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09 超能力大臣

 超能力大臣、坂神剛剣の仕事は多忙を極める。


 超能力対策庁の長官として、超能力に関わる日本の事務のすべてを仕切っていた。すでに数ヶ月寝ていない。Sランクの超能力があれば長期間、睡眠も休息も必要としなかった。


 その業務は、Aランク超能力者の派遣の割り当て……日本に存在するすべての大人のAランクは外国人も含めて超能力対策庁に所属しているため、Aランク超能力者の強力で便利な力を使おうとしたらすべて剛剣を通さないといけないのである。


 超能力は物を動かす念力(サイコキネシス)、超感覚のESP……遠くを見る千里眼(クレアボヤンス)、物体の過去の記憶を見るサイコメトリー、物体を透かし見る透視、様々な事象を映し出す念写、他にも予知(プレコグニション)、瞬間移動、発火能力(パイロキネシス)、傷や病気を治す治癒(ヒーリング)、家やビルを作り出してしまう創造(クリエイト)、動く人形を作り出して労働をアウトソーシングする念動人形(サイコロイド)、植物や動物を操作してすばやく育成させる生命操作(ライフコントロール)、きれいな水を生み出したり土地を豊かにもできる地水火風のエネルギーを操作するサイコエレメントなど多岐にわたる。


 それらの超能力者を適切に発電、医療、福祉、介護、消防、国防、警察、公安、治安維持、税務、農林水産漁業、福祉、教育、運送、入出国、検疫、刑務所、上下水道、市区町村運営、ゴミ処理、報道、山岳や海岸の監視と警備、海から上陸してくる巨人の討伐などへ割り振って派遣し、業務終了後に報告書の確認。そしてAランクでは手に負えない案件……超巨大ゴミの巨人が出てきたら剛剣が出張って退治する。


 手が足りなければ隼人も動員する。


 手が足りないといえば、Aランクが足りないときは超能力学園に所属するAランクの子供をバイトで雇うが、Aランクの大人と必ずセットで行動させていた。


 他国に誘拐されたりしたら国力の低下を招く。


 超能力者の数と質が国力の差でありそれを守ることが国防なのだ。


 海運がほぼストップしている現状、食料の輸入量が激減したが超能力による栽培や畜産の増産で日本は食糧不足を回避していた。


 その他の剛剣の業務は、各業界との利権の調整や交渉、企画、法律や規程類の整備や確認。イベントへの出席。講演会。大臣としての仕事もある。


 Aランクの独占は警察を筆頭には各業界からの反発が当然あったが、Aランクには警察出身者もいたので各業界の出身を把握してコネを積極的に活用。適切に割り振って仕事を遂行せた。


 以上が剛剣の主な仕事だった。日本の全ての利権を手中に収めているも同然である。剛剣がNOといえばどんな仕事も効率ガタ落ちし、そもそも成立しないことすらある。それほど巨大な権力だった。


 だが、剛剣にとっては大したことではなかった。それは前から同じだったからである。


 剛剣は議員秘書をしていた一年前の時点で、すでに日本を裏から支配する帝王の座を手に入れていたのだ。



 ……一年前、全世界の全人類が一斉に超能力に目覚めたことにより、社会は大混乱に陥った。


 なにしろ無力な一般市民が武装ヘリより強力な破壊力、防御力、機動力を持つようになったのだ。それも全員。


 Cランクですらバズーカ砲の破壊力と同程度の超能力はある。


 どこの国でも一定数存在していた反社会勢力が武力を手に入れてテロ組織にスライドし政治危機が発生。


 政権交代や革命が多発し、政府の武力による収拾がつけられず無政府状態に突入する国も多々あった。


 人間同士の争いとは別に、ゴミの巨人に都市を押しつぶされて国民すべてが逃げ出し無人島になった国もあった。



 混迷を極める世界。


 日本については野村隼人、坂神剛剣の両名が日本すべての海岸でゴミの巨人を一晩のうちに撃退するという行動を逐一動画配信した翌朝、剛剣が国会を動かして首相の非常事態宣言からの超能力特別法案の提出と可決、超能力対策庁を設立させて大臣に専任されて超能力対策庁の長官に就任した。


