最終話 結ばれる二人
最終話です。
お楽しみ下さい。
城塞都市ウンタラの夜は今日も賑やかである。
酒を呑み、噂話が飛び交い多くのモノが消費されていく。
そんな街を眼下に、騎士団、警備隊の報告書に目を通すバイセン。
「夕食はどうなされます?」
「軽く済ませる」
「では、そのようにソルに伝えておきましょう」
山のように積まれた書類に、次々に眼を通すバイセン。
静かに、時間だけが過ぎていく。
「……この前の襲撃、被害が少ないな」
「それは称号持ちが3名、特に弓聖さまの遠距離攻撃の効果というか、恩恵が凄いです」
「そうか」
「飛距離が攻撃魔法以上とは脅威ですよ」
「確かに目覚ましかったな」
「そこに剣聖と拳聖、主力部隊はほぼこの3名で潰しています」
「だが……強かったな、魔将軍まで来ている」
「近々何かあると?」
「警戒レベルを上げろ、次は俺達3名を標的にしてくるはず」
「……はい」
「王都に連絡をしておけ……ただ」
「ただ?」
「我らと魔族は時間の流れが違う、彼らの1年は我々にとって10年に匹敵する」
「10年か20年後に大侵攻があると?」
「次の剣聖や弓聖の候補を、探さなければ」
「それは王都の仕事ですよ」
「勇者は見つかったのか?」
「いえ、聞きません」
「聖女は?」
「それも」
「探せ、我々は我々で動く、王都任せだけではダメだ」
「分かりました……それから……まぁ余談ですが」
「余談?なんだ?」
「シュガーロッド様への貢ぎ物、まぁ主に花束ですが大量に届いております」
「?」
「城内外の者達の感謝の印だそうです」
「ほう」
城内で人気を二分していたこの二人、今は全部シュガーロッドに持って行かれている。
そう、人気投票ダントツでシュガーロッドが一位なのだ。
「噂の悪女がひっくり返ったか?」
なんか嬉しいバイセン。
「まぁ我々も評価がひっくり返りましたが」
「そうだったか?俺は……」
「酒呑んで荒れてましたよね?ソルに怒られるくらい」
コンコン。
「誰だ?入っていいぞ」
カチリ、とドアが開いて入って来るソルティ。
「食事でしゅ」
((聞いていたか?))
部屋中に漂い始めるハーブのいい香り。
「ん?これは?」
「ハーブ料理でしゅ、お肉や野菜、果物もハーブで味付けしていましゅ」
「珍しい料理だな」
「お口に合えば、光栄でしゅ」
「ハーブ?薬草?この料理は、どのような効果があるのだ、ソル?」
「……」
「ちょっと待て!?ソルッ!お前一服盛っていないか!?」
「ゲン?何を盛ると?これは新陳代謝を促し、汗の臭いも良き香りに変える優れものの料理でしゅ」
そう、今夜ガンバレ、と言わんばかり料理なのだ。
たとえ少量でも効果抜群!
一服どころか、大量に盛っているソルティ特性……特製の料理だ!
勿論このこと、シュガーロッドは知らない。
知らないどころか、シュガーロッドはもうこの料理を、美味しい美味しいと言って完食している。
「ほう、鍛練向きの料理か?」
(若ぁ!分かって言ってます!?)
「はい、疲れも取れましゅ」
(ソル!疲れ知らずになるんじゃないでしょうね!?)
「毒味を」
そう言ってさっ、と一口食べるゲンジロウ。
「!?」
「どうでしゅ?」
「うまい」
「当然でしゅ!ささ、どうぞ、お食べくだしゃい。こちらはゲンのでしゅ」
「私のもあるのか?」
(さっさと食べて、一緒に来るでしゅ)
(え?)
(今夜は私とゲンの二人で、デートでしゅ)
(は?)
(デート内容は、城内外の警備でしゅ。姫しゃまとバイセンしゃまの邪魔をする奴等の駆除でしゅ、いいでしゅね?)
