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10 超能力番長

 さらに一年後。


 二〇二〇年六月。


 メイリンはすくすくと育ち、十八歳程度の外見になっていた。


 半年で小学生から中学生、さらに半年で中学生から高校生の肉体に育つ。


 十八歳の隼人と同じくらいの見た目になっていた。早く隼人と並びたいので、一生懸命育ったらしい。


 可憐はロリじゃなくなったと失望して小等部に触れ合いを求めて侵入未遂事件を起こし、罰として外洋漁船の護衛任務に就いていた。今は遠い海の上でゴミの巨人と殴り合いをしている。


 だが、油断すればすぐに戻ってくるだろう。変態がロリに掛ける情熱は半端ではないのだ。まさに愛。



 超能力学園、男子寮。


 超能力番長の部屋にはソファでくつろいでいる隼人とメイリン、黒猫、メイリンのメイド達の他にブロム(卒業パーティ)を終えて日本に来ていたナード忍者がいた。


「そういえば、去年月に飛ばされた時。月の地下に何かいたでゴザル。」


 話題が去年のジョック来日の思い出話になったところで、ナード忍者が切り出した。


「あのときは死ぬか生きるかの環境でその後すぐに忘れていたのでゴザルが……今思えば、あれは何だったのか。」


「宇宙人がいるとか?」


 バーチャルネットユーチューバーの後継であるリアルサイコロイドユーチューバーの放送を止めて、メイリンが話題にはいってきた。


 ちなみにサイコロイドとは超能力で作られた動く人形で、歩く座るだけでなく喋ったりゲームしたり料理したり実況したり司書をしたり戦術予測したり歴史研究したり商品開発をしたり看護師やゴミ回収、危険な場所の作業をして働いたりすることができる。


 まるで魔法の使い魔のような存在だった。


 B~Cランクの超能力者は超能力対策庁と超能力学園に所属していないため、仕事や学校で使わない超能力を持て余してかつて職人たちがドールやボーカロイドにのめり込んだようにサイコロイドを研究してクオリティーの高い動画を毎日バンバンと発表していた。


 中には料理したり掃除したり朝起こしてくれる三次元嫁にとどまらず、アイドルとして人気を博したり、料理人や古代文学の研究者として一目置かれているサイコロイドもいる。


 超能力は可能性に満ちあふれているのだ。


 ちなみに顔出しして自分自身の超能力を売りにしているユーチューバーもいる。


 そっちのほうがお手軽なので多い。


 一番人気は『Sランクに挑戦してみた』動画だ。隼人は挑戦を断らないし、殺しもしないので実質隼人に挑戦する動画ジャンルといえる。


「宇宙人か……月にはいないな。」


 地球を支配していた宇宙人のことはまだ公表していない。三人の秘密だ。


 二年前の時点でホウライと剛剣は時期尚早と判断し発表を控えた。隼人はさっさと公表するべしと反対したのだが、多数決で引き下がった。


 なので、人類を滅ぼそうとしている宇宙人のことは三人以外は誰も知らない。


「隼人さん」


 黒猫が喋った。


 誰の声かとメイリンとナード忍者が室内を探す。メイドたちが首を横に振った。


 隼人は驚きもせず黒猫の前に来て床に座った。


「どうした?」


「驚かないんですね。」


「用があるんだろ。」


 隼人は先を促した。メイリンとナード忍者は驚きを隠せない。


「私はただの黒猫ではありません。アトランティスにかつて存在した古代人の作ったアンドロイドです。」


「アンドロイドは人形ヒトガタロボットのことなので猫型ならアンドロイドじゃなくてロボットなのじゃ。あとアンドロはギリシャ語で男性を指すので女性人格ならガイをつけてガイノイドと呼ぶって動画でいってたのじゃ。なので、リアルサイコロイドユーチューバーが女性の場合はリアルサイコガイロイドユーチューバーと呼ぶのが……」


「メイリン、その話は後でな。」


 隼人がメイリンのしゃべりを止めた。知ってる知識をひけらかしてほめられたいお年頃。


「むー、あとで聞いてくれるのじゃな。約束じゃぞ!」


 メイリンは特に機嫌を損ねない。隼人は約束を必ず守るので、ちゃんと後で聞いてくれるのだ。


 今まで一緒に暮らしてきた行動の積み重ねが信頼を育んでいる。


「月の地下には古代人の基地があり、そこにはアトランティス滅亡から生き残った古代人がいます。」


「そうか。」


「かつて古代人の王が長きに渡る瞑想の儀式を行い、肉体的進化の果てに到達しました。」


 どこかで聞いた話だ。


「その後、古代人達は宇宙人に滅ぼされましたが、一部の古代人は月の基地に避難して生き残りました。」


「続けてくれ。」


「古代人の王は文明の残骸をまとめてアトランティスごと宇宙へ旅立っていきました。」


 一晩のうちに沈没したわけではないらしい。


「月で生き残った古代人でしたが、地球には帰れませんでした。帰ったら宇宙人が再度やってきて殺されるかもしれなかったのと……地球がすでに、次の世代の知的生命体、人類が支配していたからです。」