 超能力特別対策法の草案は、剛剣とその配下がゴミの巨人の相手をしつつ配信もしつつ一晩で作り上げた。


 首相を始め、政治家と官僚への根回しも完璧である。むしろコネのある官僚を動員させて手伝わせた。


 その内容は、世界のどこよりも早く、先んじて超能力者のランク分けをして分類・整理し、すべてのAランク超能力者を超能力対策庁と超能力学院に所属させて国家が管理を行うことである。


 隼人と二人で一週間かけて日本全国調査してAランクを選別・確定し身柄を抑えて社会を安定させた。Aランク超能力者はSランクである剛剣や他のAランクが抑止力となり、B~CランクはAランクの存在が抑止力になって犯罪や反社会的活動を止めざるを得なかった。そして日本の治安と平和と国家体制は以前と同じように保たれた。



 剛剣はそれだけのことができるスペックを持っていた。



 剛剣は長野にある大地主の跡取り息子だ。


 幼い頃から利発で優れた能力を持っていた。その力で最初は親を、親族を支配し、同時に学友、学校のすべてを優れた学力、言動、外見的魅力、運動神経や体力などからくるカリスマで思いのままに支配した。


 長野では収まらなくなった剛剣の器は高校進学とともに首都東京に向かい、同じように学校からはじまり生徒の親たちを、金融を、政治を支配していった。誰もが剛剣に心酔し、持っているものを差し出した。金でも地位でも妻でも娘でもなんでも……。


 十六歳で東京に進学して大学を卒業するまでの間にあらゆる財閥、政治家、官僚に顔が利くようになり政治秘書となって二十五歳の頃には日本を実質支配し、それ以外の先進国も剛剣の支配力が徐々に及んでいた。


 日本の影の帝王。その名は坂神剛剣。


 そんな坂神剛剣には夢があった。


 とても大きくて困難な夢だ。


 その夢を叶えるために生きていた。



 人類抹殺――すべての人類を殺し尽くし、最後の一人になること。

 


 一年前の時点でその願いは実現可能な領域に来ていた。


 十年以内に核戦争を引き起こして人類の過半数を抹殺し、国家がすべて崩壊したポストアポカリプス世界を支配し、人類の最後の王となる。


 そして最後の王の名の下、残った人類で最大の勢力を率いて支配に従わない勢力を十五年ほどかけて粛清していく。


 五十歳になる頃には自分に従う一つの都市、最後の人類の文明の砦メガロポリスしか残さない。


 そのメガロポリスを核爆発で滅ぼして人類抹殺完了である。


 剛剣が幼い頃から温めて、都度修正し、完成に向けて作っていた滅びのシナリオだ。


 剛剣がなぜこんなに狂っているのか。


 それには理由がある。


 そもそも姓の坂神。坂神とは逆神。災いをもたらす神のこと。


 坂神の家は古い旧い家系でかつて朝廷にあだなした禍ツ神の血を引いており、人外の化け物、鬼や悪魔、人並み外れた人間を生み出しやすい血筋だった。


 怪力無双で鋼のように体が固くなる父。美しすぎる魔性の母。刀で刺してもすぐに再生して死なない祖父。水を操り雨も日照りも思いのまま引き起こす祖母。そんな魑魅魍魎を親族にもち、そのすべてを兼ね備えていたのが剛剣だった。


 親族たちは田舎で満足してそこから出ようとしなかったが、逆神の血が濃すぎた剛剣はひたすら人類が憎くてたまらない。


 特に地元で人間から差別や虐待や痴漢など受けた訳ではないが……ああ、痴漢はされたような……まぁとにかく憎い。

 殺し尽くしたい。


 愚かな人間どもを許さない。


 その目的のために世間に出た。


 そして――幼い頃から温めていた計画が潰れたのは――もうどうでもいい。


 一年前に隼人、ホウライ、誠一郎と出会った夜。


 それまでの世界が色褪せるほどの衝撃。


 一年経っても剛剣の心に熱く燃え盛っている。


「……本来ならあの日の夜に、人類は宇宙人によって滅ぼされていました。あれから一年、宇宙人は何のアクションも仕掛けて来ていませんが、それはサイコダイブした誠一郎がたった一人で宇宙人の足止めをして侵攻を食い止めているからに他なりません。」