眼がマジだ。
あ、これヤバいヤツだ。
はい、以外の選択肢、無いヤツだ。
ゲンジロウは静かに頷いた。
蘇る回避不可のローキック。
そしてソルティの夕食を済ませ、部屋に向うバイセン。
日中のちゅーが頭から離れない。
部屋に向って歩き、ドアに近づき始めると、ドキドキと心音が増した。
ドアを開けると、そこにはシュガーロッドが待っていた。
「お帰りなさいませ、バイセンさま」
「……あ、ああ、ただいま」
「お風呂の用意ができていますが、何か飲まれますか?それとも……んっ!?」
「釣りの汗を……一日の汗を流すとしよう」
「……はい」
(きゃああああっ!?お、お帰りと同時にキス!?ど、どうしましょう!?)
(いいよな?妻だし、嫁だし、奥さんだし、キスしていいんだよな!?)
さっ、と浴室に入るバイセン。
(せせせせ背中を流した方がいいのかしら?む、むり!今の私には無理っ!し、刺激が強すぎますっ!)
「ガウンと着替え、ここに置いておきますね」
「ああ」
(きゃああああっ!バ、バイセンさまの下着、初めて触りましたぁ!)
大丈夫か?と思うくらい初心者な二人。
そう、今まではソルティが用意していたのだ。
この二人のお世話をするソルティ、今日はお仕事お休みである。
いや、城内外で別の仕事をしているのだが。
(こ、これから夫婦としての生活が始まるのですね)
カチッ、ドアが開くとガウンのバイセンが現われる。
「では、私も汗を流して参ります」
「ああ」
脱衣所でシュガーロッドは、バイセンの下着を目にする。
「あれ?お気に召さなかったのかしら?」
ここで考える。
と、いうことは?
(バ、バイセンさま、ガウンの下はマッパ!?)
更に考える。
(こ、これは、ふ、夫婦間の合図なのかしら!?)
そして湯船に体を沈めるシュガーロッド。
傷痕だらけの体。
(ああ、ついにこの体をバイセンさまの前に……)
そしてシュガーロッドもガウン一枚で浴室を出る。
水を一杯飲むと、寝室ドアを開けバイセンを探す。
(し、心臓が口から飛び出しそうですっ!)
そこに彼女の夫であるバイセンが立っていた。
二人は寄り添い、お互いの背中に手を回し、口づけを交す。
そして、シュガーロッドの世界は全て「あ」になった。
「あ…」
「あ?」
「あっ」
「あ!?」
「あっ」
「ああ」
「あぅ」
「あぁ」
「あ!!」
バイセンの世界は全て「ん」になった。
「ん…」
「ん?」
「んっ」
「ん!?」
「んっ」
「んん」
「んぅ」
「んん」
「ん!!」
そして二人の世界は一つになった。
「あん!」
「んぁ!」
その日二人は時に優しく、時に激しく、深く結ばれた。
朝、二人はお互いを見つめ、「「おはよう」ございます」と明るく挨拶をした。
そして耳まで真っ赤になり、眼を逸らした。
((なんか凄いことした気がする))
これから二人は溺愛モードに突入する!
剣聖であるバイセン、弓聖であり拳聖次位のシュガーロッド。
いつ、どこで命を落とすか分からないのだ。
朝は挨拶したが、夕は会えないかも知れないのだ。
北の辺境はそんな場所、それが日常なのだ。
それは剣聖だろうが弓聖だろうが関係ない、戦いで多くの命が失われていく場所。
その緊張の中で、二人は愛を育んだ。
お互いを気遣い、敬い、後世に言葉を残すほどの夫婦になったのだ。
王都の遙か北、そのまた北の辺境の大地に『センシュウ』という言葉が生れた。
バイセンのセン、シュガーロッドのシュウだ。
仲の良い友人や恋人、夫婦のことを言うそうだ。
更に戦場に『センシュウの誓い』と言う言葉もある。
相手を裏切らない、という誓いで、これを破った者は北の空と大地、祖霊を穢した者として北の民から放逐される。
それ程の言葉を二人は残した。
そしてこの二人の間に、新しい命が生れる。
……ほんぎぃ、ほんぎぃ……
「産まれましたでしゅ!!!!!!!!」
「シュガーは!?子どもは!?」
「母子ともに健康でしゅ!」
「それで!?」
食い付いたのは義母のシューナーだ。
「お姫様でしゅ!」
「うきゃああああぅ!よく頑張りましたねぇ!シュガー!」
第一子、誕生である。
ベッドで愛児を抱いているシュガーロッド。
慌ただしく生れた子どもを見ようと、部屋に入り押し入り、その姿を見てバイセン他、シューナーもドバシィもマルもカクも固まった。
「こ、これは!?」
いや、ドン引きか?
