05 サイコダイバー
「実は俺には超能力がある!」
誠一郎いきなりなカミングアウト。
「これから宇宙人に超能力による戦闘を仕掛ける!」
宇宙人を指差す。
肉体戦、電子戦、頭脳戦、超能力戦。
戦いは新たな局面を迎える。
「どんな超能力だ。」
仲間たちは驚きもしないし馬鹿にもしない。煽らない。内容が気になる、興味深い、さっさとやれといった感じだ。
「サイコダイブを行う超能力、サイコダイバー。精神の内側へ肉体ごと転移して心の迷宮の入り口に立つ。」
「勝てるのか?」
「心の迷宮を全階層踏破してクリアをすればどんな相手にだって勝てる……勝つという表現は大げさだが、わかりあう。今まで何人かこれで精神的な問題を解決して社会復帰の手伝いをしてきた。」
精神をダンジョンに見立てて攻略するという手順を通すことで、精神的な問題や心の闇を切除したり矯正したり別の解釈や気付きを与え、精神を苛む過去に対する認識と悪影響を変更、解体、解決する。情報の抜き取りや洗脳なども不可能ではないがそんな一方的に操作できるような便利な力ではない。
「迷宮で怪我したり死んだりしたら?」
「俺が死ぬ。」
そう、心の迷宮とは法律も警察も守ってくれない無法地帯。しかも入られた方は全力で侵入者をぶち殺しに来る。アイディアの限りを尽くした恐ろしい罠で、凶暴性の野獣で、嫌悪感の毒霧で、怒りの刃を構えた精神の白血球たちが迷宮のあらゆる角度、全方位から襲いかかってくる。
サイコダイブは精神をダンジョン化させてアタックする過程をもって問題を解決するシステマチックな心理療法だが死の危険と常に隣り合わせ。いや、ほぼ確実にダイバーが患者に殺されて死んでしまう危険な行為なのだ。
「そこのイノベーション『新人類』は世界の終わりを見るとか言って宇宙の中心に行こうともしない。『ウザイ』本当にワガママ。もっと大人になるべき。『超無理』つまらない妄想に囚われた哀れな結末はすべての先達を失望させる。『超BM』恐竜も原人もアトランティス人も『私だ』そう言ってる。謝って。すべてに『ASAP』謝って。」
「精神に入られたほうはどうなる?」
「勝負がつくまで目覚めない。ただし宇宙人が眠るのかは知らない。最悪でも多少の行動妨害にはなると思う。」
「いままで負けたことは?」
「ない。俺は負けたことがない。なにせリセットも死に戻りも途中離脱も中断セーブもないから……ワンミス即死の難易度ナイトメアなダンジョンを一発攻略して今まで生き残ってきたよ。」
なんというクソ超能力。飛び込むことはできるがあとは自力でなんとかしないといけない。
宇宙人の心にダイブする人類は間違いなく史上初。
剣とスマホと学生服。身一つの戦いで人類心理学の通用しない宇宙人との孤独な戦いが始まる。
「そうか、超能力。」
その時ホウライが立ち上がった。
左手で拳を握る。
「精神的進化をはじめた人類は超能力を発現させる土壌がある。すでに目覚めている超能力者がここにいるなら、導火線として人類の集合無意識に発破をかけて全世界へ影響を与え超能力の覚醒を促すことは難しくない。隼人、ちょっと誠一郎と握手。」
隼人は怪訝そうな顔をしたが、数歩歩いて誠一郎と手とつなぐ。そこへホウライが全身のチャクラから気を放った。
誠一郎を起点とし、隼人を経由して地球全土に見えない力が駆け巡った。そしてこの夜、全人類に超能力が目覚めた。
ホウライの敵対行動により宇宙人が攻撃に移った。
なんと、今までの会話はホウライを説得あるいは命令しているつもりだったらしい。
吸収した知識や人格が多すぎて会話になっていなかった。
誠一郎が刀で首を切ったが、敵対行動とは理解されていなかった。
「ティイレックス!」「トリケラ!」
宇宙人が内側から盛り上がった。服を突き破り、腹からトリケラトプスの角、顔、首、胴体がにゅるにゅると出現して前足を踏ん張り、突撃。また、背中を突き破ってティラノサウルス・レックスの上半身が現れる。
身体より明らかに巨大な体積が湧いて出てきているが、アホ毛を通じて『地球環』から必要なだけ質量が送られて来ている。伊達に有線ではない。トリケラトプスの尻尾も宇宙人の腹から出たアホ毛とつながっている。有線操作。
目覚めた自販機と剛剣のバイクがナノマシンで生成した両手両足を広げ立ち塞がってトリケラトプスを止める。金属のボディに巨大な角が食い込んだ。廃車確定。
トリケラトプスの口が開いて舌が伸びる。いや、舌というより無数の触手だ。人間たちの耳を狙って突き進む。非常に危険な速度ですっ飛ぶ。
ホウライの気を受けた衝撃で動けない隼人が膝をつく。意識も戦意もあるが肉体がついてきていない。
触手がせまる。
隼人の目が見開かれる。確実に死を覚悟した。
剛剣が隼人の襟首を片手で掴んで振り回し触手を回避する。凄まじい怪力だ。
小柄とはいえ、高校生を片腕でなんなく持ち上げている。
上空から振り下ろされるギロチンようなティラノサウルス・レックスの噛みつきをワゴン車の両手が受け止めた。そのまま持ち上げられて宙に浮き、地面に叩きつけられる。
ワゴン車がバウンドする。廃車確定。
恐竜たちの凄まじい攻撃力が目覚めたロボットたちを数秒で突き破る。かつての地球を統べた覇者の貫禄。
誠一郎は超能力慣れしているため体が動く。
抜刀して触手を切り払った。そして自販機とバイクがトリケラトプスと組み付いてる隙間をあっさり通って宇宙人の顔を両手の拳で挟む。
右手に抜き身の刀、左手は鞘を握ったままなので仕方ない。
「おさらば!」
サイコダイブが発動し、誠一郎が現実から消失する。
宇宙人は眠らなかった。
だが、苦しそうに身を捩る。体そのものがドリルかというくらいぐにゃりと曲がった。
「塵塚怪王!」
宇宙人が叫ぶ。その意味は誰にもわからない。
精神に異物が入った状態はやはり不利なのか、宇宙人はアホ毛に吸い込まれるように刺胞動物が棘を打ち出す速度で撤退して消えた。
『地球環』はまるで最初からなかったかのように消え失せた。
地球から遠く離れた水星公転軌道にある宇宙人も消え失せた。
再び人類の眼から身を隠して隠形状態に入ったのだとホウライが語った。
四人いた仲間は、その夜のうちに三人になった。