俺が使用人になった日
俺は屋敷に着くと真っ先に風呂に入れられた。生まれてからずっと風呂なんて上等なもの入ったことない。垢が流しても流しても出てくる。うへぇと思っていたが、使用人たちは顔色一つ変えずむしろ俺に優しい笑顔を向けてくる。プロだ。
なんとか垢とノミをシャンプーと石鹸で流しまくり、湯船に浸かる。入浴剤入りとか貴族すげぇ。疲れた身体に気遣いが染みる。
風呂を出たら、本当に新品の服と靴を貰った。着た。なんなんだ。お貴族様の考えることがわからない。
着替えたら今度は馬鹿みたいに美味い飯を食った。なんだこれ、美味い。
部屋を与えられた。一番狭い使用人用の部屋らしいが、十分広い。ここまで待遇がいいと怖い。
今日はこのままお昼寝していいと言われた。疲れたから爆睡した。
目を覚ましたら医者が来た。なんか色々検査された。怪我用の塗り薬を貰った。病気はないらしい。
病気はないと聞いて、セバスチャンとかいう執事が礼儀作法の勉強を教えてくれることになった。面倒くさい。
毎日午前中は洗濯とか掃除とかの家事全般のお手伝いをして、午後はセバスチャンの授業を受けることが仕事らしい。いずれはお嬢様の侍従になれ、とのこと。あのふわふわした可愛い笑顔の女の子か。
…まあ、悪くはない。
俺はまあまあやる気を出して頑張った。今更スラムになんて帰れないし、行くあてもないし。追い出されるわけにはいかなかった。
真面目な態度と、記憶力の良さが功を奏しさっさとお嬢様付きの侍従に格上げされた。セバスチャンは元々執事長らしく、俺がお嬢様付きになるから別の仕事に戻るそう。忙しいんだな。
「お嬢様、今日からお嬢様の侍従になります。よろしくお願いします」
名無し、なんて名前はなんとなく名乗りたくなかった。ブランシュ・ルイゾン。物知らずな伯爵家の箱入り娘。その人が今日から、俺の主人だ。
「ブランシュでいいわ」
「では、ブランシュお嬢様とお呼びします」
「…まあ、それでもいいけれど」
ちょっと不服そうなブランシュが可愛い。
「ねえ、私の飼い猫が鳥を追いかけて窓を飛び出してからまだ帰ってこないの。見つけてきて」
「かしこまりました」
他の使用人たちに、猫の特徴を聞き探す。案外と簡単に見つかって、連れ帰る。
「ブランシュお嬢様。この子ですか」
「ルナ!おかえりなさい!」
「にゃー」
ふわふわした可愛い笑顔に癒される。頑張った甲斐があった。




