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二百十三

「……それで、話とは何かな?」


 命からがらおばさまから逃げ(おお)せ、席に着いて一息ついた頃オジサマが口を開いた。


「ええ、話というのはカナさんが行った『呼び掛け』に関する事です。カナさんは頑なに知らぬ存ぜぬを貫き通していますが――」


 酷い言い様だなオイ。私はホントに知らないってば。


「あの時、私達の知らない存在に『呼び掛け』を行いました。この世に知られていない存在って居るのでしょうか?」

「……魔術に関してはオレもよく分からないが、あり得ない話では無いだろう」

「そうね。何せあの世界は底なしよ。私達が知らない存在が棲んでいてもおかしくは無いわ」

「そうですか……」


 ルリさんは人差し指の腹を唇に当て、うーん。と考え込んだ。


「あの巨大な気配。恐らくは……」

「ええ、間違いなく上級精霊ですわルリ姉様」

「だよねぇ……」

「そんな訳だからカナちゃん。魔術は使用禁止。今後は剣術中心でいきましょ」


 おばさまから再びメッ。を頂き、シュン。と項垂れる。あーあ、魔法が使えると思っていたのにな……




 にゅるんっ。(くだん)のアレが顔を出す。同時に、アレ独特の香りが顔を舐めて立ち昇っていった。昨日は早朝から訓練だった事もあり、今日は僅かながら量が多い。


 予定日まであと少し。流石にオジサマの家で産み出す訳にはいかないので、何かしら理由を付けてアパートに戻ろう。と思っていると、個室のドアがノックされた。


『カナさんまだぁ?』


 何処か切羽詰まった様なルリさんの声に応え、身なりを整えてドアを開けると、朝各ご家庭でよく見られる(いくさ)。つまり、トイレ戦争の真っ只中だった。


「すみません、お待たせしました」

「うっぷ。カナさん結構キツイ……」


 言いながら、ルリさんは個室のドアを閉めた。お、オジサマの前でそんな事言わないでっ!


「す、すみませんオジサマ……」

「別に気にする事は無い。腐臭に比べたら微々たるモノだ」

「お父様、それフォローになってませんわよ」


 ふ……腐臭って……




 訓練二日目。魔術があんな事になった以上、剣術に頼るしか無くなった私は今、オジサマと見つめ合っていた。


「やあっ!」


 横薙ぎに払った木剣は、オジサマが持つ木の枝で簡単に弾かれ、直後にオデコに痛みを感じた。


「ただ剣を振り回すな。簡単に弾かれて命を落とすぞ」

「は、はいっコーチっ!」

「いいか? 近接戦闘では如何に相手の姿勢を崩すかで勝負が決まる。力の乗っていない剣撃なぞ相手を悦ばすだけの鞭に過ぎん」


 確かに殺傷能力がなければ相手は喜ぶだろうけど、その表現どうなのよ。


「さあ、もう一度だ」


 真剣な表情でビシリッ。と構えるオジサマ。その佇まいに胸をキュンキュンさせながら、オジサマの胸に飛び込んだ。


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