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第2話 敵の前に雷ジジイ

 塞がった道を迂回したり爆撃を避けたりしていると、いつもなら10分程度で帰宅できるはずが20分以上かかってしまった。いや、帰宅できたと言っていいのだろうか。浦賀の住み慣れた家はそこには無かったのである。中古のオンボロ一軒屋とはいえ悲しみに暮れたいところであるが、状況がそうはさせない。すぐに立ち上がってとにかく学校へ戻ることにする。なにせ高校は災害時の避難拠点である。そこへ逃げれば皆もいるだろうし、こうして孤立しているよりはいいはずである。


「行こう。葛城」


「う、うん」


 我が家の崩壊を知り最も泣きたい浦賀であるも、そこは後輩の先陣を切り避難する。もっともその涙をせき止めるものは、先輩としての威厳と言うよりもこんな非現実を受け入れられないという常識なのかもしれないが。


 とにかく学校に駆けようとしたその時、遠くから甲高い声が聞こえ始めた。


「浦賀ぁぁぁ」


「え?」


 まさかこんなところで知り合いに出会えたか。そう思って声のした方向を見ると、自分の通う学校の制服を着た女子学生がいた。


「水波」


「よかった。知り合いに会えて」


 仲がいいわけでもなく、かといって悪いわけでもない。そして幼馴染というわけでもないクラスメイトだ。彼女はいつもならきれいに整っているであろう髪を振り乱し、血相を変えた顔で彼の元へ駆けて来る。


「なんでお前ここにいるんだ」


「家に帰ったけどもう……」


 彼女の家も無くなったらしい。


「家族は? 僕のところは大阪に旅行に行ってるけど」


 彼は近くに落ちた自分の家の名札へと視線を落とす。


「わかんない。今日は休みのはずだけど、もう逃げたのかも」


 動揺する水波であったが、葛城は急かすように浦賀へと声をかける。


「兄ちゃん。早く学校に逃げよう」


「あ、あぁ。水波。これから僕らは学校に逃げるつもりなんだけど、一緒にいかないか?」


「う、うん。私1人じゃ心細いし、付いていっていい?」


 特別な接点の無い水波であったが、ここはとにかく一緒に行動する方法を取る。こんな時にまで友人グループであるかどうかを気にしていることはない。


 3人揃ったところで、今まで迷いながら駆け抜けてきた道を戻る。だがこっちに来る時ですら遠回りせざるを得なかったのに、さらに時間が経つと先ほどまで通れた道も通れなくなってしまっている。もっとも家が破壊されたことで他人の家の敷地を通り抜けることもできたりしたが、さすがに燃え盛る中を突破することは不可能である。


 なんとかできる限りの最短ルートをとって学校へと向かおうとした時、目的地の方向から火の手が上がった。これだけの状況もはや360度どこから火の手が上がろうが、爆発音がしようが不思議ではないが、距離からして嫌な予感がする。


「も、もしかして学校が……」


「マジかよ。これじゃあ、学校に戻ってもダメか」


「でも早く逃げないと」


「逃げろって、いったいどこに逃げればいいんだよ」


「そんな私に聞かれても」


 SF映画に出てきそうな宇宙船のようなものが空を駆け、いたるところから火の手が上がる。むしろ人の死体を見ていないのが幸運なくらいに感じる惨劇である。そんな中で一体どこに逃げればこの状況から脱せるのか。右往左往していると、ついに彼らの元へと奴ら(・・)がやってきた。


「きゃっ」


「水波っ」


 いわゆる空挺降下か。風船のようなもので地上に降りてきた人型の人間ではないものに、水波が突き飛ばされる。彼女はブロック塀に叩きつけられ座り込んでしまうが、そんな彼女に一歩一歩と近づく人型。彼らはライフルのような、しかし映画に出てくるようなそれとは違うメカっぽい銃を構える。


「やめて、やめて」


 彼女は逃げようとするが、後ろはもう壁である。この動揺している状況では左右に逃げるという発想もできず、そもそも飛び道具を相手が持っている時点で、それでも逃げられる保証はないだろう。


「兄ちゃん」


「なんとかしたいけど、でも」


 浦賀と葛城も彼女を助けられるものなら助けたいが、いかんせん普通の高校生である。武器を隠し持っているわけでも、魔法や超能力が使えるわけでもない。ただ少し理系科目の得意な学生である。いかにも武器っぽいものを持っている相手に立ち向かえるものか。


 相手の目的も不明。ここで殺されるか、捕まるか。まったくもって分からない状況で、水波の命運も尽きた。


 そう思われたその時だった。けたたましいクラクションが彼の耳に飛び込む。こちらをひき殺すつもりの猛スピードで突っ込んでくる軽トラックに、浦賀と葛城が飛ぶように道の両脇に退避。すると彼らの目の前を走りぬけたトラックは、水波を撥ねないように避けながら、一方で人型生命体を思いっきり跳ね飛ばし、近くの家の塀に突っ込んで止まった。


 荒々しい運転ではあったが、結果だけ見れば彼女を助けた暴走トラック。いったい運転していたのは……


「まったく。早く逃げんか。とろとろしよってからに」


「じ、ジジイ」


 ドアを開けて出てきたのは雷ジジイだった。だがその醸し出す雰囲気は、若者を否定する頑固ジジイではなく、この国を守らんと立ち上がった歴戦の兵士のようだった。


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