 剛剣は危険を危険として認識しているが、恐怖を感じず楽しくなる異常者だ。ゆえにホウライに見出された。


 誰にも負けない。権力でも財力でも暴力でも。


 そう思っていた。


 だが、肉体的進化の果てにあるホウライを見て、さらに人類を支配していた宇宙人の存在を知った。


 そして人類が本当に滅亡する寸前の戦いに末席として参加した。


 三番手だった剛剣の出番はなく、一番手の誠一郎がまだ戦っている。


 一年経ってもまだ戦闘が続いている。


 こうしている瞬間にも誠一郎は戦っている。


 誠一郎が負けたら、枷の解けた宇宙人は人類を滅ぼすだろう。


 それを考えると……楽しくなってくる。


 人類は一年前から常に崖っぷちで、それを正しく認識している剛剣は楽しくて仕方なかった。人類がいつ終わってもおかしくない状態だと誰が思う?


 仕事の手が止まり、口元がニヤける。


「長官。」


「少し昔を思い出していました。」


 秘書の一人が入ってきた。高校時代から従えている美人同級生だ。


 二十六歳花盛り。仕事もできて気心もしれている。


 そして剛剣の命令一つでいつでも命すら投げ出す。


「あの、アメリカとロシアの核ミサイルを何発も東京都にロックオンさせた夜の事ですか?あのときは、ボスが自殺を決めたのかと組織全体が大騒ぎでした。あなたを慕う部下が何人も殉死しようとしたり、言いつけに背いて避難せず現場に向かおうとしたりして止めるのが大変でした。本当に大変でした。生きててよかったです。うう……」


「はは、申し訳ない。でも私は核の雨が降っても余裕です。ちゃんと生き残るつもりでしたから。皆も死ななくてよかった。もちろん、あなたも。」


「次に核を撃つときはぜひお側に。もうハラハラするのは懲り懲りです。」


「それで、どうしました?」


「ご報告です。ジョックチームが帰国しました。超能力番長の派閥に取り入ることに成功したのは一人。ナード忍者と名乗る、大統領ビック・ゼウースマンの息子マックス・ゼウースマンです。」


「それは予想外でしたね。ナード忍者、よっぽど面白い子のようです。」


「チームには姉妹のアルテミス・ゼウースマンやヘーベー・ゼウースマンもいましたが、会話する前に勝負がついたため超能力番長とは接触できていません。」


「クイーンビーのお色気がメイン火力だっただろうに、大統領はさぞ悔しいことでしょう。」


「チームの子女は例外なくアメリカ上流階級や政治貴族の秘蔵っ子でした。これからもマックス・ゼウースマンを通じて紹介されることが予想されます。」


「マックス君が普通に物事を見れるくらいに聡明ならば、隼人にハニトラは一切無駄だと気がつくでしょう。」


 超能力番長は硬派だ。


「アメリカEU連合も必死ですね。Sランクがいないため株価がガタ落ちです。企業も人もどんどんSランク保有国に流れてます。世界のバランスのために超能力番長を欲しがるのも仕方ない。……そうそう、宇宙人の捜索はあれから進んでいますか?」


「少しお待ち下さい。テレパシーが。」


 ここでテレパシーについて説明しよう。


 結論から言うと手で持たなくていい電話程度の超能力だ。言いたくない事は伝わらないし、読み取れない。他人の思考を無理矢理読んだり洗脳はできない。


 人はだれでも心の壁と呼ばれる強力な防壁を持っており、たとえSランクでもCランクの心の壁を剥がしてその奥を盗み見ることはできない。


 自分から心の壁を消し去ることもできない。オートでブロックする強固なセキュリティだ。


 剛剣は宇宙人の言葉を思い出した。宇宙SNS。テレパシーの果てにある宇宙の外の世界。心の壁が消滅した時人間は一つの精神生命体となるだろう。そして宇宙SNSに進出するだろう。十年後か百年後かわからないがそんな予感がする。


