06 塵塚怪王
地球全土で人類は大きな損害を受けた震災。その時系列を整理しよう。
まず『地球環』が出現した。土星の輪のように地球を取り巻く三重の光る環だ。
『地球環』が出現したその直後に、渤海を震源とする震災が発生した。
次に、震災から数日が経過したある日の夜に、『地球環』が消滅した。フッと消え失せた。
『地球環』が消滅したその直後に、人類に超能力が芽生えた。
最初は子供から始まり、すぐに大人、老人へと広まった。
最後に、超能力の目覚めと同時に、人類が海に投棄したあらゆるゴミが寄り集まって巨人となり、陸地へ向けて歩いてきた。
人類はゴミの巨人を銃で、大砲で、ミサイルで、芽生えたばかりの超能力で迎撃したが、ゴミの総量が増えるだけだった。
ゴミの巨人は人類の都市へたどり着くとそこで崩れてゴミの山に戻った。
当然、人類は沿岸部の都市を放棄して内陸へ後退した。
だが、四方が海に面した国々、ミクロネシア・ポリネシア・メラネシア地域は後退することができず都市を追われた難民を量産した。
難民は海を渡れればいいほうだ。
大半はゴミの巨人に海上で船を落とされる。
そして新しい巨人の一部となって陸地へ帰る。
ゴミの集合体の巨人は、人類が長年に渡って海に捨ててきたゴミの量を計算すると数年は発生し付けると予測された。
それらは海の妖怪として海坊主、海からくるゴミの魔物でシーダストモンスター、ゴミの主として塵塚怪王、ポセイドンの怒りにより放たれた魔獣ケートス、深海のクトゥルフ、大渦カリュブディス、タイタン、クラーケン、バハムート、ドラゴン、シードラゴン、ハイドラ、ヴェータラ、カプレ、ムエラグブトなど、ありとあらゆる国から様々な言語で怪物として名付けられ、恐怖された。
二〇一八年六月某日。
東京湾から上陸した巨人は夢の島を踏み潰し、都庁ビルへと向かっていた。
あらゆる防衛策は不発に終わり、いま東京はゴミの山に沈む――はずだった。
都庁ビルの上から巨人に向き合う男が二人。
ベスパと呼ばれるスクーターに乗りこみ学ランを肩に引っ掛けた学生と、有名ブランドの上品でおしゃれなサマージャケットに身を包み、同じくブランド製の黒革の手袋をした育ちの良さそうな男だ。
その二人が並んで眼光鋭く巨人を見据える。
巨人はゴミの集合体だが、遠くから見るとただの黒い塊に見える。細部を拡大してよく見れば自転車の部品やペットボトル、網や発泡スチロール箱の破片などが見えるがそんな細部までは誰も気にしなかった。
大きい。
巨人の大きさは百メートルをゆうに超える。
ズシン、と一歩ごとに道路が陥没する。
ゴミが飛び散る。
「でけえな。昔の映画にでてくる巨大怪獣よりでかいか?ああ、ゴミがどんどん落ちてるな。あんなん歩いてきたら、そりゃー迷惑極まりないな。上陸する前に海にいるうちに足まで含めて消し飛ばすのがいいか?」
ベスパのエンジンをふかしながら少年が嘯く。
恐怖も動揺もない。登校して来る同級生でもながめるように気負わない。肩の力が抜けている。
「まるで世界の終わりですね。世界中でアレが海から上がって街まで攻めてきてるそうですよ。」
ジャケットの男がやや興奮したように話しかける。そこら辺から引っこ抜いてきたような鉄パイプを片手に一本づつ、合計二本装備していた。
「あのまま放おっておけば市街地を踏み潰して進み、都市のシンボルになってる人が多い場所でゴミの山に戻るそうです。あれは、この、都庁ビルへ。あとは別の巨人がスカイタワーに向かってきてるとの報告もあります。」
ベスパの少年は怪訝そうに巨人を見た。
「なんか恨みでもあんのか?あんまそういうの感じねえけど。」
「人間に捨てられたゴミですからね。人類が海洋に投棄したゴミはもはや数え切れないほどです。一体何百、何千億トンになるのか。」
「んん……なんか違うな。やったのは宇宙人だし意図があるはずだが……まぁいいか。そうだ、どうでもいいぜ。今はな!」
ベスパの少年がアクセルをふかしてビルの外に飛び出す。
落下せずに空中を走り抜け、光をまとって巨人の頭を体当たりで粉砕した。
男も空を飛んで巨人に接近し、鉄パイプ二刀流から飛ぶ斬撃を放って巨人の両手を粉砕した。
「うおおお!」
ベスパの少年が一旦上空へ舞い上がり、急降下して巨人の胴体を粉砕する。ゴミが多少散らばるものの、大部分は消滅して地上の被害を抑えていた。鉄パイプの男が両足部分を消滅させ、百メートル級の巨人は息の根を止めた。
「楽なもんだな。」
「では、私は西日本を担当するので東日本は任せます。朝までにすべての都市を防衛してきてください。ライブカメラを守ることも忘れずに。」
「余裕だぜ!」
東西に別れた二人は海岸線を飛び回ってすべての都市を防衛し、海からくる巨人を次々と消し去った。
その様子はあらゆる動画で一晩中、配信された。
剛剣はカメラをジャケットにつけて動画を流していたし、隼人はベスパにつけたカメラで迫力ある戦闘を魅せた。
一般人もその様子を配信した。ゴミの巨人が上陸してくる動画を撮ろうと深夜なのに元気な物好きがそこかしこにいた。
最初が東京だったので話題が広まるのが早かった。
剛剣の配下たちも配信に参加した。日本各地の沿岸に人員を待機させ、隼人と剛剣の戦闘シーンをライブ配信した。
このように単独で巨人から国土を防衛できた超能力者は他国には一切おらず、その力と功績は半ば伝説となった。
ベスパの少年はAランク超能力者を集めた学園を治める仕事を任された。
鉄パイプの男は政治秘書から大出世。首相から大臣の専任を受けて、新設された超能力対策庁の長官となった。
この二人は世界に三人しかいないSランク超能力者に認定され、それぞれ
『超能力番長』 野村隼人
『超能力大臣』 坂神剛剣
と呼ばれるようになった。
それ以外の国家の海洋都市は巨人の攻撃によりほぼ壊滅し放棄され、人類の生存圏は海岸から奥地へと追いやられていった。
海は危険地帯となり、海洋交通は断絶。漁業も大きく縮小した。
ゴミの巨人の討伐にはSランク一人かAランク五人以上のチームが必要とされ、用意ができなければ漁船もタンカーも海に出れなくなってしまった。
震災から世界は一変し、破滅の足音が聞こえてくるようだった。




