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メスガキをわからせる第九話


 場の概念がある。

 そのことが判明した時、真っ先に俺の脳裏に浮かんだのは、なぜ? という疑問だった。


 場の概念の存在そのものに疑問を覚えたのではない。なにせそれ自体はすでに存在する可能性を考慮していた。だから疑問を覚えたのはそのもう一歩先。


 なぜ今、その《場》が適応されているのか、ということだ。


 ポポにハートでスート縛りをしたのは確かだが、それはすぐに破壊されてしまった。にもかかわらず、場は流れることなくスート縛りのまま継続されている。


「――つまり、スート縛りはまだ発動している」


「……それがどうした~? ポポには効かないって分かってるだろ~?」


 確かにその通り。見た目は幼女でも、その正体は魔王軍幹部。そんな強敵にただ能力を使っても効果はない。


「ポポ・グラン・デウスディル。確かにおまえは強い。強すぎると言ってもいい。何度も言うが、こんな序盤に出会うような敵じゃない」


 それこそ、大富豪で言うなら俺が数字の3や4程度の強さなのに比べ、ポポは絵札やA級の強さを持っているようなものだ。格が違いすぎる。


「しかも、手加減してそれだろ? もし本気を出したらいったいどれほどの脅威になることやら……」


「それをわかってて~、そんなつよくてつよ~いポポに勝てるつもりでいるのか~?」


「強くて強いからこそ、お前は負けるんだ」


「…………ん~?」


 矛盾する俺の言葉に、ポポは意味が分からなそうに首をかしげる。


 そうだよな、普通の能力バトルなら強いほうが勝つに決まってるよな。


 でもな……バトルじゃない、大富豪ってトランプゲームは、弱い方が勝つこともあるんだよ。


「ほんと、場の概念があって助かった」


 トランプの中からハートのJを手にし、それをそのまま地面に落として俺は役を発動した。



「――《Jバック》」



「んなっ、なんだぁ~!?」


 落としたJが地面に吸い込まれるようにして消えていき、その瞬間ポポから発せられていた強者の風格が霧散した。そしてその現象にポポが驚愕し戸惑っている隙をつくように、さっき破壊されたスート縛りが再びエネルギーを纏いポポを拘束した。


「んぎぎ~~こ、こんなのまたすぐに壊して……」


「無駄だポポ。Jバックは強弱を入れ替える効果がある。つまりさっきまでこの場で最強だったお前はいま、逆にこの場で最弱になってしまったってことだ」


 もしJバックが、八切りやスート縛りのように相手に直接叩き込まなければ効果がない能力だったらこうは上手くいかなかっただろう。八切りのように動きが速くなるわけでもないのだし、能力を使おうと近づいたところでポポに攻撃されて終わりだ。


「いやぁ本当に場の概念があってよかった! Jバックは場に干渉する能力……つまりお前に近づかなくとも安全な場所で能力が使えるんだからなぁ!」


「うにゅにゅ~……で、でも~、つまり場が流れれば元に戻るってことだろ~? それまでポポがやられなければいいだけなのだ~! いくらポポが弱くなったところで~、弱いお前なんかにやられるほどじゃ……………………弱、い?」


 まるで致命的な何かに気が付いたように、ポポは顔を青くしていく。


 そうだぜポポ。俺は弱い。最弱レベルに弱い。つまり――


「はーはっはっは! 気づいたかバカめ! だぁからさっきから言ってんじゃねぇか『場の概念があってよかった』ってよぉ! Jバッグの効果はお前を弱くすることじゃねぇ! 強弱を入れ替える効果だ! そしてぇ! 場に干渉する能力ってことはつまりっ! お前だけじゃなく、この場にいる俺にもその影響があるってことだ! さっきまで最弱だった俺は、今この場じゃぁ最強ってことなんだよぉ! ふーはっはっはっはー!」


「う……あ……うあぁ……!」


 顔を引きつらせ大量の冷や汗を流す幼女を見下ろしながら高らかに笑う。


 あぁ、なんて最高な気分だ……! 調子に乗ったメスガキを分からせるこの快感……!


「ご、ごめんなさい……ゆ、ゆるしてほしのだ……」


「くっくっく……ごめんで済めば警察も魔王も神もいらねぇんだよ!」


 さて、どう料理してやろうかな。


「あの、ヒキガネさん。お楽しみのとこ申し訳ないんですが……」


「なんだエリン。俺はいま勝利の余韻に浸っているところなんだ。邪魔をするんじゃない」


「いえ、そのぉ……良い話と悪い話がありまして」


「はぁ? なんだそりゃ。またこれを観てる神連中関係か?」


「ええ、その、まずはですね、今のヒキガネさんの鬼畜ド畜生ぶりが、神チューブでは罵倒の嵐で大反響というのが一つ」


 鬼畜? 畜生? 何のことだろう。俺は知恵と勇気を振り絞って魔王軍幹部をやっつけたというのに。


「続いて悪い話なんですが」


「ちょっと待て! 今のいい話だったのか!? 鬼畜ド畜生って言われてんだけど!?」


「で、悪い話の方がですね――」


「聞けよ!」


「――テコ入れ、だそうです」


「……はい?」


 テ……テコ入れ?


「え、つまりなに? 神連中が介入してくるってこと?」


「いえ、あの、めっちゃ言いにくいことなんですけど、その、ポポさんが神チューブでかなり人気がありまして……それでなんか、仲間にするようにって……」


「え、ポポが~?」


 話題に上がったポポがキョトンとした顔でこちらを見てくる。


 ふむ、こいつを仲間にか…………いいんじゃね? 魔王軍サイドもこっちの神関係の事情を知ってるってことは、こいつが魔王軍幹部ってのも問題にはならなそうだし。しかもこいつめっちゃ強いし。俺の欲しかった代わりに魔王と戦ってくれる戦力にもなるし……え、めっちゃいいじゃん。絶対仲間にしよ。


「というわけだポポ。仲間になれ」


「ちょっ、ヒキガネさん!? もう少し考えてから――」


「別にいいぞ~」


「決断が軽い!」


「そんなこと言われてもな~。よ~するに~、魔王軍を裏切って仲間になったって設定になるだけだろ~? ポポ的には何も問題ないぞ~」


「設定って……いやまぁ、そちらの魔王軍を用意したのも上の神様方ですしそりゃそうなんですけど……」


「まったく、上が我が儘だと現場の俺達が苦労するぜ」


「そうだな~」


「なんかもう仲いいし……」


 おっと、仲間になったんなら能力を解除しないとな。いつまでも幼女を縛り上げているわけにもいくまい。


「さて、色々あったが今から俺達は仲間だ。よろしくなポポ。お前にはエリンとは違って期待してるぞ」


「お~よろしく~」


 期待の新人に手を差し出し握手を求めると、ポポも快くそれに答えて力強く握ってくれた。そう、力強く、だ。


「痛い痛い痛い痛いたいたいたい!」


「おぉ~っと、悪い悪い~。ちょ~っと強く握りすぎたぞ~」


「悪いって言いながら全然力が弱まらないっっっったぁい! も、もしかして怒ってらっしゃる!?」


「別に~、さっき縛り上げられて~、怖い思いをさせられて~、謝ったのに許してくれなかったことなんて~、全然怒ってないぞ~?」


「絶対怒ってる! ごめん! ごめんって! 許してくださいポポさんっったい痛いぃいい!」


 こ、このクソガキめ! やっぱ仲間にするなんて言わなきゃよかった!



「んま~とりあえず~。これからよろしくなおまえら~」


「いったぁぁああああいッ!!」



 俺の右手を犠牲に、怪力幼女が仲間になった。


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