第32話 決意の火
「んぐぐぐぐぐ」
浦賀はおかしな声を出しながら、てこの原理で給油口を開けようとする。本来ならば力づくで開けるようなものではないのだが、開ける方法を知らないのだから仕方がないともいえる。しばらくすると鈍い音がして給油口が開き、ついでに蓋を外してしまう。ここまで来てしまえば浦賀の計画通り。
「敷島」
「はぁはぁ。ようやく、準備できたか?」
右に行ったり左に行ったりで敵をかく乱していた敷島。浦賀が小細工をしていた軽自動車のところまで戻ると、車にもたれかかりながら浦賀を見上げる。浦賀はすぐさま地面に降り、車の影へと隠れた。あまり車の上にいては敵からの集中砲火を受けることは想像に容易い。
「あとはこれを」
「……行け。浦賀。任せろ」
浦賀がカバンから出したそれを敷島が横取りする。
「いや、ここは僕が」
「どうせ……自分は1人じゃ逃げられねぇから」
そう言って視線を落とす敷島。見ると彼の右足は被弾したのか血にまみれている。
「お前……」
「だから、先に行って仲間を呼んできてくれ。頼む」
「……分かった」
頷いた浦賀は彼の決意を受け取りながら駆けだした。
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後ろを振り返らず駆ける水波・葛城・嵩佐木の3人。すると前からやってきた数台のオートバイ。そのうちの2台の運転手がバイクを乗り捨てるように放り投げながら降車し、他のバイクは3人の横を勢いよく抜けていく。
まるで数十年ぶりに恋人にあった女の子のような勢いで、その運転手の1人に飛びつくのは水波。その運転手――自衛官は迷うことなく彼女を受け止め、敵の攻撃から守るように後ろに下がる。
「た、助けて。まだあっちには私の友達が」
水波が必死で自衛官の1人に訴え、葛城と嵩佐木もまたもう1人の自衛官に訴え続ける。するとその時だった。自衛隊のバイクが浦賀や敷島の元へとたどり着くまでもうしばらくつくかという時に、5人の乗ってきた車が爆発を起こした
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少し前……
「浦賀たちが話してたよな。水波が逃げ出した時の話……」
詳しくは聞いていない。だがあの爺さんが彼女を逃がした時の現場を見た時、だいたいの事は察した。
敷島は覚悟した様子で敵が来るのを見定める。そしてすぐに数名の敵が車の後ろに回り込んできて、彼に銃を向けた瞬間だった。彼は最後の力を振り絞って車の上に駆け上がる。その行動に敵の銃口が火を噴き、彼の体を何発もの銃弾が貫通していく。それでもこれが自分の最後の瞬間だと、この一瞬にすべての力を使い切ると決意する。
「悪いな。浦賀……」
先に逃がした浦賀の背中を見送りながら目を閉じる。
「この体じゃ、どっちにせよ逃げられないんだ。仲間は呼んでくれなくていいから……お前だけでも逃げてくれ」
敷島は浦賀が銃撃に晒されるリスクを背負ってまでも開け放った給油口に、彼から奪い取ったライターを放り込む。その直後、ガス欠寸前だったタンクにわずかに残ったガソリンと、大量に含まれる酸素がライターの火で反応を起こした。




