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二百十二

 ただ目を閉じて、術のイメージを固めていただけなのに、ルリさんとリリーカさんは私が誰かに対して『呼び掛け』を行なっていたという。


「私は誰にも『呼び掛け』をしてませんよっ!」

「ですが、確かに――」

「もう良いわリリーカちゃん。カナさん、一つだけ言わせて」

「な、何ですか……?」

「魔術全般使用禁止っ」


 はうっ!?


「ぜ、全面禁止……」


 ガクリ。とその場に膝を着いた。おばさまに続き、ルリさんからもメッ。を喰らう事になるとは……


「それと――」


 まだあるのっ!?


「ご馳走様でした。またシよーね」


 ニッコリ。と微笑むルリさんに、一瞬何の事やら分からなかった。そして、その意味に辿り着くと同時に、顔が火を吹き出した様に火照り出す。


「も、もうしませんっ!」

「照れなくたって良いわよぅ」


 別に照れて言った訳じゃないっ。


「あ、じゃあこうしましょう」


 ルリさんは掌をポン。と軽く合わせる。


「私かリリーカちゃんの前でなら術の使用を解禁するわ」

「それは良い提案ですわルリ姉様っ」


 あんたもソッチ側かいっ。誰が魔術なんか使ってやるもんか。そう決めた瞬間だった。




 ――夜。初日の訓練を終え、オジサマの家で夕食を頂く事になった。おばさまが腕を振るった料理の数々は、ちゃっかり泊まる事になったルリさんの分も含め、有り余る程の量があった。おばさま、多く見積もり過ぎです。


「お口に合えば良いのだけど……」

「いえいえ、凄く美味しいですよ。このスープなんて最高です」

「あらまぁそう? 沢山食べてね」


 ルリさんにベタ褒めされ、おばさまは上機嫌だ。


「ところで『英雄』殿、少しお聞きしたい事があります」

「……その『英雄』っての止めてくれないか? ケツの穴がムズムズする」

「お父様。食事中ですわよ」


 ナイフとフォークを使ってポテトの様なサラダを口に運びながら、リリーカさんは澄まし顔で言った。


「では、何とお呼びすれば宜しいでしょうか……?」


 カチャリカチャリ……。少しの間、ナイフとフォークの音だけが響く。


「……グレイ。それが名だ」


 グレイっ!? オジサマってグレイって名前なんだ。初めて聞いた。ロマンスグレーの素敵なオジサマに、『グレイ』という名前が付いているのはきっと偶然では無い筈。


「生まれた時から運命付けられていたのね……」

「お姉様。声に出ておりましてよ」


 へ……? き、気付かんかった。


「昼間の件で少し壊れたみたいだから、もう一度熱いベーゼを交わせば元に戻るかもしれないわね」

「じゃあ今度は、気を失う様な大人のキスをおばさんが伝授するわね」

「え、ちょっ!」


 迫り来るトドの様な身体とタラコ唇から、必死になって逃げ回った。こんなのに吸い付かれたら、気を失うどころか窒息死させられちゃうっ!

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