シュガーロッドは気づいていないが、赤子の周囲が金色に輝いているのだ!
「……ソ、ソルティ、これは?」
「聖女しゃまでしゅ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「生れた姫は聖女しゃまでしゅ、間違いありましぇん、剣聖であるバイセンしゃまでしたら、お分かりのはじゅ」
「……確かに……聖女だ……」
……ちゅっ、ちゅっ……
早速授乳しているシュガーロッド。
聖女は成長が速いのだ。
「美味しいですか?沢山飲んで大きくなってくださいね」
その目はとても優しく慈愛に満ちていた。
その姿はまるで……。
……ちゅっ、ちゅっ……
「咬まないで下さいね、上手に吸ってください、そうそう、バイセンさまみたいに……バイセンさまったら、とても優しくて……」
はいっ!シュガーロッドのセリフ、ここまでっ!
「あ、バイセンさま、見て下さい!生れました!女の子です!」
「ああ、元気そうだ」
泣きそうなバイセン。
子どもとシュガーロッドを見て、大感動中である。
「はい……」
「ん?」
「……その……」
「どうした?」
「今度は男の子が欲しいです、小さいバイセンさまみたいな」
「!」
「沢山欲しいです、大きく育てて、皆で仲良く暮らしたいです」
(俺ら侯爵家は結構ビンボーなんだが)
「「「バイセン、ここは任せておけ、というところだぞ!」」」
祖父と叔父になったドバシィとマルとカクが口を揃える。
シュガーロッドに向きなおり、宣言するバイセン。
「シュガーロッド、任ぜておげ」
(((((……咬んだ)))))
「ちょっと来い、バイセン」
「……はい、父上」
別室で話しをする親子。
「聖女が生れたなら、王都が動き出す」
「!」
「奪いに来るぞ、バイセン」
「たとえ勅命でも渡しません、我が子です」
「よく言った、俺も死守する……初孫だしな」
更に月日が流れる。
それと同時に問題も膨れ上がる。
二人目は男の子で、なんと勇者であった。
三人目も男の子で聖槍。
四人目は女の子で聖召、超絶召喚士。
五人目も女の子で聖斧次席。
六人目は男の子で賢者次席。
母は弓聖で父は剣聖、メイドは拳聖。
辺境の地、城塞都市ウンタラに獣王以外の称号が全て集まる。
まぁ作者の予想だが、ソルティの子どもが多分、獣王でしょう。
旦那さまは誰か知らないが。
そして聖女が産まれてから20年、魔物の大侵攻が始まる!
「母上、もうトシなんです!第一線から引いて下さいよぉ、心配で」
「まだ38ですっ!現役ですっ!」
そこには、魔物の大軍を相手に真紅の弓を引く皆のお母さん、守護者シュガーロッドの姿があった。
「お兄さまのマザコン、よく聖槍が務まりますねぇ?」
「はぁ?う、うるさい!このファザコン!」
「な、なんですって!娘が、お父さんを好きなのは当り前ですっ!」
「変なモノ、召喚するなよ?」
「きいいいっ!言ったわねぇ!見てなさい!」
竜王と鳳凰を召喚し、魔物の大軍を焼き払う聖召!
それでも侵攻は止まらない!
数百万を超える魔物の大軍なのだ、そう魔王が動いたのだ!
魔王と剣を交える剣聖。
「俺に譲れ」
彼は恐ろしい声でそう言った。
「何をかな?」
突然の問い掛けに心理攻撃か?と思う剣聖バイセン。
「しかし人間のくせに、勇者以外で我と対等だと!?」
「鍛えているんでね」
「ふん、鍛えられているのだろう?あの女に!譲れ!あの女を!あの女こそ我が嫁に相応しい!」
「……は?」
「あやつの魔力は光り輝いている、その光は我々すら癒やす光……妻にしたい、金ならいくらでも出すぞ?」
「……お前なら金で譲るか?」
「まさか」
「だよな」
「なら奪うまで!」
が、奪えなかった。
長男はなんせ勇者、長女は聖女、その他子供達はそれぞれ称号持ちしかいない。
魔王軍は3度攻めたが、城塞都市ウンタラは落ちなかった。
誰も、どの魔物も城塞都市ウンタラを越せなかった。
ここでバイセンは思った。
(え?ならこの侵攻、シュガーが目的?)
