俺が侍従になってから
侍従になってからわかったことがある。ブランシュはわがままなところがある。
花瓶の花が気に入らなければすぐに別のものと交換する。まあそれは普通だとしても、それが日に五回も続けば十分わがままだろう。
自然が好きで、昆虫を良く捕まえては虫かごに入れて飼う。虫嫌いな奥様が捨ててこいといっても御構い無しである。大体数日後には飼い猫の餌食になってるが。
食べ物が好みでなければ絶対食べない。好みも気分によるのでシェフがどう頑張っても無駄。
紅茶を出されても、今日は熱々が飲みたい気分、今日はぬるめの気分と好き勝手を言い俺を困らせる。以前はメイドの仕事だったのだろう。可哀想に。
それでもブランシュは屋敷でとても愛される。何故なら、わがままを叶えてもらった後に必ず満面の笑みでありがとうを言うからだ。貴族が使用人に礼を言うなどあまりない。それもあの可愛いふわふわした笑顔付き。誰もブランシュを憎めなかった。
それに、ブランシュはわがままなくせに優しい。使用人たちが何か困っていれば父親に直談判しに行くし、使用人たちの実家の家族が病気になったと聞けば宝石を一つプレゼントして治療費に当てさせようとする。ブランシュはわがままで世間知らずだけど、その分無垢だった。
そんなブランシュはある時俺に言った。
「そういえば貴方お名前は?」
いや遅ぇーよと思ったが名無しだと正直に答えた。ちょっとだけ、恥ずかしかった。意味くらい、俺にだってわかる。
「それは名前ではないわ!私が考えてあげる」
ブランシュはどこまでも純粋だった。命名図鑑を図書室にわざわざ寄って引っ張り出してきたブランシュに俺は早々に白旗を揚げた。わがままブランシュに名無しの俺が叶いっこないのだ。
しばらくうーんうーん、と悩んでいたが、ピタリと止まった。
「リオネル!貴方は今日からリオネルよ!意味は小さなライオンですって!」
語感が気に入っただけなんだろうなー。でもまあ、目の前のブランシュがあまりにも嬉しそうだから、俺もつられて笑ったのだ。獣人の俺にはお似合いの名前だしな。
「リオネル!貴方は私だけの大切な人よ!ずっと側にいてね」
「もちろんです、ブランシュお嬢様」
たとえこの身が朽ちようと、ずっと側にいる。そう誓った。