「失礼しました。インドが併合に合意したそうです。事実上の征服です。これでユーラシア大陸は完全に超能力黄帝の支配下に入りました。」


 超能力黄帝とは三人いるSランク最後の一人にして最強の男。古代の王にあやかったネーミングだ。


 Sランクの力関係は超能力黄帝3:超能力番長2:超能力大臣2で日本有利と考えられている。5:3:3という予想もあるが、主流は3:2:2だ。超能力黄帝の支配下である地域では8:1:1と喧伝していることがあるが、全世界のアナリストは取り合っていない。株価は常に冷徹だ。


「完全に、ではありませんよ。ドイツが東西で分裂してEUへの進出を食い止めています。」


「そうでした。ミラに聞かれたら怒られてしまいますね。」


 EUといえば二年以上前、まだ超能力大臣になる前に西側を支配する高貴な家系から関係を深めるため末席の姫が贈られて来たことがあった。今では秘書として働いてもらってる。


 剛剣の組織には日本はもちろん、各国の優秀な人材が集まっている。ずっと昔から育ててきた部下や、敵対組織を吸収して剛剣の支配を受け入れた者たちだ。超能力の世界となった後も、ずっと仕えている。


「今夜は久しぶりに皆で過ごしましょうか。夜景がいいところでホムパの気分ですね。先に帰って用意していてください。」


「本当ですか!嬉しい……すぐ用意させます。」


 同級生秘書を先に返し、都内の高層マンション最上階ワンフロア全部を使った自宅のうち一つに戻ることにする。


 地球全土に散っている部下たちが一斉にテレポートや自家用ヘリ、自家用飛行機で集まってくるはずだ。


 剛剣はテレポート出勤ではなくバイクを使う日だったので専用駐車場からバイクを出して帰宅する。


 バイクは趣味だ。


 超能力を手に入れてからもコレクションの手入れと運転は欠かさない。


 途中、何日も庁舎の外に張り込んでいた妖怪退治専門退魔組織、その当主の家系最後の一人に襲撃されたがあっさり返り討ちにしてお持ち帰りした。


 政治的圧力をかけて一家離散させ自殺においこんだ高崎一族生き残りの娘だった。名前はたしか高崎姫(たかさきひめ)。


 柄を短くした薙刀を握って衝撃が壁向こうまで突き抜ける刺突技を建物の反対側の道路から使ってきたが、愛用の鉄パイプで衝撃波を打ち返したら自滅した。


 Sランクを敵に回すには圧倒的に物足りない。


 以前から異能を持っていたとしても超能力がAランクになるとは限らない。


 超能力が一般化し古来からの退魔技術や異能の血筋が陳腐化したので、遅かれ早かれ生活が立ち行かなくなる業種だった。


 剛剣がトドメを刺したのは昔から実家を目の敵にされてウザかったのと、とあるマニュアルを手に入れたかったためで後悔も反省も一切していない。もとから人でなしである。


 最後の最後の実弾がやぶれかぶれの女子高生とは呆れるしか無い。


 昔は鉄砲玉も質が良かった。一年前にあった襲撃では頭のネジが壊されたとんでもない暗殺者が出てきてこころが震えた。ドキドキが止まらない。その興奮を今も引きずっている。


 剛剣は悪逆非道で無慈悲な魔王なのでお持ち帰りした可愛そうな娘は部下たちとのパーティのついでに陵辱してヤリ捨てた。


 使えるスキルかAランク超能力でもあれば拾いあげて使い潰したが、簿記や外国語の読み書きといったスキルも特になくて超能力もBランク下位程度。若いだけだったので惜しくもなかった。


 最初は反抗的だったが、最後には完堕ちしてトロ顔を晒していた。


 ただし当分の間、部下を動員して見張りと護衛はつけた。超能力者の量と質が国力のすべてである現在、Sランクの子種はそれだけで価値があると見なされる。


 各国の諜報員に誘拐されてトイレで引きずり出されるのは流石に忍びない。試験管ベイビーが山程湧いてくるのは剛剣としても願い下げだった。

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