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第1話 嵐の前の雷ジジイ

 11:45


「あぁ~もう12時か」


 なぜ高校生にもなって土曜日に授業参観があるのかと嘆きたくなる。というよりつい3時間ほど前まで嘆いていた彼は浦賀(うらが)新太郎。近くの高校に通う2年生であり、得意教科は数学・物理という絵に描いたような理系学生である。もっとも強いて得意な教科を言えば。というくらいではあるが……


「兄ちゃん」


 その後ろから声をかける少し背の低い少年。いかにも初々しさを見せる彼は、高校入学から半年経った葛城(かつらぎ)大紀。浦賀のことを『兄ちゃん』と呼ぶ彼であるが、苗字から分かるとおり兄弟ではない。友達の友達の弟くらいで面識はあったが、彼をそう呼び始めたのはまた別の理由である。しかしこの2人は話が合うのかいつも一緒にいるようで、彼の浦賀の呼び方も相まって周りからは「まるで兄弟」と言われているとか。


「本当だったら休みのはずだったのにさ」


「うん。いつもだったら朝からのんびりできたのに……」


 まだ土曜日に学校があった世代ならいざ知らず、小学校に入った時から今までずっと土日休みの世代にとっては土曜日登校は辛いものである。普段ならば宿題もすぐに終わらせるか、もしくは日曜日に押し付けるかして遊びにいくものだ。しかし登校とあってはそうもできない状況ではある。なんなら代休も無いらしい。


「まったく。土曜日の学校程度で」


 と、休日の学校で嘆いていると、いかにも年取ったおじいさんが声をかけてくる。


「げっ、雷ジジイ」


「誰が雷ジジイだ。まったく」


 口うるさいオヤジのことを『雷オヤジ』と言うが、オヤジというよりはジジイであるということで浦賀は『雷ジジイ』とよんでいる爺さん。このお爺さんは彼の近所に住んでいるのだが、既に90歳を軽く越えているにも関わらずとても元気にしている。


「だいたい休みなんて1日でいいんだ。もっと昔は日曜日が休みだったし、特に日本が戦争をしてた頃なんか――」


 と、言うのが雷ジジイたるゆえんの長話の始まりだ。なんなら戦争経験者で、しかも戦場に行った経験があるとのことでその話も特に長い。小学校時代の『戦争中の生活についてお年寄りに話しを聞いてきましょう』という夏休みの宿題で、彼のところに行って悪夢のような時を過ごしたのは浦賀にとっては懐かしい。


「それなのに近頃の若者はやれ休みが欲しいだのなんだのうるさくてかなわん。さっきも流れ星だの隕石だのと騒がしくしておって。家で静かにゆっくりしたい者もおるというのだから、もっと周りに気を使ってだな」


「あっ、ジジイの長話に付き合ってらんねぇんだわ。じゃあな雷ジジイ」


 というわけで浦賀、脱走。


「あっ、待ってよ。兄ちゃん」


 彼に引継ぎ葛城も追走。


「コラ。誰が雷ジジイだと」


 さすがに若者を追いかける余裕はないのかその場で怒鳴り散らす雷ジジイ。


 そんなジジイの怒号を背にしながらも、およそ100メートルくらいだろうか。距離が開いたところで足を緩める。高校生の今でこそ帰宅部だが、中学校まで運動系部活動に入っていた2人。100メートルくらいならばどうということは無いといったところか。


「はぁ、まったく嫌な人に会ったなぁ。毎日毎日うるさいジジイだこと」


 道を変えようにもここを通らなければかえって遠回りである。それだけに多少うるさくともこの道を使いたいものである。


「もうさっきからサイレンもうるさいしさぁ。なんだよ、みんな揃って休日に」


 そんな爺さんに加えて、パトカーであろうサイレンの音がけたたましく鳴り響き続ける。大方、近くで大きな事件があったのであろうが、そんなこと彼には知る由が無い。


「兄ちゃん。確かにうるさいけど、パトカーは仕方ないじゃん」


「それはそうだけどさぁ」


 下級生に宥められる上級生。

いろいろストレスがかかっている身からすれば、あることなすこと全てに不満をぶつけたいのである。こうしていると次第にクレーマーの気持ちもまったく分からないこともないような気がしてくる。部活に入るのが強制されていないのが唯一の救いと言ったところか。


 後輩以上に後輩らしい先輩が文句を漏らし、先輩以上に先輩らしい後輩がそれをなだめるという状況がしばし続いていたが、その先輩はふとすべての元凶に気付いた。


「休日授業も嫌だし、雷ジジイもうるさいし……もう、学校も無くなって、ジジイとも会わなければ最高なのになぁ」


 そもそも学校を辞めればその両方を成り立たせることもできるのだが、現代日本において高校は進学率90%台後半を常時維持する準義務教育状態である。もはや勉強したいわけでもなければ、それ以外の意味・目的も無い。そんな状況でも高校に行くことが常態化しているこの国で、高校に行かず生計を立てるというのはもはや一種の才能である。


「あぁ~、もう学校がなくならないかなぁ……」


 さらに文句を言いたそうにしていたが、直後に上から聞こえ始めた大きな音に言いかけた文句をまた新たな文句に切り替える。


「もう、今度はなんだよ。飛行機でも通って――あ?」


「え? あ、あれ、何?」


 見上げる2人。するとそこにはラグビーボールのような形をした、全長200メートルはあろうかという大きな浮遊体があった。飛行機のような翼があるわけではない。しかしヘリコプターのようなプロペラがあるようにも見えない。それなのに空中に浮き続けるその物体は、小さく開いた穴から細長いものを数十本放つ。勢いよく飛び出したそれは速度を増し続け地上へと突き刺さった。


「うおぉぉぉっ」


「わっ」


 数百メートル離れた場所にそれが落下すると、そこで爆発がおきる。そこだけではない。別のところではまた別の爆発が起きる。


「ば、爆弾!?」


「え? え?」


 2人にできることはとにかくその場にしゃがむこと。しかしそうしている間にもミサイルのようなそれが地面に降り注ぐ。


 彼らの日常はその瞬間に非日常へと変わった。


どうも、日下田弘谷です。

1話にして物語が動き始めたところです。

正直なところもう少し物語が動くのは遅くてもいいのかな?

とも思ったのですが、あまりだらだらしてると「いつプロローグの動乱の振りが回収されるの?」

ということにもなりそうだったので、『1話終了時点で』という形になりました


今作は日下田にとってもいろいろ初の試みもしますゆえ、

『1話が長すぎる(短すぎる)』『物語の進行が速過ぎる(遅すぎる)』などなど

正直な意見をお待ちしております

知識不足的な面は……教えてもらえるとありがたいですがご勘弁願います

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