魔族との大戦、世界規模で被害が出ている。
城塞都市ウンタラは落ちなかったが、他の大陸ではとんでもないことになっている。
一応魔族は引いたが……。
長男の勇者も頑張って魔王に一太刀浴びせた。
バイセンは思った。
取敢えず、シュガーには黙っておこう、と。
いや皆には黙っておこうと。
国どころか、魔族の被害で世界が傾いているのだ。
(……シュガー、どこで魔王と出会った?……今夜聞いてみるか)
まだまだ現役のバイセン40歳。
「ゲンジロウ、シュガーは?」
「ミュー様と……聖女様と一緒に野戦病院です、行かれますか?」
「ああ、無事を確認したい」
そこは無数の戦士達が手当を受けていた。
その中に一人、特に酷い重傷者が!
「お母さん、この方は……その……」
「姫しゃま、重傷でしゅ、血が、血が止まりましぇん!早く!」
「ミュー、何をしているのです、早く傷を!深手です!あなたの力で!」
傷口を必死に抑え、圧迫による止血を試みるソルティ。
「……通用するのかしら?」
「何をいっているのです!早く!」
見た目こそ、一般兵だがそこには勇者の一太刀浴びた魔王が横たわっていた。
(お前、何してんだ!?)
バイセンが魔力で話し掛ける。
(こっちのセリフだ!倒れていた俺を聖槍が見つけ、拳聖が運び、弓聖と聖女が治療している!勇者はまだ俺にトドメを刺そうとウロウロしているのに!挙げ句、剣聖が見舞い!?)
(見逃してやる、動けるようになったら、さっさと国へ帰れ!)
(弓聖を連れてか?)
(一人・で・だ・!)
(俺にトドメを刺さないのか?)
(聖女が止めるだろうな、シュガーも)
(……ヤダ)
(はぁ?)
(帰りたくない)
(駄々こねるんじゃねぇ!)
これ以降、魔王は時々城塞都市ウンタラに遊びに来るようになった。
いや、実は前々より頻繁に城塞都市ウンタラには出入りしていたのだ。
皆が気づかないだけで。
そして数年後、この世界が始まって以来の出来事が起る。
魔族との不可侵協定が結ばれたのだ……まぁそれは別の話だ。
こうして世界は平和に向かい始めた、というお話しです。
めでたし、めでたし。
(仮)俺の花嫁は、傾国の悪女ではない、多分。
おわり。
おっと、これは仮題でしたね、ではタイトルを変更します。
実は、これが本当のタイトルです。
悪女と呼ばれた花嫁は、遠い辺境の地で聖母と呼ばれるようになった。
完。
面白かったですか?
毎回ご愛読、ありがとうございました。
このお話の中で、一番の悪女はシュガーロッドの母親なのです。
とにかくシュガーロッドが嫌いなこの王妃は、聖槍が亡くなると、あちこちに嫁に出します。
それも危険なイヤなところばかりに。
しかし、結果は全て国の領土が増えるとい皮肉な結果に。
最後には北の辺境に送られますが、彼女は幸せになってしまいます。
まぁこれは本編から外したエピソードですが。
あと、マルとカクにもエピソードがあったのですが、お話しの都合上、省きました。
おまけ
「またですか?魔王さま」
「ケチケチするな」
「いいですか、これは大変貴重なお酒で、とんでもなく高価なのですよ?」
「知ってるよ」
「ホントですか?人族の王都では薄めて呑むくらいの、お酒なのですよ?」
「はぁ?原酒が一番だろうが?」
「やめて下さい!たとえ魔王さまでも原酒を呑んだら倒れますっ!とんでもない魔力のお酒なのですから!」
名も無い商人Aは、今日も『竜倒し』を持って城塞都市ウンタラに向う。
はい、実は彼が魔王だったのです。
高評価、お待ちしております。




