第31話 足止め
敷島はある予想を立てていた。自衛隊か米軍かそれ以外か。それは分からないが、とにかく友軍に接触するより先に敵に接触することになるだろうと。当然である。なぜなら自分たちは敵のど真ん中から敵包囲網を突破して友軍に確保してもらおうというのである。
ところが運が良すぎた。
彼らの向かった道は敵の連係ミスか、もしくは何かの策略か。ほぼほぼ敵がおらず、敵を見つけるより先に見方を見つけるに至ったのである。だがそれはつまり意識せぬうちに最前線に突入していたことを意味し、一切身構えることも準備することもできなかった。
「どこへ逃げれば」
「早くあっちへ。おそらくあれは自衛隊だ」
浦賀に指示を出した敷島は車の影から自衛隊のいる方向と反対を見る。その様子に浦賀・葛城・水波・嵩佐木の4人が足を止める。
「敷島、早く」
「残念だけど敵さんも逃がしてくれないみたいでな」
見ると自衛隊のいる距離よりも敵の距離が近い。さらに敵が何かしらの車両に乗っていることからしても、自分たちが自衛隊に保護してもらうよりも、彼らに追いつかれる方が近いだろう。
「殿は任せろ。いけ」
敷島は敵から鹵獲しておいた、使えるかどうかも分からない銃を手に取り答える。
「でも」
水波はここまで一緒に来た仲間を捨て置けないと立ち止まる。が、浦賀が彼女の背中を押し、そして葛城に告げる。
「後で追いつく。だからこの2人を連れて先に逃げて」
「……はい」
葛城は年上の男2人の覚悟を捨てるわけにはいかず、水波と嵩佐木の両女子の手を取り駆けだす。
「敷島、浦賀っ」
「任せろ。簡単には死なないから」
「必ず、必ず助けに来るから」
その言葉だけを叫んで逃げていく水波ら3人。
最後の言葉を聞いた浦賀は敷島と同じく、横転した車の影に隠れる。
「ったく。なんで逃げなかったんだよ。犠牲が1人で済んだのに2人に増えたじゃないか」
「馬鹿野郎。犠牲を0人にするために残ったんだよ」
このような状況でかっこいいことを口にする浦賀に敷島は目を丸くする。
「お、お前、この状態をひっくり返せるとでもいいのか?」
「いや、無理だと思う」
素直である。
「だが1人でも無理なことでも2人ならできるかもしれん」
「でも策は無いんだろ?」
「うん」
本当に素直である。
「ただ勝ち筋は簡単だ。時間を稼げばいい」
遠目に見ると自衛官たちがバイクに乗って前線へと突っ込んできている。さらに遠くからはヘリコプターの姿も。さらにさらにそのほかの車両も突入の構え。
「悪いことしたな。陸自には陸自のやり方があっただろうに、自分らがかき乱してしまって」
敷島のため息。なにせ要・保護対象の自分たちがいるせいで、準備砲撃を始めとした戦闘行動が制約を受けるのである。であるならばこんなところで殿なんて務めずにさっさと逃げてしまうのも手なのであるが、それをやると5人が先に追いつかれて全滅なんてのが目に見えている。
「仕方ない。可能な限り足止めして適当な物影に隠れようや」
浦賀はおもむろにカバンの中からハサミを取り出す。
「お前、それで戦う気か?」
「んなわけあるか」
そう口にして車の上から顔を覗かせる浦賀。すると意外とすぐ近くに敵が来ていたようで発砲音が響く。
「馬鹿。何やってんだ」
「やっぱ難しいか……敷島。敵の注意を引き付けられるか?」
「説明は?」
「している暇があるとでも?」
「わぁったよ」
敷島は車の影から飛び出しつつ銃を構える。発砲体勢に入っているとみた敵はただちにしゃがむが、敷島は当然のこと銃を使えない。ただの牽制であり、すぐに物影へと隠れた。その隙に車の上に登った浦賀、ハサミの先を迷うことなく車の給油口の隙間へと突き刺した。




