなんて....」


篠原は拳を強く握り、地面に叩きつける。その手に伝わる痛みも、硬い石の感触も。全てがただそこに転がっているだけの現実。


だが、佐伯はその手に手を重ね包み込む。


「先生も、ウチのこと守ってくれたじゃん。源二だって、助けられてたよ。先生は知らないかもだけどね。」


その言葉だけで、もう全ての気持ちが壊れそうなほど暴れ出す。しかしそれを喉を通さず飲み込む。


「凛、行こう。召喚者にとってこの世界は都合が良すぎる。」


「うん。」


歩き出すその背中。2人は痛めた身体を庇い合い荒野を歩いていく。どこまでも。








その目に光はない。ただ見えぬその中心に鬱蒼と巡る魔素の大河。大海。その中心で人だった私はいた。


2人は互いを求め抱き合い、その身体には離れることがないように白金の鎖が巻かれ、片方は光を。そしてもう1人は闇を作り出す円環の中に眠る。


「ねぇ、源二。アタシたちはこれで十分よ。」

「ああ。この悪夢も、4人でなら幸せだ。」


ペトラ。エレーナ。芽亜利...

これでよかったんだ。3人に注がれてきた輝きが、最後の柱となって救ってくれる。


失ってばかりだった。大切な人を。かけがえのないものを。自分自身を。


この想いが、この願いが。この魔法のような運命が続く限り。


「貴方と一緒なら。」


















源二は根源が2度と魔法を振り撒かないよう、自分自身を縛り付けてその形を保った。そこにあるのは矛盾。光と闇が円環を成し、その円環を持って私たちの見えない世界で今も生き続ける...永遠の悪夢の夢に眠る。




ーーーアトラス紀終結ーーー後、エンタープライズ紀003ーーーー




小高い山に聳えるエイレーネ城。鬱蒼と茂る森に密かに聳え立つその城と、底なしの谷にかかる橋は綺麗に並び揃えられた石によって築かれ、もうそこに魔法で切り出した独特の模様はない。精巧に作られた四角のブロックを規則正しく奏でる足音。


私は、全てを再建した。この世界にはもう、魔法はない。一歩ずつ。一歩ずつ、ひたすらに前へと歩みを進めてきた。



最初は本当にわずかな進歩だった。結局はこれまで通りの国家関係をあまり崩し切ることはできなかった。

戦争も起きた。


エイレーネは消滅。カストス教を信仰していなかったウェインフリートはその莫大な領土を連合小王国へ譲渡。連合小王国の中でも幾つかの国が台頭しこれを争った。

エイレーネとウェインフリートの国交は回復せず、騒乱の中で埋もれていった。


最初は、エイレーネ王都とパラトスの間を結ぶだけで精一杯で、外界とは全く連絡が取れていなかった。

しかし、公営が栄えればさかえるほど実しやかに聞こえてくる隣国の足音。


エイレーネ城とパラトスの限られた自然資源の多い潤沢な都市は以前ほどとは行かないが復興し、人々は平穏を取り戻していた。


それこそ3世紀を回り、もう誰もあの地獄のような力を語るものは居なかった。



だが、根源は全ての穢れを。全ての魔法を回収することはできなかった。


この世界にはまだ、隠れ潜んでいる魔法使いがいる。




そして、把握できているのはこの数世紀でエイレーネだけ。

呪い、黒魔術、ギフテットと呼ばれる超人的な能力。本人の自覚の及ばないものまで。その全てが暴走しないようコントロールするしかない。


だから息を潜め、深緑の霧に姿を隠し、生きてゆく。


「勝負事の神...ねぇ。」



長い橋を振り返り、フードを深く被り直すとその影に見合わぬピンク色の硝煙。黄金の薬莢が深緑色の霧舞う石畳みに転がっていったのだった。









悪夢の夜に 完


疲れました。感想やコメント類も送ってくださった方ありがとうございます。励みになりました。とんでもない分量になりましたw

ここまで来るとちょっと書籍化もしてみたかったですね。ともかくこんなに長い駄文に付き合ってくださった読者の方々に感謝します。

最後に是非感想や評価もくれると嬉しいです。これまでのものも全部読みましたが、とても励みになりました。


改めてお付き合いいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