 宇宙人と人類、両方を敵に回して戦えるか。


「古代人は月で生き残り続けました。そして地球を観察していました。望郷の念、人類への嫉妬、羨望、宇宙人への怒りを含んだ複雑な感情で……」


 気の遠くなる話だ。


「最近のマイブームはユーチューブです。」


「割と大丈夫そうだな。」


「しかし、二年前に転機が訪れました。かつてアトランティスを襲ったのと同じ『地球環』の出現。そして、はるか昔に宇宙人に殺され吸収されたはずのアトランティス人が生きていたのを発見したのです。」


 隼人には心当たりがある。


「それはまるきり昔のままで、しかし人間の服を着てピカピカの靴を履いて震災数日後の東京都、一部が崩落した首都高速都心環状線の下を歩いていました。アトランティスの市民でした。間違いなく。」


 隼人はじっと続きを聞いている。怒りも恐れもない。ただ真剣なだけだ。


 生真面目で堅物。


「その後に起きたことを月の古代人は半年かけて研究しました。そして、かつて宇宙人に殺され吸収された古代人はすべて宇宙人の腹の中で生存……少なくとも記憶が記録として残っていると結論を出しました。宇宙人は脳を吸い取って人を殺すブレインイーターだと思われていましたが、脳ごと情報を集めて保存する生きた百科事典エンサイクロペディアであるとわかったのです。」


「それで、古代人たちは何をするつもりなんだ?」


「サイコダイブを中断させて結城誠一郎さんを現実に引き戻します。そして活動を再開した宇宙人に喰われることでかつて死に別れた仲間たちと数千年越しの再会をしようとしています。」


「そうか。」


 人類も、とばっちりで全滅します。もれなく。と黒猫が付け加える。


「ちょっと月いって誠一郎を戻す方法聞いてくる。そのあと古代人は殴って自殺やめさせる。」



 隼人が立ちがる。


「だめー、だめなの、一人でいっちゃダメ!」


 メイリンがすがる。正直なんのことか全くわからない。だが、直感で隼人と一生の別れになると確信した。


「う、う……」


 不安で泣き出す。


「うああああん!」


 感情が抑えられない。


 一八歳の外見とのギャップがひどい。



 メイリンはまだ一歳と数ヶ月の年齢なのだ。初めて隼人と会ったのが生後一ヶ月。それからずっと隼人と一緒に暮らしてきた。


 Aランク超能力者どうしの子供は上位Aランクになりやすい。


 超能力者は動植物の成長を進めることができる。


 メイリンは生きた実例だった。第二世代の最初期グループだ。


 三人目にして最強のSランク、超能力者黄帝の養子として一ヶ月で教育されて隼人のところに送り込まれてきた。


「ち……ちちうえ、そうだ父上を呼ぼう!父上と一緒に行くのじゃ!父上と婿殿なら何が相手でもへっちゃらなのじゃ。」


 超能力番長と超能力黄帝のタッグを提案する。


「妾は本土でこそ暮らしていないが、父上の子どもたちの中ではもっとも知名度が高い!顔と名前も世界中に知られてる。超能力黄帝の子といえばまず妾じゃ!だから、妾が頼めば父上もきっと来てくれるはずじゃ。」


 第二世代の成長の速さの代表として、最もよく知られているのは確かだ。メイドたちが個人のブログやつぶやき、SNS、写真共有、プロフィール共有などなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスに投稿して共有されているメイリンの成長記録はフォロワーも多い。隼人関連の動画にもほぼ一緒に写っている。


「それは世界が黙ってないでござるよ。3:4で保っている世界のバランスが5:2になってアメリカEU連合が消滅してしまう。」


 ナード忍者からありがたいコメント。それはまるで賢者の助言。世界を救う一言。


「あまり実感はないぜ。」


「日本は西側サイドなので、隼人殿が東側である超能力黄帝と一緒に作戦を実施すると、政治的パワーバランスが崩壊して世界が滅びるのでござる。」


「それは悪いことなのか?」


「支配者が入れ替わり、伝統が終わるでござるな。」


 忍者のコスプレをしたアメリカ人が言っても説得力皆無。


 だが眼つきは本気だった。


「伝統か……サイコメトリー実況動画であらゆる神話が解体されて、伝統が飽きられていってるってメイリンが言ってたぜ。」


「新しい世代は恐れ知らずでござる。それでも、自分が今まで所属していた世界をいつまでも心の拠り所にしている人々は多いでござるよ。そこには共感があり、旧いほど強固。それが破壊されることは人生の平穏な居場所をこわされることに等しいのでござる。」


 隼人はメイリンを説得し、剛剣と共に月に行くことに落ち着いた。


 月に行けるのはSランクだけだ。


 Aランクを連れて行っても月までたどり着けないし、Sランクがサポートして無理矢理連れて行ったとしてもSランクの負担が激増する。AランクとSランクでは体力及び超能力の回復速度も大きく違うので、回復待ちの時間が大きなロスとなる。


 なので、月まで行けて役に立つ動きができるのはSランクだけなのだ。


 破滅の足音が近づいた。 

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