08 ジョック来日
新聞の見出しは日々似たようなもので『超能力番長、イギリス留学か!?オックスフォードが電撃発表』『野村隼人氏、ボツワナ大学移籍内定!アフリカの希望!』などなど。
世界に三人だけのSランクのうち、唯一の未成年の誘致に世界中が関心を持っていた。
当初は新聞を見るたびに驚愕し隼人に詰め寄っていたメイリンも、あまりにも毎日繰り返し同じ様な記事が並ぶためすっかり慣れて、新しい国名が出るたび世界地図を塗りつぶしていつ埋まるかという暇な遊びを始めてさえいる。
しかし、Sランクが日本に二人という現状は各国が不満を持っている。
超能力番長という肩書で一見フリーに見える隼人に注目が集まるのは当然であった。
「HAHAHA!長年の問題の解決、この勝負で決めマショウ!」
超能力学園の校庭。
その中でも最も大きい高校・大学共用の特別運動場。
アメリカから飛行機で来日した学生チームが親善超能力試合の前にマスコミを集めて記者会見を開き、高々と宣言した。
超能力番長を獲得したい外国勢力の策謀だが、正直いつものことである。
引き抜きの試みや襲撃は日常茶飯事。
Sランクの地位を狙った朝駆け闇討ちも多い。
砂漠の王子や密林の王者が挑戦してくることもよくあった。
剛剣はそのような不埒者を事故や相手方の不注意に見せかけて必ず敵を殺す。容赦なく。
三人目のSランクは国家元首に相当する立場のため、挑戦などできないし不意打ちは護衛に阻まれテロリスト扱いされて死ぬよりも酷い目に遭う。
しかし隼人は命までは取らない。
不殺。
そのため保身第一だが話題にはなりたい身の程知らずが売名に利用して決闘動画をあげたり、それを見てイキった世界中のAランクがSランク昇格を認めさせるため襲いかかってくる。
「意地はらなくていいんデスヨー?ハヤートがハンバーガーとコーラが大好きなのは皆わかってマース!」
隼人はコーラも飲むが実はサイダー派である。リサーチが甘い。
グラウンドに並んだジョックは健康な肉体美を演出。
ジョックとはアメリカの学園内ランキング、すなわちスクールカーストの上位に位置する運動部の男子のことである。陽キャでパリピで運動神経がよく社交性も高い。
クイーンビーはきわどいチア衣装であふれんばかりの健全なお色気を放っていた。ポーズ一つとっても歴代のクイーンビーから継承した、ながいながい時間をかけて研究と研鑽を繰り返し尽くしたセクシーさ。執念じみた歴史の重みを感じる。
クイーンビーとはスクールカーストの上位に位置する女子のことである。陽キャでパリピでお化粧がうまくて社交性が高い。
「我々が勝てばハヤトはペンタゴンに就職しマース。我々が負けたら残念デスがそれも仕方ないデス。ハヤートに大統領からの特別なお言葉と永久名誉市民権を進呈しマース!」
「ざけんな。」
Sランクの超能力を発動。
ジョック&クイーンビーのチームを月までテレポートでふっとばす。
ジョックたちは光彩陸離に包まれ、地球から光速で離陸し三十八万四千四百キロを瞬時に通過して月面に出現した。
ランクわけの最もわかりやすい区別の仕方は射程距離である。
月まで届く超能力はSランクと規定される。どれだけ力の強いAランクでも月に届かなければSランクとは認められない。
月に飛ばされたジョック軍団はその場から動かず超能力でバリアを張って月面の過酷な環境を耐え、隼人の救助を待った。テレポートが届かないなら念動で飛んでも途中で力尽きて広大な宇宙空間で遭難するだけなのだ。
ちなみに試合内容はなんでもありのバーリ・トゥードバトル。
ド派手な超能力バトルを見られると思って押し掛けた観客とマスコミは大層がっかりしている。
ジョックたちが自力で帰ってこなかったため審判が終了を宣言しかける。観客が解散しはじめる。
緩んだ雰囲気が場を支配した。
「イヤッー!スキありイイイ!」
突然地面から飛び出したグレーの忍者装束が隼人を不意打ちする。
額に鉢金、忍者服。両腕に手甲。右手に四角い鍔の忍者刀、左手に鉄鉤爪。
コテコテの忍者だ。
忍者フードからツンツンの短い金髪とそばかす顔が覗いている。
「拙者通りすがりのナード忍者!お主に恨みはないがプロムで自作のオイランクノイチ衣装を来てもらう彼女をゲッツ!するため、ここで試合に負けてもらうでゴザル!」
すごい気迫だ。
意識の空白にとんでもない隠し玉が炸裂したため、観客は誰もがあっけにとられている。
ちなみにプロムというのは卒業パーティのことで、あちらの学生には気合の入った大一番なイベント。
男性はタキシード、女性はドレスが定番である。けしてコスプレパーティではない。
「イヤッー!」
開いてる左手で煙玉を投擲する。
そして必殺の忍者奥義につなげるつもりだ。いわば煙玉は牽制!
右手の忍者刀に稲妻が集う。
忍者奥義雷神ソードはまさに必殺の一撃!
「セイヤー!」
しかし超能力番長は一切動揺も容赦もしない。
出現から投擲の間に観察をすませてジョックチームのおまけと判断。
コンマ二秒でテレポート発動。
ナード忍者を煙玉ごと月に飛ばした。
これまたあっさり終了。
隼人はブーたれる観客から逃げるようにさっさと帰って生徒会室で仕事に戻った。
月面でバリアを張って耐えていたジョックチーム及びクイーンビー、ナード忍者が隼人により救出されたのはそれから3時間後である。
本当に忘れてたらしい。
可憐は呆れ、メイリンはナード忍者が面白かったとコメントを残した。
その後仲良くなったそうな。